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39. まだ、生きる事を諦めてはいない (レインヴァルト視点)
しおりを挟む────何が起きたのか分からなかった。
突然、フィオーラが俺の名前を叫んだ。と、同時に初めて後ろの殺気に気付いた。
ギリギリで避ける事が出来たが、何故かそいつは剣の矛先をフィオーラに向けた。
……狙いは俺じゃなかったのか!?
本当にそこまでの時間は一瞬のようにも思えて、あっという間だった。
そして今、フィオーラが俺の目の前で血を流して倒れている。
命の危険がある事は誰の目から見ても明らかだった。
「フィオーラ!! フィオーラ!!!!」
我を無くし泣き叫ぶ俺と目が合ったフィオーラは弱く微笑んだような気がした──
****
「洗いざらい吐いてもらおうか」
「…………」
今、俺はあの牢屋で繋がれている囚人──フィオーラを斬った犯人──と対峙していた。
「黙りはやめてもらおう。お前の目的は俺だったんだろう? ーーーーハリクス!!」
「…………」
フィオーラを斬った犯人はハリクスだった。
会場への手引きをしたのはラルゴ。
解雇されていたとはいえ、職員だったラルゴは毎年の事なので、卒業パーティーの会場の事はよく知っていたし、警備の状態も分かっていたのだろう。
あの時、俺の元に警備兵が持ってきた話は、ハリクスとラルゴが行方不明という話だった。
ロイは幽閉され今も厳しい監視の中で過ごしている。
ハリクスとラルゴは処罰を大人しく受け入れていたが、ロイのように逆恨みをしている可能性も捨て切れないからこちらの2人に付けていた監視も決して甘くなどせずしっかり行っていた。それなのに……!
そして、ハリクス。
コイツは騎士団長の息子の名はだてでは無かった。完全に殺気を消してあの場に潜んで凶行に及んだ。
……だからこそ、ハリクスは俺の護衛兼側近候補だったんだ。
「ラルゴが手引きした事も分かっている。隠しても無駄だ! 監視をどうやってすり抜けた!!」
まさか監視が甘かった……そんな事があったら許されない。
俺の言葉にようやくハリクスは口を開いた。
「……どうやって? ははっ、いえ、殿下の付けた監視は完璧でしたよ。毎日毎日本当に隙も無く憎らしいほどに……だから、今日実行するのは無理かなぁと半分諦めかけてたんですけどねぇ……」
「?」
ハリクスの言いたい事がよく分からない。
「不思議ですよねぇ? 今日は、何故か今日だけは、いつも通り完璧な監視だったのにも関わらず、うまくすり抜ける事が出来ました。そう、まるで天が俺に味方してくれたように」
「っ!?」
「それは、ラルゴ先生も同じだったようですよ。“まるで何かに導かれるようにすんなり上手くいった”そう言ってましたからね」
それは会場への侵入の事を言っているのだろう。
ラルゴにはこの後、尋問しに行く事になっている。
天が味方した、何かに導かれるように上手くいった……
嫌な言葉だ。
あの抗えない力の事が頭の中に浮かんだ。
「俺を狙った理由は何だ」
「…………俺も殿下が憎かったんですよ」
ハリクスは小さな声で呟いた。
「貴方のせいで、我々はメイリンと会えなくなりました。殿下が彼女の思う通りにならないから!!」
「当たり前だろう! 何で、あの女の思う通りにならなきゃいけないんだ!!」
ハリクスも相当、メイリンに入れ込んでいたらしい。
分かってはいたが、またしても逆恨みだ。
ロイは明らかに突発的な犯行だったが、ハリクスは違う。時間をかけてその機会を窺っていた。
「そうすれば、俺達は皆、幸せになれるはずだったんです。それを殿下がぶち壊したんだ!! それにロイ様だって殿下が!!」
「ロイは自業自得だ! 目を覚ませ、ハリクス!!」
俺の声なんて聞こえていないような様子でハリクスの独白は続く。
「……あぁ、フィオーラ様が邪魔さえしなければ貴方を始末出来たのに……結局、予定通りになってしまったじゃないか……」
「予定通り、だと!?」
それは 聞き捨てならない発言だった。
フィオーラが斬られるのが予定通り? ハリクスは俺を狙ったのに?
