150 / 155
ある日の会話(後日譚)
由来
しおりを挟む
リビングに入ると、ソファでお母さんがテレビを観ていた。割と渋い設定のドラマだけど、出てくる俳優に華があり演技に色気があって、ルカがハマってるって言ってたやつだ。
お母さんもドラマとか観るんだ。
テーブルにはルイボスティーが入ったガラスティーポットとティーカップが置かれていた。
「わたしももらって良い?」
お母さんの許可をもらい、カップボードからマグカップを持ってくる。祷が自分のとお揃いで買ってくれたスターバックスの限定品だ。
ハロウィン仕様でねこの形のかわいいマグカップにルイボスティーを注ぎ、L字型ソファのお母さんの斜向かいになる位置に座った。
「お母さん、訊いて良い?」
「なあに?」
「わたしの名前の由来ってどんなのだっけ? 前訊いたかもしれないけど」
「お姉ちゃんがうまれて、『祷』って名前つけたときから、次の子どもには『願い』って字を使うって決めてたの」
テレビ観ているのに邪魔かなと思ったけど、お母さんは気にする様子もなく話し始めた。
なんとなく観ていただけかもしれない。
「それならさ、『ねがい』って名前でも良かったんじゃない? 『いのり』とも揃ってるし」
「祷のときは知らなかったのよ」
「なにが?」
「漢字と全然違う読み方の名前つけて良いって」
は?
「『ルーク』とか『ここあ』とか、素敵な名前の子がいることは知っていたわ」
素敵? 素敵、なんだろうけど、センスに拠るというか、多少ひとを選ぶ名前かな、と思う。
お母さんにとっては素敵と感じる名前なのか。
「でも、字がね。『琉宇九』とか『琥々愛』とか、無理矢理じゃない?」
無理矢理? 一応素直に読めるけど。
「ああ、『仏恥義理』みたいな感じがするから、ちょっとねぇ、って思っていたの」
えっと、よくわかんない。けど、お母さんの中にあるなんらかの美学には反するようだ。
「そしたら、空走とか、苺姫とか、漢字と読み方がリンクしない名付けされている子たちをみつけて、衝撃が走ったの。ルールなんて、なかったんだって」
いや、あると思うよ? ルール。
「ひとつの名前に漢字と読み方で、ふたつの意味を込められるなんて素敵じゃない?」
化粧水だけど乳液の効果もある、みたいなこと? 要はお徳ってこと? そういう価値観?
「だから、祷には可哀想なことをしたわ。知っていれば祷にも付けてあげられたのに」
訳のわからない読み方を?
助かったね、祷。お母さんが変な知恵つける前にうまれて。
お母さんもドラマとか観るんだ。
テーブルにはルイボスティーが入ったガラスティーポットとティーカップが置かれていた。
「わたしももらって良い?」
お母さんの許可をもらい、カップボードからマグカップを持ってくる。祷が自分のとお揃いで買ってくれたスターバックスの限定品だ。
ハロウィン仕様でねこの形のかわいいマグカップにルイボスティーを注ぎ、L字型ソファのお母さんの斜向かいになる位置に座った。
「お母さん、訊いて良い?」
「なあに?」
「わたしの名前の由来ってどんなのだっけ? 前訊いたかもしれないけど」
「お姉ちゃんがうまれて、『祷』って名前つけたときから、次の子どもには『願い』って字を使うって決めてたの」
テレビ観ているのに邪魔かなと思ったけど、お母さんは気にする様子もなく話し始めた。
なんとなく観ていただけかもしれない。
「それならさ、『ねがい』って名前でも良かったんじゃない? 『いのり』とも揃ってるし」
「祷のときは知らなかったのよ」
「なにが?」
「漢字と全然違う読み方の名前つけて良いって」
は?
「『ルーク』とか『ここあ』とか、素敵な名前の子がいることは知っていたわ」
素敵? 素敵、なんだろうけど、センスに拠るというか、多少ひとを選ぶ名前かな、と思う。
お母さんにとっては素敵と感じる名前なのか。
「でも、字がね。『琉宇九』とか『琥々愛』とか、無理矢理じゃない?」
無理矢理? 一応素直に読めるけど。
「ああ、『仏恥義理』みたいな感じがするから、ちょっとねぇ、って思っていたの」
えっと、よくわかんない。けど、お母さんの中にあるなんらかの美学には反するようだ。
「そしたら、空走とか、苺姫とか、漢字と読み方がリンクしない名付けされている子たちをみつけて、衝撃が走ったの。ルールなんて、なかったんだって」
いや、あると思うよ? ルール。
「ひとつの名前に漢字と読み方で、ふたつの意味を込められるなんて素敵じゃない?」
化粧水だけど乳液の効果もある、みたいなこと? 要はお徳ってこと? そういう価値観?
「だから、祷には可哀想なことをしたわ。知っていれば祷にも付けてあげられたのに」
訳のわからない読み方を?
助かったね、祷。お母さんが変な知恵つける前にうまれて。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンバ大辞典
桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。
サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。
誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。
本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火
桜のはなびら
現代文学
マランドロはジェントルマンである!
サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。
サンバには男性のダンサーもいる。
男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。
マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。
少年が抱えているもの。
放課後子供教室を運営する女性の過去。
暗躍する裏社会の住人。
マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。
その時、彼らは何を得て何を失うのか。
※表紙はaiで作成しました。
太陽と星のバンデイラ
桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜
心のままに。
新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。
新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。
商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。
葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。
かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。
慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。
慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。
二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。
※表紙はaiで作成しました。
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
千紫万紅のパシスタ 累なる色編
桜のはなびら
現代文学
文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。
周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。
しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。
そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。
二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。
いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。
※表紙はaiで作成しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる