スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

 大学生となった誉。

 慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
 想像もできなかったこともあったりして。

 周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。

 誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。



 スルド。
 それはサンバで使用する打楽器のひとつ。




 嘗て。
 何も。その手には何も無いと思い知った時。
 何もかもを諦め。
 無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。

 唯一でも随一でなくても。
 主役なんかでなくても。
 多数の中の一人に過ぎなかったとしても。

 それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。


 気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
 




 スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。

 配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。



 過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。


 自分には必要ないと思っていた。
 それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。


 誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。



 もう一度。
 今度はこの世界でもう一度。


 誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。

 果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。


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