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4章【外交編・サハリ国】

99 約束

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「ステラ!」

マーラに声をかけられ、立ち止まる。なぜか、目にいっぱい涙を溜めて、今にも泣きそうになっていた。

「え、マーラ様、大丈夫です!?目にゴミでも入りました!??」
「ち、違いますわよ!本当デリカシーがないですわね!!ワタクシも別に泣くつもりは……!その……っ、」

言いながら大粒の涙をぽろぽろと溢すマーラ。そのいたいけな姿に、私も勝手に何かこみ上げてくる。

「マーラ様、心配なさらないでください。私は結構頑丈ですし、ポジティブですし、無駄に悪運が強いので、死ぬことはありませんよ」
「そうかもしれませんけど……!貴女はとっても無鉄砲で向こう見ずで、無謀で、行き当たりばったりで……」
「それ、ほとんど悪口ですよね」

まぁ、酷い言い草だが、心当たりはあるから下手に言い返せない。しかも泣きながら言うもんだから、思わず笑ってしまった。

「確かに色々と……考えてるときと考えてないときもありますが、大丈夫なので。ほら、約束しましょう。絶対生きて帰ってきますし、色々と落ち着いたら……そうですね、アーシャと一緒に食事しましょうよ」
「絶対、ですからね!今、言質取りましたわよ。アーシャ様との仲介を反故にしたらワタクシ、死んでも死に切れないほど呪いますからね」
「それは恐い……」

(というか、私よりもアーシャの比重高くないか?)

「あと、忘れないうちに……これを」
「これは、飾り紐ですか?」

言われて手渡されたのは髪結の紐だった。布を裂いて編み込んだもののようで、組紐とは多少違って厚みがあるものの、髪を結ぶのに差し支えがないものに仕上がっていた。

色もサハリの染色技術がたっぷり詰まったもののようで、色鮮やかで綺麗だった。私のプラチナの髪に花が咲いたかのようになりそうだと、つけたときを想像して嬉しく感じる。

「どうもありがとうございます」
「いつも無茶ばかりなさるから、きちんと髪を結っておいたほうがいいでしょうからね。女性の髪は美しく保つものですから」
「そうですね」

船にいたときは悲惨な髪になっていた少女がこんなことを言うなんて、と思いながらも、胸がじんわりと熱くなる。

ロゼットといい、マーラといい、年は違うがこうして自分と仲良くしてくれる人がいるというのはとても嬉しいものだ。

(ロゼット……)

「ちょ、ちょっと待っててください!」
「え!きゅ、急になんですの!??」

ロゼットを思い出し、慌てて船の自室へと向かう。そしていくつか掻き集めたあと、すぐさまマーラのところへ戻ってきた。

「はぁはぁはぁはぁ……っ」
「ちょっと、大丈夫ですの?急に走りだしたりなんかして」
「えぇ、大丈夫です。先程の髪結の紐の御礼にこれを貸します」
「貸すって……くださるわけじゃないんですのね……」
「えぇ、すみません。私も借りてる身でして」

そう言って渡したのは数冊の本。いずれも、ロゼットから借りた物だった。

「船で読みたそうにしていたのを思い出しまして」
「べ、別にそんなんじゃなかったですけど……!」
「じゃあ読みません?」
「読みますわよ!もう、本当面倒な方ですわね」
「それ、返してもらいために絶対帰ってきますから」

そういえば、このやりとりも何度目か、と思い返す。考えてみれば、ロゼットやアーシャともこうしたやりとりをしてきて、我ながらバリエーションが貧しいなとも思う。

まぁ、こういうのは本人達に気づかれてないならいいのだが。

「わかりましたわ。絶対、約束ですからね」
「えぇ、マーラ様もカジェ国までの道中はお気をつけて。あと、頑張って怒られて来てください」
「それは……善処致しますわ」

お互いに笑い合う。マーラの涙もいつの間にか消えていた。

「では、また」
「えぇ、また!」

そう言いながら、手を振って船内へと戻る。

「挨拶は済ませたか?」
「えぇ、きちんと済ませました」
「そうか。では、出発しようか」

岸辺には、マーラの隣にブランシェも立っていて、仲睦まじげに寄り添っている。この感じなら、私がまた来るときにはいい報告が待っているかもしれない。

「お元気でー!また必ず、来るからーーーー!!」

大声を張りながら、大手を振る。船は離岸し、どんどんと離れていくが、彼らはずっと私達の船を見送ってくれるのだった。
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