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序章

新たなふたりのマランドロ

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「ふ、ドSクソヤロウだって。だっさ」
 先ほどの意趣返しのように、見下した言い方をしたウリに、アキが「あ?」とでも言いそうな顔をした。


 ふたりは子どもの頃からの幼馴染で今はこの街に新しくできる新駅を中心にした都市開発事業に、アキはデベロッパーとして、ウリは市政側のITコンサルティング会社として関わっていた。
 そこでもタッグを組んで計画を推進していたのだから、筋金入りの相棒関係だ。
 ちょっとした言い合いもじゃれているに過ぎない。
 が、マランドロはエレガントに。
 高校の教室ではないのだ。



「よし、座学は次が最後のワークだ。声出しをするぞ」

 えー、とふたりは露骨に嫌そうな声をあげる。やはり高校の教室みたいだ。

「言葉は、音として放たれて、空気に溶けて消えてなくなるものだと思うか?」
 いいや。言葉は意味と想いから産まれ出て、身体を巡りその後届かせるために放たれる。
 放たれる言葉は、放たれる前に身体の裡にその意味を、想いを遺していくのだ。

だから、声に出して言う事に意味がある
 

「俺たちはマランドロ!」
『俺たちはマランドロ!』

 なんだかんだと言いながらも、ふたりは素直に従ってくれる。


 このふたりがダンサーとして入会すると紹介された日の興奮を俺は忘れない。

 スーツの着こなしも華やかな、スタイルの良い男性ダンサー、マランドロたちによるダンディでセクシーなパフォーマンス。
 規模は小さいながらも、優秀な演者が多い『ソルエス』にあって、足りていない要素だった。

 ふたりの年齢は三十代前半。若さ溢れるフレッシュさを求めるにはいささか無理があるかもしれないが、セクシーでダンディなマランドロにはある程度の円熟味が必要だ。

 温和なウリとクールなアキは性格こそ異なるが、ふたりともマランドロらしい落ち着きや優雅さ、色気を持っていると思えた。だからこそ、さらに一段、マランドロとしての格を上げたいと思わせてくれたのだ。

 
「マランドロはジェントルマン!」
『マランドロはジェントルマン!』
「マランドロはエレガント!」
『マランドロはエレガント!』
「マランドロは白いスーツを汚さない!」
『マランドロは白いスーツを汚さない!』
「マランドロのダンスは大地に絵を描く!」
『マランドロのダンスは大地に絵を描く!』
「マランドロは貧富の差を許さない!」
『マランドロは貧富の差を許さない!」
 

 さあ、ふたりとも。
 その身に、その魂に、刻み込め。
 マランドロの生き様を。
 マランドロのフィロソフィーを。

 
 マランドロたれ!
 いついかなる時も!
 ふたりはもう、マランドロなのだから!
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