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5章【外交編・モットー国】

60 脱出

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「〈うん?何だ?……うわぁああああ!〉」

厩にいたのは青年2人。彼らにはまだ連絡がいってなかったのだろう、どちらもまだ私達が逃げ出したことに気づいていなかったようで、気を抜いていたらしい。

私が手近にあった馬糞を投げつけると情けない声をあげて片方の男が倒れた。

「〈ちょ、どうしたんだ!?うわっ、くっせぇ!!〉」
「〈馬糞が、いきなり……っ〉」
「〈いきなり?……って、そんなわけが……っお前ら何なんだ!?〉」

暗闇に紛れて忍び込んでいた私達の姿を見て驚愕する男。

そして、慌てふためいている2人に厩舎きゅうしゃにあった掃除用フォークで畳み掛ける。隙をついて思いきり肩に振り下ろして沈めたあと、全体重をかけて転がってる男共々フォークで身体を固定した。

その間にヒューベルト達をラクダに乗せ、先に開いておいた入り口から出て行ってもらう。

「〈こんの、どきやがれ!!〉」
「〈くっそ!逃すか!!〉」

起き上がるときの重心を押さえているため、2人共起き上がれないのだろう。ヒューベルト達がちゃんと乗れったのを確認してから、押さえる力を緩めて後ろに勢いよく飛び退いた。

「〈すみません、先に行きます!〉」
「〈えぇ!すぐに追いつきますから!……さて、貴方達の相手は私です。どうぞ、好きなだけ馬糞をご堪能ください〉」

そう言って集めておいた馬糞を彼らに投げつける。そして、彼らが怯んでいる隙に、私は馬小屋にいる全ての馬の出入り口を解放すると、彼らは次々と厩から飛び出していった。

「〈ちくしょう!馬が!!ラクダが!!〉」
「〈くっせぇ、くっせぇ、くそ!!〉」
「〈では、ご機嫌よう〉」

一頭の馬に勢いよく乗ったあと、馬糞まみれになった服と手袋を脱ぐと、門のところにある篝火で燃やしたあと彼らに投げつける。

そして、そのまま村を脱出した。

「〈はぁ……、脱出成功ね〉」

後ろを振り向けば、村の門が轟々と燃え盛る炎で明るくなっているのが見える。出入り口はあそこ1つであったし、馬もいないことだ、恐らくすぐには追って来れないだろう、と思いながらも馬を早く走らせた。

「〈リーシェさん!ご無事でしたか!!〉」
「〈えぇ、大丈夫です〉」
「〈随分とまた派手に……〉」

ヒューベルトも村の方を見て目を細める。そのあと、私を見て苦笑する彼に「〈何か言いたそうですね〉」と含みのある言葉をかけると、「〈いえ、貴女を敵に回すと恐ろしいな〉」と答えられる。

「〈今更ですか?〉」
「〈えぇ、まぁ、そうですね。今更ではありますね〉」
「〈幻滅しました?〉」
「〈いえ、とんでもない!味方なことが心強いです〉」

なんだか言わせてしまって申し訳なく思いながら、ふとヒューベルトの背に乗せたメリッサを見る。メリッサは一向に動かず、未だに彼女は夢の中のようだった。

「〈メリッサ起きませんね〉」
「〈それほど疲れていたのかもしれませんね〉」
「〈まぁ、ある意味起きてなくて良かったかもしれないです。馬糞を投げる様を見せたくはありませんでしたから〉」
「〈それは、……確かに〉」

馬を走らせていると、脱出での興奮が冷め、だんだんと自分の臭いが気になってくる。

我ながらすんなり脱出できたことはよかったが、さすがにちょっと若い女がやることではなかったことでは?とちょっとだけ後悔してきた。

(もしこれでケリー様に会ったら……)

彼のウッというような表情を思い浮かべて、さすがにこの状態でこのまま国境を越えるのはいかがなものかと思い始める。

「〈すみません、どこか水脈か海の近くに寄り道してもいいです?追手が追いつくほど時間はかけませんので〉」
「〈えぇ、もちろんですよ〉」
「〈すみません〉」

気になり始めるととことん気になるもので、いたるところが臭い気がして、早く水浴びがしたいと馬をさらに速く走らせるのだった。
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