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  ヒーローとヒロインは今から半年後、確かにその茶葉販売店で出会う。
  でも、それはソフィアが殺された事による調査の為に訪れたので、私が殺されないと起きない事だとばかり思っていた。

  (だから、ロディオ様が恋人にせよ婚約にせよ、私との契約を終了する半年後は、違う形でもいいから二人を出会わせる事が出来たらと思ってはいたけれど) 

  まさか、こんなに早く出会うなんて!
  理想の頬っぺた……は知らないけど、ヒロインはロディオ様の運命であり理想の相手……出会ってしまったなら心変わりしてもおかしくない。やっぱり今朝の夢、あれは正夢だった……?

「……ィア」
「……」
「ソフィア」
「え?」

  俯いてそんな事を考えていたので、呼ばれて顔を上げる。
  と、同時にロディオ様が私の腕を取って引き寄せるとそのまま抱え込んで来た。

  (ま、また!?)

  このパターンは何度目だろう?  そんな事を思っていたら……

  ───フニッ

「ソフィア?  どうかした?  どこか思い詰めた顔をしている」

  フニフニフニ……

「……」

  私が呆けてしまったせいで、どさくさに紛れてふにふに攻撃が再開した!
  しかもロディオ様の腕の中に囲われているので逃げられない!

  (何でまた??)

  でも……ヒロインと会ったかもしれないのに、ロディオ様は変わらず私にふにふに攻撃をしてくる。
  これは、つまり───

  (まだ、ヒロインと会っていない?  それとも理想の頬っぺたでは無かった?  どっち!?)

  そう思うも、気にし過ぎてモヤモヤするのも嫌なのでここはいっそ素直に聞いてみる事にした。

「あの、ロディオ様。その茶葉のお店で店員さんに会いましたか?」

  フニフニフニフニ……

「店員?  そりゃ会うよ。お店だからね」
「あ、えっと、そ、そうではなくて」
「?」

  ──少し甘めの可愛らしい声。その声につられてロディオは振り返った────

  そう!  ヒロインとの出会いの描写はこんな感じ!  それでヒロインは確か髪色が……
  私は一生懸命記憶を引っ張りだす。

「少し甘めの可愛い声をした女性です!」
「少し甘めの可愛い声?」

  ロディオ様は首を傾げる。

「そうです!」
「んー、ソフィア?」

  フニフニフニフニフニ……

「はい?」
「いや“少し甘めの可愛い声”それってソフィアの事だよね?」
「へ!?」

  (何ですってーー!?)

「そんな素晴らしいうっとりする声の持ち主なんて、俺はソフィアしか思い浮かばないんだけど?」
「は?  へ?  ……わ、私!?」

  フニフニフニフニフニフニ……

  ボンッ!
  一瞬で頬に熱が集まる。
  な、なんて事を言うのだ、この人は!!

「うん。ずっと聞いていたいくらい可愛い声だよね」
「っっ!?」

  フニフニフニフニフニフニフニ……

「ずっと可愛い声だなぁ、そう思ってた。なぁ、ソフィア。俺の可愛い可愛い婚約者のソフィアは本当に可愛い所しかないんだが。何でだ?」
「~~!?  な、何でだ?  は私のセリフです!!」

  (ロディオ様がおかしい!!)

  あと、何でここで抱きしめる腕に力を入れるの!?

「そう?  でもソフィアは可愛いんだよなぁ」
「っっ!」

  フニフニフニフニフニフニフニフニ……

「で?  何だっけ?  店員の話?  確かに女性店員は一人だけいたかな。今は店番していると言っていたけど。俺が訪ねた時の従業員はその一人だけでー……」
「そ、それです、その人です!」

  ヒロインはあのお店の唯一の女性店員!
  原作でヒーローと出会った時も一人で店番していた。

  (やっぱり出会いのシチュエーションとしては小説と同じだわ!)

  間違いなくその店員はヒロインだと思うけれど、今後の為にも確実な情報が欲しい。

「ロ、ロディオ様!  そ、その方の髪色は亜麻色だったでしょう?」
「え?  髪色?」
「そうです!  肩までの長さの亜麻色の髪で瞳の色がー……」
「…………さぁ?  多分そうだった気がするけど、覚えてないなぁ」

  フニフニフニフニフニフニフニフニフニフニ……

「……」
「……」
「……え?」

  ───お、覚えてない?

  (何でぇ!?)

「んー……そんな何で?  って顔をされても、正直、ソフィア以外の女性は皆同じ顔に見えるし」
「それ病気ーー!!  病気ですよ?  ロディオ様!」

  咄嗟に口からそんな言葉が飛び出した。
  だって、人の顔が認識出来ないなんて病気以外の何物でもない!
  侯爵家の跡取りなのに!
  と、私が青ざめたらロディオ様が苦笑する。

「違うからね?  それくらいソフィア以外の女性には興味が湧かないって意味だよ」

  フニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニ……

「!?  わ、私の頬へのふにふにが癖になっているから、ですか?」
「うーん……やっぱり上手く伝わらないなぁ……ふにふにし過ぎたか?  でも、止まらないんだよなぁ………………はぁぁぁ、こういう時のソフィアもめちゃくちゃ可愛い」
「?  また、何か阿呆な発言してません?」

  後半が小声すぎて聞こえなかった。

「はは!  阿呆な発言って!  言うなぁ、さすが俺のソフィア!  まぁ、気のせいだよ、うん」

  ロディオ様はそう言って、ふにふに攻撃に集中し始めた。
  途中、優しい手触りでスリスリも混じえて来たのでドキドキし過ぎて泣きそうになった。

  そんなふにふに&スリスリ攻撃に涙目になりながら必死に耐えていたら、ウォッホン!!  と、少し前にも聞いた咳払いが聞こえて来た。
  もちろんお父様だった。しかし、どこか顔が引き攣っている。

「……えっとですね、さっきから二人は私の前で何をしているのでしょうかね?」
「何を?  ソフィアからの質問に答えていただけだが?」
「ま、まぁ、そうとも言えますが……」

  ロディオ様があっさりと答える。
  でも、そんなお父様の顔は引き攣ったまま。

「歳のせいでしょうかね。私には……二人がイチャイチャしてるだけに見えましてね……」
「イチャイチャ?  確かにこうして、ソフィアの可愛い頬を愛でてはいたが……」

  フニフニフニフニ……
  お父様の咳払いで一旦は中断されたはずのふにふに攻撃が再開してしまった!

「……分かりました。あー……ワイデント侯爵子息様のソフィアの頬への愛はよーーーく分かりましたから!」

  (何だろう。頬への愛って聞くとやっぱり、へんた……)

「ですが、そろそろ話を戻しましょう!  ソフィアが安心して暮らせるようになって欲しいのでしょう!?」
「あぁ、すまない。そうだったな───ソフィア。残念だが、ふにふにの続きはまた後で」
「い、いえ、全然続きは望んでないのでお構いなく……」
「はは、ソフィアやっぱり照れ屋さんだな」
「違っ……!!」

「はっはっは!  隠さなくても分かるよ」と斜め上の解釈をしながら笑ったロディオ様は、名残惜しそうに私の頬から手を離してくれた。
  何故か、腕の中からは解放してくれなかったけれど。

  そうして、ようやく(!)話は本題へ……

「まず、聞きたいのだが。ソフィアとマッフィーが、毒を飲んで倒れた日にお茶を入れたのは誰だ?」
「我が家のメイドです」
「その者は今は?」
「真っ先に重要参考人となったので事情聴取されましたが、証拠不十分で釈放されています。今は心労がたたって休職していますが……」

  ロディオ様の質問にお父様が答えていく。
  毒入りのお茶を入れたメイドは「知らなかった。侯爵子息様が手土産で持って来られた茶葉を使って二人にお茶を入れただけ」そう証言していたと言う。

「俺の出した結論はね、残念ながら実行犯はそのメイドで間違いないよ。そして、そのメイドに指示を与えたのはマッフィー以外有り得ないと思う」
「え!」

  ロディオ様はハッキリとした口調でそう言った。


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