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6章【外交編・ブライエ国】
3 痴話喧嘩
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「え、ここってブライエ国なんですか?」
「あぁ、ここはブライエ国城の医務室だ。そうだな、どこから話せばいいか……」
クエリーシェルが思案しているのか口籠る。元々こういう説明が苦手な人である、どこからどれくらい説明すればいいのかわからないのだろう。
「では、私が聞くのを答えていただくことはできますか?」
「あぁ、もちろん。何が知りたい?」
「まずケリー様はあのあとどうしたんですか?」
「我々はあのあとリーシェとの約束を守るためにここへ向かった。ちゃんと鉤縄も役に立って崖を登ることができて先に到着したんだ」
(落ちる直前にちゃんと伝えていてよかった)
あのときは必死であったが、我ながらよくあの土壇場であれを言えたと自分で自分を褒めたい。……まぁ、結局城で落ち合うことはできなかったが。
「そうでしたか。あの、そういえばブライエ国の言葉……通訳とか大丈夫でした?」
「あぁ、それに関しては大丈夫だった。というか、ある人がいてくれたおかげで大丈夫ではあったのだが……」
「ある人?」
「その人に関してはあとあと紹介するとして、リーシェはよく無事だったな」
「えぇ、海に落ちたあとはモットーに流れ着きまして。このメリッサと師匠に拾われまして」
そう言ってなんだか膝の上で居た堪れなさそうにしているメリッサの頭を撫でる。
「〈な、何?あたしの話?〉」
「〈えぇ、私とヒューベルトさんがメリッサに拾われたときの話〉」
「〈あぁ、そのこと。……ねぇ、あたしここにいて大丈夫?〉」
「〈えぇ、大丈夫よ。むしろわからない言葉で話しててごめんなさい〉」
「〈ううん、それはいいんだけど……〉」
なんだか落ち着かない様子のメリッサ。まぁ、無理もないだろう。異国に来てこうして聴き慣れない言葉ばかりで肩身も狭いだろうし、何より私とヒューベルトさんしか見知った人間がいないのはつらいだろう。
「彼女は何と?」
「あ、さっきの話の内容を伝えていました」
「そうか。それにしてもリーシェは本当に色々な国の言葉が喋られるのだな」
「えぇ、まぁ。一応一度訪問した国の言葉はある程度は喋れます。……というか、そういえばなぜ私達があそこにいるのがわかったんです?私がやられてるときに来てたんですよね?」
「あぁ、それは手紙が来てな」
「手紙?」
「差出人が不明だとのことで皆半信半疑ではあったが、もし本当なら行くべきだと私が進言してな」
「そうだったんですね」
ということは、ギルデルが先に根回しでもしていたのだろうか。一体彼はどこまで手を回しているのか。そもそも目的はなんなんだろうか。
とりあえず最終判断をしてくれたクエリーシェルのおかげで命が助かったのだと思うと、本当にありがたいことだと思う。もし彼が来てくれていなかったら、確実に私は死んでいただろう。
「間に合って本当によかった」
「こちらこそありがとうございます。おかげで助かりました。ところで、ヒューベルトさんは?」
「あぁ、ヒューベルトは今は別室で休んでいる。相当無理していたようで、高熱を出している状態だ」
「そんな……!」
ヒューベルトに無理させてしまっていたことを申し訳なく感じる。そもそも片腕で万全でない状態の彼には荷が重いことであっただろう。
私が取り乱すと、クエリーシェルに頭を撫でられる。顔を上げれば、彼は優しい顔をしていた。
「自分を責めるんじゃない。ブライエ国の人々が今懸命に治療してくれているから大丈夫だ。そもそもここまで連れてきてくれたことに感謝をしていたぞ。足手まといの自分を見捨てずに全力で頑張ってくれたと」
「ヒューベルトさん……」
「彼は強い。だからきっと大丈夫だ」
「そう、ですね……」
「〈ステラ?〉」
「〈ごめん、メリッサ。私が弱音を吐いてたらダメね〉」
先程まで何を言っていたかわからないメリッサは首を傾げていた。
「とりあえず、落ち着いたら色々と会うといい」
「では、早速……」
「こらこら、何を考えている。まだ本調子じゃないだろう?」
起き上がり、ベッドから出ようとする私を慌ててクエリーシェルが押さえつける。
「でも、挨拶は早めにしていたほうが」
「いや、早くするにしても早すぎる。まずはちゃんと休んでだな……」
「ケリー様は過保護すぎます」
「そうは言っても顔が腫れている状態で、身体もまだ痣だらけで……」
聞き捨てならない言葉にハッと顔を上げる。クエリーシェルは意図せずに言っていたようで、なぜ私がこんな反応をするのか理解できていないようだった。
「え、見たんです?」
「何を?」
「私の身体……」
そこまで言って初めて自分の失言に気づいたらしい。クエリーシェルは自覚すると、途端に慌て出した。
「いや、別に隅々まで見たわけでは……っ!」
「信じられない!ケリー様がそんなことなさるだなんて!」
「ご、誤解だ!別に私はたまたま腕についた痣を見ただけであって!」
こうやって一悶着していると、メリッサがくすくすと笑い出す。言葉は理解していなくても、痴話喧嘩をしていることだけは伝わったらしい。
「〈本当に仲良しなのね〉」
「〈いや、別に、いえ、仲良しは仲良しだけど、これは違って……っ〉」
