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6章【外交編・ブライエ国】

2 痛い

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「んぅ……っつ、く……やっぱり現実では痛いのね」

意識が浮上すると共に、激しい頭痛がする。そして全身に節々の痛みを感じ、顔も殴られたせいかなんだか重く腫れぼったいような気がしながらも、「あぁ、私……生きてる」と実感した。

それと同時に、何かが覆い被さるように私を包み込んでいることに気づいて重たい目蓋をゆっくりと開けた。

「ケリー様?」

視線の先には規則正しく呼吸をしながら眠り込んでいるクエリーシェルがいた。目蓋は閉じたまま。髪も伸び、髭がちょっと生えていて、最初に出会ったときを思い出す。

(てか、何でケリー様がここに?)

見上げれば、どこかの一室のようだが見覚えはない。そして、私はベッドに寝かされているのに対してクエリーシェルは椅子に座ったまま、私に覆い被さるように寝ているようだった。

(どうしてこの状況に?というか、私は今一体どこにいるんだろう。夢、じゃないわよね?)

自分の記憶を呼び起こす。

(確か、馬から引きずり下ろされて、髪掴まれてのしかかられて殴られて、そのあとは……)

確か帝国軍の兵長だったか何かに殺されかけたのが覚えている。そして、一瞬聴き慣れた声が聞こえた気がしたのだが……。

(どこまでが夢でどこまでが現実だかわからない)

とりあえず頬を引っ張ろうかとしたとき、右腕が彼の身体の下にあることに気づいて身動きが取れなかった。

うーん、と引っ張ってみるが、身体が軋んで痛むばかりで、クエリーシェルはびくともしない。心なしか、腕が痺れているような気もする。

(このまま乗られているのはまずいなぁ……)

とりあえず、クエリーシェルを起こすために反対の手で身体を揺さぶる。そして、「ケリー様、起きてください!」と耳元で声を上げた。

「ん?リーシェ?」
「はい、リーシェです」
「……っ、リーシェ!?」

ガバッと勢いよく起き上がられて、さすがにびっくりして目を丸くする。何もそんなに驚かなくても……、と思っていると、今度はガバリと大きな腕で抱きしめられた。

「い、痛い痛い痛い……っ」
「!!あぁ、すまない!怪我をしていたんだったな。どこが痛い?」
「いや、どこが痛いかと聞かれたら全身ではあるんですけど」
「そ、そうか。すまない、つい嬉しくて勢い余ってしまった。リーシェが生きていてよかった。あぁ、本当によかった」
「そんな大袈裟な……」

ちょっと目元が潤んでいるのがわかる。相変わらず涙脆い、いや、私が心配ばかりかけているのが悪いのではあるが。

「大袈裟なものか。目の前で殺されかけているリーシェを見て、どれほど血の気がひいたことか」
「あれ?そのとき見てたんです?」

あの場にクエリーシェルがいた記憶がなくて、首を傾げる。無我夢中で逃げようとしていたが、あのときはぼろぼろで周りがよく見えなかったが、いつ彼が来たのだろうか。

というか、夢だと思っていた私を呼ぶ声は現実だったということだろうか。

「あぁ。私がリーシェに乗っていた兵を斬り伏せて助け出したのだが、覚えてないか?」
「すみません、残念ながら」
「そうか。だが、間一髪間に合ってよかった」
「ありがとうございます。でも、何でケリー様があそこに?そういえば、ヒューベルトさんやメリッサは?」
「あぁ、彼女達は……」

クエリーシェルが話そうとしたときだった。

「〈ステラ!!!〉」

バタン!という扉を開ける大きな音と共に、何かが飛び込むようにこちらに向かってくる。そして、私にその勢いのまま抱きついた。

「〈あぁ、ステラ!生きててよかった!〉」
「〈痛いっ!メリッサ、痛い痛い痛いっ!〉」
「〈ご、ごめんなさい!つい、夢中で〉」

(この2人、やってること一緒って)

視線をクエリーシェルにやれば、気まずそうにしている彼に思わず噴き出す。

そして、しゅんと項垂れるメリッサを抱きしめると「〈心配かけてごめんね〉」と耳元で言えば、メリッサはそのまま大きな声を上げて泣き出したのだった。
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