ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら

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序章

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「我の強いパシスタの言いなりになって、振り回されてちゃダメってことだな」
 俺からのウリへの言葉に、アキは横から口を出した。シニカルな笑みを浮かべているアキに、ウリは口を尖らせた。

 アキよ。油断していて良いのか?
 それでは次はこの不敵な男の番だ。
 
「アキ。アキはSなのか? オレ様気取りのドSクソヤロウか?」

「な、なにを急に」


 サンバは演奏する者と踊る者がいる。打楽器を演奏する『バテリア』、メロディを奏でる弦楽器と歌、そしてダンサー。
 演奏とダンスの合同練習を『エンサイオ』という。『ソルエス』では、毎回ではないがエンサイオの後、有志で先代代表が経営する中華料理屋で飲み食いの場が設けられることがある。
 身内の店舗にて行われる身内だけの気軽な食事会。
 紳士とは己を律する、ある意味装う生き方だとするならば、崩れやすい気楽な場こそ、マランドロは油断はしてはならないのだ。

「この前のエンサイオの後、何人かで夕食に行ったよな。
サラが苦手だって言うパクチーを引き取ってあげていたな。あれば良かった。問題はその後だ。
たかがパクチーでなんで言った?
『一生恩に着ろよ』だ。
オレ様どころではないな。悪の頭領の語り口ではないか」

「あれはその場のノリと言うか、冗談と言うか......」

 無論わかっている。サラも笑っていた。
 だが、紳士の在り方としてはどうか。
 親切は息を吸うように自然に為されたい。
 堅苦しくなる必要はない。冗談を言うのも良い。
 しかしスマートさやエレガントさは忘れないでもらいたい。

 少し真面目な話をすると、今回の事例ではサラは明らかにパクチーに手こずっている様子を見せていた。
「あー......」だの、「パクチー抜きって言うの忘れた」だの言っていた。隣の席のアキにも聞こえていたはずだ。
 しかし、アキが助けたのは、少しした後サラから「ねぇ、これ食べて?」と頼まれてからだ。
 サラはアキが問題なく食べているのを見て嫌いではないと判断したのだろう。
 では、アキはサラの状況をどう捉えていただろうか。
 もちろん、サラも大人だ。苦手なものを残すという判断をしたって良い。
 アキの立場で考えれば、大人の女性に、「苦手ならもらおうか?」などと言いにくいのかもしれない。
 だが、困っている素振りを見せている隣の席の女性を気にかけることはできたはずだ。

 
 アキは助けを乞えば手を差し伸べるだろう。
 明らかに困っているであろう相手にも人並みの対応はするし、ドアを押さえておくだとか、落としたものを拾うだとか、物のついでで特に負担のない親切だって行うはずだ。
 しかし、手を伸ばした範囲にいない相手や、求めていない相手に対しては少々ドライだ。わざわざ助けに行くような真似はしない。

 手助けを求めていない相手に安易に手を貸さない。
 相手の自立を促すには必要な冷厳さだろう。求めさえすれば助くるのだから、無為な甘さではなく、適切な優しさと捉えられなくもない。
 だが、世の中のすべての人が、求むべき時に積極的に助けてくれと声をかけられる人だろうか?
 自らの困窮に、冷静に気づけているのだろうか?
 寄り添うべき相手が自ら主張をしなかったとしても、察して然るべき対応をスマートにしてみせてこそマランドロ。

 手の貸し方など百万通りはある。
 まずはその困窮を、識りに行ってからの判断が必要だろう。
 相手への理解もしに行かずにくだす判断など、独りよがりの自己完結に過ぎない。アキもまた、情報の収集と分析、評価とそれに基づいた判断には目を見張るものがあり、仕事では能力に伴う実績を重ねている。

 アキはマランドロのフィロソフィーを体現するには、もっと人への関心を持つべきだ。
 
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