なんだかメリッサに毒気を抜かれてしまって、お互いに苦笑し合うのだった。
「あぁ、ここはブライエ国城の医務室だ。そうだな、どこから話せばいいか……」
クエリーシェルが思案しているのか口籠る。元々こういう説明が苦手な人である、どこからどれくらい説明すればいいのかわからないのだろう。
「では、私が聞くのを答えていただくことはできますか?」
「あぁ、もちろん。何が知りたい?」
「まずケリー様はあのあとどうしたんですか?」
「我々はあのあとリーシェとの約束を守るためにここへ向かった。ちゃんと鉤縄も役に立って崖を登ることができて先に到着したんだ」
(落ちる直前にちゃんと伝えていてよかった)
あのときは必死であったが、我ながらよくあの土壇場であれを言えたと自分で自分を褒めたい。……まぁ、結局城で落ち合うことはできなかったが。
「そうでしたか。あの、そういえばブライエ国の言葉……通訳とか大丈夫でした?」
「あぁ、それに関しては大丈夫だった。というか、ある人がいてくれたおかげで大丈夫ではあったのだが……」
「ある人?」
「その人に関してはあとあと紹介するとして、リーシェはよく無事だったな」
「えぇ、海に落ちたあとはモットーに流れ着きまして。このメリッサと師匠に拾われまして」
そう言ってなんだか膝の上で居た堪れなさそうにしているメリッサの頭を撫でる。
「〈な、何?あたしの話?〉」
「〈えぇ、私とヒューベルトさんがメリッサに拾われたときの話〉」
「〈あぁ、そのこと。……ねぇ、あたしここにいて大丈夫?〉」
「〈えぇ、大丈夫よ。むしろわからない言葉で話しててごめんなさい〉」
「〈ううん、それはいいんだけど……〉」
なんだか落ち着かない様子のメリッサ。まぁ、無理もないだろう。異国に来てこうして聴き慣れない言葉ばかりで肩身も狭いだろうし、何より私とヒューベルトさんしか見知った人間がいないのはつらいだろう。
「彼女は何と?」
「あ、さっきの話の内容を伝えていました」
「そうか。それにしてもリーシェは本当に色々な国の言葉が喋られるのだな」
「えぇ、まぁ。一応一度訪問した国の言葉はある程度は喋れます。……というか、そういえばなぜ私達があそこにいるのがわかったんです?私がやられてるときに来てたんですよね?」
「あぁ、それは手紙が来てな」
「手紙?」
「差出人が不明だとのことで皆半信半疑ではあったが、もし本当なら行くべきだと私が進言してな」
「そうだったんですね」
ということは、ギルデルが先に根回しでもしていたのだろうか。一体彼はどこまで手を回しているのか。そもそも目的はなんなんだろうか。
とりあえず最終判断をしてくれたクエリーシェルのおかげで命が助かったのだと思うと、本当にありがたいことだと思う。もし彼が来てくれていなかったら、確実に私は死んでいただろう。
「間に合って本当によかった」
「こちらこそありがとうございます。おかげで助かりました。ところで、ヒューベルトさんは?」
「あぁ、ヒューベルトは今は別室で休んでいる。相当無理していたようで、高熱を出している状態だ」
「そんな……!」
ヒューベルトに無理させてしまっていたことを申し訳なく感じる。そもそも片腕で万全でない状態の彼には荷が重いことであっただろう。
私が取り乱すと、クエリーシェルに頭を撫でられる。顔を上げれば、彼は優しい顔をしていた。
「自分を責めるんじゃない。ブライエ国の人々が今懸命に治療してくれているから大丈夫だ。そもそもここまで連れてきてくれたことに感謝をしていたぞ。足手まといの自分を見捨てずに全力で頑張ってくれたと」
「ヒューベルトさん……」
「彼は強い。だからきっと大丈夫だ」
「そう、ですね……」
「〈ステラ?〉」
「〈ごめん、メリッサ。私が弱音を吐いてたらダメね〉」
先程まで何を言っていたかわからないメリッサは首を傾げていた。
「とりあえず、落ち着いたら色々と会うといい」
「では、早速……」
「こらこら、何を考えている。まだ本調子じゃないだろう?」
起き上がり、ベッドから出ようとする私を慌ててクエリーシェルが押さえつける。
「でも、挨拶は早めにしていたほうが」
「いや、早くするにしても早すぎる。まずはちゃんと休んでだな……」
「ケリー様は過保護すぎます」
「そうは言っても顔が腫れている状態で、身体もまだ痣だらけで……」
聞き捨てならない言葉にハッと顔を上げる。クエリーシェルは意図せずに言っていたようで、なぜ私がこんな反応をするのか理解できていないようだった。
「え、見たんです?」
「何を?」
「私の身体……」
そこまで言って初めて自分の失言に気づいたらしい。クエリーシェルは自覚すると、途端に慌て出した。
「いや、別に隅々まで見たわけでは……っ!」
「信じられない!ケリー様がそんなことなさるだなんて!」
「ご、誤解だ!別に私はたまたま腕についた痣を見ただけであって!」
こうやって一悶着していると、メリッサがくすくすと笑い出す。言葉は理解していなくても、痴話喧嘩をしていることだけは伝わったらしい。
「〈本当に仲良しなのね〉」
「〈いや、別に、いえ、仲良しは仲良しだけど、これは違って……っ〉」
なんだかメリッサに毒気を抜かれてしまって、お互いに苦笑し合うのだった。
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