8 / 36
8. 謎に満ちた王女様
しおりを挟むそもそもとして何でその話を私にするの? と思った。
だけど、直ぐにその理由に思い至った。
「つまり私が王女殿下と面識があれば、滞在期間中のお世話とか何かしら手伝わせようとしていた、という事ですの?」
「そういう事だろうなぁ」
「……」
あの王女様がちょっと面倒な性格だという事は知れ渡っている。だから……と思うのも分かるわ。分かるけど!
いえ、だとしても、あの王女様のお世話するのは本当に本当に大変だと思うわよ!?
出来れば関わりたくない。
「王女様は何をしにやって来るのです?」
「……ディティール国が言うには、現在、王女の留学先を探していて、その選定のためと言っているのだが……」
「留学先……?」
まるで、逃げるみたいね、などと思ってしまった。
もしかして…………自国で好き放題にやりすぎて遂に反発されちゃったのかも。
有り得る……とっても有り得るわ。
そんな危うさがあの王女様にはあったもの。
そして、先日のお茶会で殿下とユリウス様が王女殿下の事を私に聞いて来たのはこれが理由だったのね。納得……
でも、私には関係無い話だわ───……
と、思っていたのに。
「王女殿下、ようこそいらっしゃいました」
「……」
その日、馬車が到着し、その中から出てきたジュリア王女殿下は、大勢に出迎えられながらも明らかに不機嫌だった。
全身が“私、本当はこんな所に来たくなかったのに”そう言っている。
「……」
王女様は無言でさっさと案内しなさいよと訴えていた。
そんな王女様の様子を見ながら、私は小さなため息を吐く。
そして思う。
やっぱり何で私がここに……王女様のお世話係の一人として王宮にいなくてはならないの、と。
────
それはお父様から、王女様がやって来るという話を聞いた翌日の事だった。
「え? 私が王女様の滞在期間中の世話係になる……のですか?」
「そうなのだ」
その日、お父様は帰宅するなり私の部屋に困った顔でやって来た。
「なぜです……?」
王宮にはしっかり教育された人達がいるでしょうに。
そこになぜ、私みたいな素人を混ぜ込む!? 意味不明よ!
「──先方の、王女殿下の希望だそうだ」
「え?」
「最近までディティール国に留学していた令嬢がいるはずだ。その子を滞在期間中の自分の世話係の一人として付けてくれ……と」
「なっ……」
「アンジェリカ、面識は無かったと言っていたではないか。本当は何か接点があったのではないか?」
「いいえ! 全くです。それは、本当ですわ! ですから、王女殿下が言っているのは私以外の誰かではないのですか?」
何もディティール国に留学していたのは私だけでは無いはずでしょう?
そう思って訴えたのだけどお父様は静かに首を振った。
「いや。王女殿下の言っている令嬢の特徴はアンジェリカそのものだったから、間違いようがない」
「!」
何でよ!?
つまり、王女殿下は私の事を知っていたということ?
そして、今回の世話係への抜擢? なぜ?
───あぁ、本当に嫌な予感しかしないわ。
────
部屋へと案内された王女様は、自分が呼ぶまで一人にして頂戴! それまで誰も来るんじゃないわよ!
とだけ言って部屋に籠ってしまったので、世話係なのに早々に部屋の廊下へと追い出されてしまった私はポツンとその場に立ち尽くしていた。
「うーん……困ったわ。やる事が無くなってしまったわ」
しかも、やっぱり私を指名した理由は謎のまま。
むしろ……
「すごい敵意むき出しで、睨まれたような気がするのだけど……」
挨拶をした時、凄い目で睨まれた。
あんな目で睨まれる心当たりが無さすぎて困る。
「……アンジェリカ?」
うーんと唸っていたら聞き覚えのある声が後ろから聞こえて来てドキッとした。
「で、殿下!」
「アンジェリカ? 廊下でポツンと佇んで何をやっている? 王女殿下は……」
殿下はそう言いかけて何かを察したのか「あ……」と言う。
「とりあえず、一人になりたいそうですよ」
「そう、なのか。なら、挨拶は後の方がいいのだろうか?」
殿下が困った様子でうーんと唸る。
私個人の意見としては、どっちに転んでも怒る気がするわ。
挨拶に行ったら行ったで、誰も来るなと言ったでしょう!
行かなかったら行かなかったで、挨拶に来るのが遅いわ! ってね。
「……難しいです」
「みたいだな」
二人でそんな風に顔を見合せていたら、殿下の手が私の頭に伸びてまた頭を撫でられた。
私がびっくりして後ずさると殿下もハッとして慌てて手を引っ込めた。
「な、何を!?」
「え、あ……いや、つ、つい?」
殿下自身も混乱しているみたいだった。
「つ、つい……で令嬢の頭なんか撫でちゃダメですよ」
しかも、あなたは一国の王子様。勘違いさせてしまったらどうするの……
そう思っていたら殿下が頬をほんのり赤く染めて叫ぶ。
「そ、それは大丈夫だ!」
「え?」
「ア、アンジェリカ以外の頭を撫でたいとは思わない!」
「……え?」
私以外の頭を撫でたいとは思わない?
それって……それって…………
「や、やっぱり……わ、私の頭の形が撫でやすいからって事ですか?」
「……ん?」
「昔、お父様に言われた事があるのです……アンジェリカは撫でやすい頭をしているな、と。正直、意味が分からないわと思っていたのですが……殿下まで同じ事を仰るのですね……」
「……え? 違っ」
子供の頃はそれで、お父様にたくさんヨシヨシして貰えて嬉しかったけれど、撫でやすい頭って何かしらという疑問は私の中にずっと残ったままだった。
「それとも、無性に撫でたくなるような頭の形? でもしているのでしょうか?」
「え、いや、だから、アンジェリカ……」
「……」
「あー……だから……アンジェリカ! 私は」
殿下が何かを言いかけたその時、ガチャッと王女様の部屋の扉が開いた音がした。
応援ありがとうございます!
18
お気に入りに追加
3,070
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる