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5章【外交編・モットー国】
59 逃走
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「〈足下気をつけてくださいね〉」
「〈はい〉」
抜き足差し足忍び足、となるべく音を立てないように階段を一段ずつゆっくりと下っていく。
心臓がバクバクと煩いくらいに大きな音を立てるのを、ふぅ、ふぅ、と小さく息を吐きながら少しでも緩和させるように努める。
こういうとき、緊張したり焦ったりするのは禁物だ。そして、いかなる場合も対応できるように常に気を張ることが大事なのだ。
全方位に気を張って、さらに緊張感を増しながら、ゆっくりゆっくり着実に階段を降りていった。
(もう少しで玄関。そこを出たら暗闇に紛れて、厩にいるであろうラクダを奪取しないと)
階段を降りきって、さて玄関のドアノブに手をかけたそのときだった。
「〈何をやっている!?〉」
大声に後ろを振り向けば、そこには先程女性と話していた男が立っていた。
つい外のことばかり考えていたのと外に出られるかもという安心感のせいで背後の気配に気づかなかった、と自らの不注意に内心自分自身を責めた。
(どうする?誤魔化しきれるか……っ)
「〈すみません、外の空気を味わいたくて〉」
「〈だったらなぜその寝ている娘を連れていく〉」
「〈それは……〉」
苦しい言い訳への指摘に言葉を詰まらせていると、こちらに距離を詰めようとしてくる男。このままではまずい、と手近にあった花瓶を勢いよく手で振り払った。
花瓶は勢いのままに床に落ちると花や水、割れた花瓶のカケラが散乱し、いい足止めになったことを確認すると、ヒューベルトに「〈逃げて!〉」と大きな声で叫んだ。
「〈くっそ!このアマ!!逃すか……っ!!〉」
男が慌ててこちら向かってくるのを玄関を走って出る。すると、外で待機していたらしい男達が一斉にこちらを向いた。
「〈逃げたぞ!捕まえろ!!〉」
中にいる男の声に反応して、こちらに向かって男達が一気に襲いかかってくる。
私はヒューベルト達を庇いながら、持っている荷物を振り回して「〈私が食い止めるから、先に行って!〉」とヒューベルト達を先に逃した。
「〈おいおい、ねーちゃん1人で俺達を相手にする気か?〉」
「〈随分と舐められたもんだな〉」
「〈それともなんだ、俺達に怖気づいて降参するつもりか?〉」
私だけが残ったことで、気が緩んだのだろう。じりじりと私との距離を詰めてくる男達。
「〈さぁ、お嬢ちゃん。大人しく観念するんだ。ほら、売られる前に傷物にされたくないだろ?〉」
「〈そうね、できれば穏便に済ませたいとは思ってますけど〉」
下卑た笑いをして余裕を見せる彼ら。私は彼らにバレないように隠れて、アルコールを詰めた瓶を取り出すと、一気にその場で叩きつけた。
「〈うわ!何だこれ!!〉」
「〈くさいぞ!?一体なんだ!??〉」
慌てふためく男達。その隙に、近くに焚かれた篝火を倒して、一面を火の海にしていく。
「〈くそ!火だ!!逃げろ!〉」
「〈このままだと燃える!水!早く水を用意しろ!!〉」
「〈あのアマを逃すな!追え!!追うんだ!!〉」
さらに混乱する彼らにバレないようにヒューベルトのあとを追って、暗闇に紛れながら逃走する。
「〈リーシェさん、ご無事でしたか!〉」
「〈はい。ちょっと足止めをしてきました〉」
やはりヒューベルトは背負って走っているせいか、脚が遅くなってしまっている。そのためすぐに追いつくことができたが、ということはつまり追手からも同様に追いつかれてしまう可能性があるということである。
(早く移動手段を確保しないと。彼らがやってくるのも時間の問題)
厩まではあともう少しの距離だった。きっとそこにも多数の見張りがいるだろうから、どうにか太刀打ちせねばならない。
「〈このあとは一気に村の外へ出ますよ!厩に着いたら私がどうにかラクダの確保をするので、すぐに乗って逃げてください!〉」
「〈わかりました〉」
夜目が利く私が先行して走る。まだ追手は追いつくまで手間取っていることを確認しながら、私達は厩まで走った。
「〈はい〉」
抜き足差し足忍び足、となるべく音を立てないように階段を一段ずつゆっくりと下っていく。
心臓がバクバクと煩いくらいに大きな音を立てるのを、ふぅ、ふぅ、と小さく息を吐きながら少しでも緩和させるように努める。
こういうとき、緊張したり焦ったりするのは禁物だ。そして、いかなる場合も対応できるように常に気を張ることが大事なのだ。
全方位に気を張って、さらに緊張感を増しながら、ゆっくりゆっくり着実に階段を降りていった。
(もう少しで玄関。そこを出たら暗闇に紛れて、厩にいるであろうラクダを奪取しないと)
階段を降りきって、さて玄関のドアノブに手をかけたそのときだった。
「〈何をやっている!?〉」
大声に後ろを振り向けば、そこには先程女性と話していた男が立っていた。
つい外のことばかり考えていたのと外に出られるかもという安心感のせいで背後の気配に気づかなかった、と自らの不注意に内心自分自身を責めた。
(どうする?誤魔化しきれるか……っ)
「〈すみません、外の空気を味わいたくて〉」
「〈だったらなぜその寝ている娘を連れていく〉」
「〈それは……〉」
苦しい言い訳への指摘に言葉を詰まらせていると、こちらに距離を詰めようとしてくる男。このままではまずい、と手近にあった花瓶を勢いよく手で振り払った。
花瓶は勢いのままに床に落ちると花や水、割れた花瓶のカケラが散乱し、いい足止めになったことを確認すると、ヒューベルトに「〈逃げて!〉」と大きな声で叫んだ。
「〈くっそ!このアマ!!逃すか……っ!!〉」
男が慌ててこちら向かってくるのを玄関を走って出る。すると、外で待機していたらしい男達が一斉にこちらを向いた。
「〈逃げたぞ!捕まえろ!!〉」
中にいる男の声に反応して、こちらに向かって男達が一気に襲いかかってくる。
私はヒューベルト達を庇いながら、持っている荷物を振り回して「〈私が食い止めるから、先に行って!〉」とヒューベルト達を先に逃した。
「〈おいおい、ねーちゃん1人で俺達を相手にする気か?〉」
「〈随分と舐められたもんだな〉」
「〈それともなんだ、俺達に怖気づいて降参するつもりか?〉」
私だけが残ったことで、気が緩んだのだろう。じりじりと私との距離を詰めてくる男達。
「〈さぁ、お嬢ちゃん。大人しく観念するんだ。ほら、売られる前に傷物にされたくないだろ?〉」
「〈そうね、できれば穏便に済ませたいとは思ってますけど〉」
下卑た笑いをして余裕を見せる彼ら。私は彼らにバレないように隠れて、アルコールを詰めた瓶を取り出すと、一気にその場で叩きつけた。
「〈うわ!何だこれ!!〉」
「〈くさいぞ!?一体なんだ!??〉」
慌てふためく男達。その隙に、近くに焚かれた篝火を倒して、一面を火の海にしていく。
「〈くそ!火だ!!逃げろ!〉」
「〈このままだと燃える!水!早く水を用意しろ!!〉」
「〈あのアマを逃すな!追え!!追うんだ!!〉」
さらに混乱する彼らにバレないようにヒューベルトのあとを追って、暗闇に紛れながら逃走する。
「〈リーシェさん、ご無事でしたか!〉」
「〈はい。ちょっと足止めをしてきました〉」
やはりヒューベルトは背負って走っているせいか、脚が遅くなってしまっている。そのためすぐに追いつくことができたが、ということはつまり追手からも同様に追いつかれてしまう可能性があるということである。
(早く移動手段を確保しないと。彼らがやってくるのも時間の問題)
厩まではあともう少しの距離だった。きっとそこにも多数の見張りがいるだろうから、どうにか太刀打ちせねばならない。
「〈このあとは一気に村の外へ出ますよ!厩に着いたら私がどうにかラクダの確保をするので、すぐに乗って逃げてください!〉」
「〈わかりました〉」
夜目が利く私が先行して走る。まだ追手は追いつくまで手間取っていることを確認しながら、私達は厩まで走った。
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