「メイリンの望みは、俺が卒業パーティーでフィオーラ様を斬る事だったからですよ。それがフィオーラ様の運命なのだと。ですが、俺はレインヴァルト殿下、貴方の方が憎かったので、貴方を斬ることにしたのですがね。しかし、貴方相手に不意を付けなかったのなら、もう狙うのは無理ですからね。ならばメイリンの望みを叶えるまで……そう思ったのですよ」
ハリクスは薄らと笑みを浮かべながら、何でもない事のように言う。
本来は、フィオーラが斬られるはずだった。
しかし、ハリクスはその狙いを俺に変更した。
だが、フィオーラの声で、不意を付いた俺の暗殺に失敗したので、仕方ないから当初の予定通りにしとくか、とフィオーラを斬った。
ハリクスはそう言いたいらしい。
──ふざけるなっ!! 怒りがさらに込み上げてくる。
「……貴方を殺せなかったのは非常に残念ではありますが。まぁ、メイリンの望み通り、フィオーラ様を斬ることは出来たわけですしね」
「ーーーーっ!!」
「あぁ……でもまだ、生きてるんでしたっけ? フィオーラ様って案外、しぶといんですね」
「ハリクス!!」
「残念です」
「!!!!」
今すぐこの場でコイツを殺してやりたかった。
ハリクスに極刑が下されるのは間違いないが、そんな命令を待っていられないほど、今すぐにでもこの場でこの手で殺してやりたい。
フィオーラ……
そう。フィオーラは生きている。
なんとか一命は取り留めた。
だけど、意識が戻らない。
流した血の量が多すぎた。
いつ意識が戻るのかは……分からない。
このまま、容態が急変したり、もしくは衰弱する事で死に至る可能性があるとも聞かされている。
「お前の処分はすぐに下される。二度と日の目を見れると思うな」
これ以上こうしていても、コイツはこれ以上は語らない。自分のした事を悔いる事も無いだろう。
俺はそう言い放ち、牢屋を後にした。
ハリクスは何も答えなかった。
そして、次に向かったラルゴも同じ事しか言わず新しい情報は無かった。
また、ハリクスが言っていた事も確かに口にした。
ハリクスと、ラルゴはロイと同じ日に始末する事になるだろう。
卒業パーティーを終えたら、もともとロイは秘密裏に始末する予定だった。
冤罪事件の時はそこまでの処分を下せなかった……だが、こうなった以上は、3人まとめてこの手で地獄へ落としてやる。
ハリクスが、ラルゴが、そしてメイリンが憎い。
恐らくメイリン……あの女は捕まる直前、自分の思い通りに動かない俺やフィオーラに業を煮やし、卒業パーティーでフィオーラを暗殺する計画をたてていたのだろう。
と、言うよりもあの女の望んでる世界のフィオーラの死の原因の一つだったに違いない。それを実行させようとしていた。
首謀者のあの女がいなくなってもハリクスとラルゴはその望みを叶えようした……
『貴女はレインヴァルト様の手で処刑されるのよ。あぁ、でも今はこの可能性は低いのかしら? なら、あの何とかって名前の病気で命を落とすのかしら? それともー……』
あの時のメイリンの言葉の続きこそが、ハリクスによる暗殺だったんだ。
ハリクスは矛先を勝手に俺に変更していたが、結局斬られたのは当初の予定通りのフィオーラだった。
「…………畜生!!」
どうして、フィオーラには“死”がまとわりついているんだ!?
今世こそ、今度こそフィオーラを救えると思ったのに。
冤罪事件も乗り越え、かつて命を落とした病だって乗り越えた。
どちらも、あの女の望んでいたフィオーラの死の原因には、変な力の影を感じずにはいられない。
やがて婚約破棄、処刑へと繋がってしまう冤罪事件は、今世も不自然なくらいにあっという間に噂は広がっていったし、病に関しても……やはり不自然な点があった。
フィオーラが病から回復した後、二人で病の件について何度も話し合った。
病が広がり始めてすぐに、しかも、症状の無い患者から感染していたと考えられる事や、あの日の外出に至るまでの裏にも変な力を感じないか?
そう聞いた俺にフィオーラはこう答えた。
「変な力の存在を全く感じないと言ったら嘘になりますが、例え本当に何らかの誘導があったにせよ、あの日の行動や判断を下したのは私自身の未熟さと甘さ故です。私がしっかりした考えを持っていれば良かっただけの事です。ですが……」
フィオーラはあの日の行動に関しては、何であれ自分の意思のせいだとキッパリ言っていたが、肝心の感染経路については本人も不自然な点が多く違うとは言いきれなかったようだった。
それでも、今世は冤罪事件も過去のようにはならなかったし、病だって死には至らなかった。
未来は変わっている。
そう信じていたのに──
しかも、乗り越えたと思っていた冤罪事件の燻りがこうしてまた、最悪の形で返って来た。
「俺は……無力だ」
イタズラに時を戻し、フィオーラに何度も辛い思いをさせたくせに、今世も守ることが出来なかった……そして苦しめている。
「…………くそっ!」
だが、フィオーラはまだ生きる事を諦めていない。
今も闘っている。
俺が諦めてしまったら、二度と目を覚まさない。そんな予感がする。
今の俺に出来る事は、フィオーラを死なせないよう治療を続けさせる事。
この事件の膿をすべて取り除く事。
目覚めたフィオーラが二度と死にまとわりつかれない為に。
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