21 / 50
21.
しおりを挟む「ソフィア、すまない。君よりももっと触り心地の良い理想の頬っぺたに出会ってしまった」
「……は?」
目の前で突然、謝罪をしたロディオ様はとても辛そうな顔をしている。
(今、なんて言ったの? 理想の頬っぺた??)
「本当にすまない。ソフィアの頬っぺたが最高だと思ったのに……まさか、もっと上がいるなんて思わなかった」
「はぁ、そうですか。それは良かったですね」
冷たいかもしれないけれど、こんな言葉しか浮かんで来ない。
「どうやら、俺の運命は“彼女”だったみたいだ」
「彼女……?」
「あぁ、そうだ。だから、すまないソフィア。君との話は全部無かったことにしようと思う」
ロディオ様は、頷きながらそんな言葉を口にした。
「え?」
「もう、俺はマッフィーから君を守れない」
「そんな……!」
「どうせ、半年たったら解消する婚約だったんだからさ」
「それは、そうですけど……! まだ期間が……」
ロディオ様の理想の頬っぺたなんてどうでもいいけど、それは困るわ!
私はサッと青ざめた。
ロディオ様が、守ってくれなかったら私はマッフィー様と婚約する事になってしまう!
そして、待ってる未来は死───……
「それじゃ、本当にすまない。君との婚約が大々的に広まる前で良かったよ。あぁ、俺はこれで。彼女が待ってるんだ」
そう言ってロディオ様は私に背を向けた。
この間まで、うっとりとした顔で私の頬をふにふにしていた人と同一人物には思えない程の冷たさだった。
私はロディオ様に向かって手を伸ばす。
「ま、待って、ロディオ様……私……!」
─────と、声を出して右手を天井に伸ばしながら私は目を覚ました。
「…………」
私の手が虚しく天井に向かって伸ばされている……
「……えっと、夢?」
答えてくれる人は誰もいないけれど、私はそう口にした。
これは夢である。ただただ、そう確認したかった。
私はそっと右手を元の位置に戻し、ベッドから起き上がり部屋の中を見回しているとだんだん恥ずかしくなって来た。
うわぁぁ、と両手で自分の顔を覆う。恥ずかしい! 恥ずかし過ぎる!!
「やだ、私ったら……な、なんて夢を見てしまったの。そ、それに」
それに、理想の頬っぺたを見つけたとか言って去って行くロディオ様に縋ろうとするなんて!
「理想の頬っぺたって何!? これ、私、完全に毒されちゃってるじゃないの」
こんな夢を見るなんて、全部全部ロディオ様のせいだ!
あんなにうっとりとした顔で、私の頬をふにふにばっかりするからよ!
と、ここにはいないロディオ様に対しての怒りを覚えていたその時、部屋の扉がノックされる。
「お嬢様、おはようございますー……て、朝から何を暴れているのですか?」
「トリア……」
(言えないわ。ロディオ様に捨てられる夢を見て恥ずかしくなったって)
トリアは私がロディオ様から求婚された事をとても喜んでいた。「お嬢様、やっぱりそういう事だったんですね~」と、言われて否定するのが大変だった。
同時に女嫌いの侯爵子息様をどうやって落としたんですか!? って目を輝かせて聞いてきたけれど……契約よ、とは言えないので今も困っている。
「な、何でもないわ! め、目覚めの運動よ!」
「……目覚めの運動……そうですか。まぁ、追求はしません」
「…………ありがとう」
トリアはジトっとした目で私を見たけれど、そのまま流してくれた。有難いわ!
「お嬢様、今日の予定ですがワイデント侯爵子息様から訪問の予定が来ておりますが」
「……えっ!?」
ドキッと胸が跳ねる。
ゆ、夢のせいよ。
「何でも重要なお話がある、とか……」
「じゅ、重要な話……?」
私はゴクリと唾を飲み込む。
(り、理想の頬っぺたに出会った……なんて話、では無いわよね??)
正夢になったりして。
そんな事を思いながら朝の支度に取り掛かった。
(───あぁ、正夢になったりして……なんて、心配した私が馬鹿だったわ)
フニ……
「おはよう、ソフィア! 今日も最高のふにふに具合だ!」
「……ロディオ様」
フニフニフニ……
「あ、挨拶かふにふにかどちらかにして下さい!!」
「えぇ?」
フニフニフニフニフニ……
ものすごく不満そうな顔をされた。
「可愛い可愛い俺のソフィアの頬にも朝の挨拶をしているだけだよ」
「そんな挨拶、聞いた事が無いです……」
そんな聞いた事のない宣言をしたロディオ様は大真面目な顔で私の頬をふにふにふにする。
どう聞いても、ロディオ様は開き直りすぎだと思う。
フニフニフニフニフニフニフニ……
「……」
「……」
フニフニフニフニフニフニフニフニ……
ふにふに攻撃に耐えられなくなった私は気を紛らわせようとロディオ様に話しかける事にした。
「……っ! ロ、ロディオ様、私、自分でふにふにしてみたんです」
「え!?」
ロディオ様が驚きの声を上げる。
「ロディオ様が、あまりにも触り心地抜群とか言うので本当かと思いまして……」
「最高だった?」
フニフニフニフニフニフニフニフニフニ……
「いいえ。さっぱり分からなかったです……何でロディオ様は……」
「ははは、ソフィアだからだよ」
「?」
「可愛い可愛い俺のソフィアの頬だから、だ」
「それは、どういう意───」
その言葉の意味を聞こうとした時、ウォッホン! と大きな咳に邪魔された。
「ソフィア。ワイデント侯爵子息様? 二人は朝から何を……」
「あぁ、男爵殿! 驚かせて申し訳ない。ソフィアに朝の挨拶をしていた」
「朝の挨拶……」
フニフニフニフニフニフニフニフニフニフニ……
「私には侯爵子息様が娘のほっぺたをふにふにしているように見えますが」
「挨拶だ」
ロディオ様は大変気持ちのいい笑顔で言い切った。
「私の娘が涙目になっているように見えます」
「可愛いだろう? ふにふにし続けると段々こうなるんだ」
フニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニ……
「あー……コホン。そうでしたか。ソフィアが……可愛い……可愛い?」
「男爵殿?」
「いや……コホン……な、何でもない」
「そうか?」
(…………)
とりあえず、お父様が大変失礼な事を考えている事だけは分かったわ。
「あー、何か重要な話がある。との事でしたが。婚約の話先日、正式に受け入れる返事をさせて頂きましたが?」
「あぁ。婚約を了承してくれてありがとう。それで今日の用と言うのは……」
(あ、解放されたわ)
ロディオ様はようやくふにふにを止めてくれてお父様と話し始めた。
あれから、無事に目を覚ましたお父様に、ロディオ様からの求婚の話をしたところ、もう一度泡を吹いて倒れてしまった。
だけど、さすがに二度目だったからか今度はすぐに目を覚ましてくれたわ。
そこで話し合った結果は……受け入れる、だった。
(親の前であれだけイチャイチャしておいて、断る選択肢があると思うかー! って怒られたわ)
今は受諾の返信を送った所だったのだけど、ロディオ様のこの様子だと婚約の話では無い?
ましてや、理想の頬っぺたの話でも無さそう……?
「ソフィアの毒殺未遂事件の件についてだ」
「「え?」」
私とお父様の驚きの声が重なる。
ロディオ様は、にっこり笑って言った。
「俺の可愛いソフィアが早く安心して暮らせるようになって欲しいからね。ここ数日、侯爵家でも独自に調べて、問題の茶葉を売っていたお店にも訪ねてみたんだ」
(────え?)
あの茶葉を売ってたお店?
それって、ヒロインのいるお店では……? そうよ、そのはず!
まさか! ロディオ様……ヒロインに会ったんじゃ……
私の心がざわついた。
105
お気に入りに追加
4,985
あなたにおすすめの小説
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
【完結】ついでに婚約破棄される事がお役目のモブ令嬢に転生したはずでしたのに ~あなたなんて要りません!~
Rohdea
恋愛
伯爵令嬢クロエの悩みは、昔から婚約者の侯爵令息ジョバンニが女性を侍らかして浮気ばかりしていること。
何度か婚約解消を申し出るも聞き入れて貰えず、悶々とした日々を送っていた。
そんな、ある日───
「君との婚約は破棄させてもらう!」
その日行われていた王太子殿下の誕生日パーティーで、王太子殿下が婚約者に婚約破棄を告げる声を聞いた。
その瞬間、ここは乙女ゲームの世界で、殿下の側近である婚約者は攻略対象者の一人。
そして自分はこの流れでついでに婚約破棄される事になるモブ令嬢だと気付いた。
(やったわ! これで婚約破棄してもらえる!)
