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ある日の会話(後日譚)

想い

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 わたしの名前の付け方について、なんとなく構造というか、お母さんの意図はわかってきた。
 けれど、肝心な由来はまだ聴けていない。
 とにかく謎が多すぎるのだ。


「『願い』という字を使いたかったのはわかった」


 これは多分「祈り」と「願い」という、それぞれの言葉の持つ意味の通りで、姉妹で揃えたかったとか、そんなところだろう。ここの深掘りは一旦良い。


「漢字に好きな読み方付けて良いなら、祷みたいに『願』一文字ってやり方もあったんじゃない? 祷に近い漢字で『禰』とかさ」


 めがみって読み方とか、色々訊きたいことはあるが、まずはひとつひとつ潰していかないと。



 たしか『禰』も名前で使って良い漢字だったはず。
 自分で言ってみて、こっちの方が姉妹感あって良いんじゃないかと思い始めているくらいしっくりくる。


「落語家みたいねぇ」


 お母さんがテレビを眺めながら言う。

 そうかなぁ?

 テレビ画面では和装の俳優二人が話しているシーンが映されていた。
 野生味のある俳優と線の細い俳優。どちらも質の違う凄味があって、ルカの言う通り色気を感じた。

 お母さんは、それもありだったかも見たいな顔をしているが......。


「『子』ってどうしても入れたかったのよ」


 なんでよ! それを入れることで、『がんこ』って読み方が完成してしまうのに。



「『祷』は本当は『祈里』にしたかったの。こっちの方が可愛くない? 祷じゃなんか相撲みたいじゃない?」


 まあ。
 相撲ってのはよくわからないけど。お母さんの感性の話だからそれは放っておいて良い要素だ。禰を落語みたいと評したのと同じようなことだと思う。

 相変わらず話が飛ぶが、お母さんの中では繋がっているのだろう。次の句を待つ。


「お父さんがね。お姉ちゃんの名付けは私に一任するって言っていたのだけれど、『祈り』という字を使いたいって話をしたら、同じ意味を持つ『祷』にしてほしいって」


 ここでお父さんが登場するのか。
 あ......そういうこと?


「自分の名前の『満寿男ますお』の『寿』が入ってるから。どうせならそちらの字の方が良いって」


 お父さん。姫田家に婿入りした満寿男という名前を持つお父さん。

 多少思うことくらいはあったかもしれないけれど、論理的で大人なお父さんは名前に対する感情を伴う想いはあまり持っていないと思っていた。
 娘の名に、自分の名前の一部を使いたいなんて普通の親みたいな気持ちもあったんだ。


「名付けに関しては好きにさせてもらっていたから、それくらいは受け入れたの」


 お母さんはそっとルイボスティーを口に含ませた。

 独特ではあるが説明を聞けばわからなくもない、一応の理屈らしきものに基づいているようだ。

 それで、この話がわたしの名前にどう繋がってくるのだろうか。
『子』を付けた理由はなんとなく予想はつきつつあったが、それで全てが解決するほど、わたしの名前は甘くはない。




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