そう思って喜んだクロエだったけれど、何故か事態は思っていたのと違う方向に…………
【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません
Rohdea
恋愛
───あなたのお役に立てない私は身を引こうとした……のに、あれ? 逃げられない!?
伯爵令嬢のルキアは、幼い頃からこの国の王太子であるシグルドの婚約者。
家柄も容姿も自分よりも優れている数多の令嬢を跳ね除けてルキアが婚約者に選ばれた理由はたった一つ。
多大な魔力量と貴重な属性を持っていたから。
(私がこの力でシグルド様をお支えするの!)
そう思ってずっと生きて来たルキア。
しかしある日、原因不明の高熱を発症した後、目覚めるとルキアの魔力はすっからかんになっていた。
突然、役立たずとなってしまったルキアは、身を引く事を決めてシグルドに婚約解消を申し出る事にした。
けれど、シグルドは──……
そして、何故か力を失ったルキアと入れ替わるかのように、
同じ属性の力を持っている事が最近判明したという令嬢が王宮にやって来る。
彼女は自分の事を「ヒロイン」と呼び、まるで自分が次期王太子妃になるかのように振る舞い始めるが……
【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません
Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。
家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに
“お飾りの妻が必要だ”
という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。
ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。
そんなミルフィの嫁ぎ先は、
社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。
……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。
更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない!
そんな覚悟で嫁いだのに、
旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───……
一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……
【完結】どうやら転生先は、いずれ離縁される“予定”のお飾り妻のようです
Rohdea
恋愛
伯爵夫人になったばかりのコレットは、結婚式の夜に頭を打って倒れてしまう。
目が覚めた後に思い出したのは、この世界が前世で少しだけ読んだことのある小説の世界で、
今の自分、コレットはいずれ夫に離縁される予定の伯爵夫人という事実だった。
(詰んだ!)
そう。この小説は、
若き伯爵、カイザルにはずっと妻にしたいと願うほどの好きな女性がいて、
伯爵夫人となったコレットはその事実を初夜になって初めて聞かされ、
自分が爵位継承の為だけのお飾り妻として娶られたこと、カイザルがいずれ離縁するつもりでいることを知る───……
というストーリー……
───だったはず、よね?
(どうしよう……私、この話の結末を知らないわ!)
離縁っていつなの? その後の自分はどうなるの!?
……もう、結婚しちゃったじゃないの!
(どうせ、捨てられるなら好きに生きてもいい?)
そうして始まった転生者のはずなのに全く未来が分からない、
離縁される予定のコレットの伯爵夫人生活は───……
【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~
Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。
美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。
そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。
それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった!
更に相手は超大物!
この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。
しかし……
「……君は誰だ?」
嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。
旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、
実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります
Rohdea
恋愛
───出来損ないでお荷物なだけの王女め!
“聖女”に選ばれなかった私はそう罵られて捨てられた。
グォンドラ王国は神に護られた国。
そんな“神の声”を聞ける人間は聖女と呼ばれ、聖女は代々王家の王女が儀式を経て神に選ばれて来た。
そして今代、王家には可愛げの無い姉王女と誰からも愛される妹王女の二人が誕生していた……
グォンドラ王国の第一王女、リディエンヌは18歳の誕生日を向かえた後、
儀式に挑むが神の声を聞く事が出来なかった事で冷遇されるようになる。
そして2年後、妹の第二王女、マリアーナが“神の声”を聞いた事で聖女となる。
聖女となったマリアーナは、まず、リディエンヌの婚約者を奪い、リディエンヌの居場所をどんどん奪っていく……
そして、とうとうリディエンヌは“出来損ないでお荷物な王女”と蔑まれたあげく、不要な王女として捨てられてしまう。
そんな捨てられた先の国で、リディエンヌを拾ってくれたのは、
通称・氷の貴公子様と呼ばれるくらい、人には冷たい男、ダグラス。
二人の出会いはあまり良いものではなかったけれど───
一方、リディエンヌを捨てたグォンドラ王国は、何故か謎の天変地異が起き、国が崩壊寸前となっていた……
追記:
あと少しで完結予定ですが、
長くなったので、短編⇒長編に変更しました。(2022.11.6)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる