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2.5章【閑話休題・恋愛編】
バース編3
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もう1人のメイド、ロゼットさんはとても可愛らしい人だった。
色白で線が細く、まるでどこかのご令嬢のように品がある立ち振る舞いでとても美しくて、どうして彼女がメイドをしているのだろうか、と思ったほどだ。
そしてつい、何の気なしに、そんな疑問を彼女に向けて口にしてしまったのがいけなかった。サッと悪くなる顔色。何か嫌なことを思い出させてしまったようで、我ながら不躾だと気付いて、すぐに謝った。
「いえ、すみません、お気遣いさせてしまって。隠しても仕方のないことなのですが、私の本名はロゼット・クォーツです。これがどういう意味か、おわかりでしょうか?」
クォーツ、と言えばあの例の事件を起こしたクォーツ家ということだろうか。確か、侯爵家のクォーツ家が大規模なテロを起こしたとかどうとか。
詳細はわからないものの、自宅で引きこもっていたとはいえ、それでも耳にしたくらいだ。相当な事件だったのだろうと、安易に想像がつく。
「え、と、すみません。本当に、不躾なことを言ってしまって」
「いえ、どうせいずれバレてしまうことですし。むしろ同僚が私で申し訳ないです。もし誰かから嫌なことを言われてしまったら、そのときはおっしゃってください」
悲しげな表情をする彼女に、ギュッと胸が締め付けられる。恐らく、今まで心ない言葉をたくさん浴びせられていたことだろう。
自身が犯した犯行ではないとはいえ、家族がやった過ちは、本人ないし家族へと憎しみがいってしまう。被害者がいる事件なら、なおさらだ。
こんな表情をさせたかったわけではないのに、自分の安易な発言が悔やまれる。そして、僕自身が人を傷つけてしまうことなど、想像もしていなかった。
(あぁ、言葉1つで人を喜ばせたり傷つけたりしてしまうなんて。しかも、傷つけられていた僕が、それをしてしまうだなんて)
常に被害者であった自分が、加害者になるということがあるなどと、考えたこともなかった。ひたすら外界との接触を絶っていたため、こういうコミュニケーション能力の不足を痛感する。
言葉の重みを感じて1人で沈み込んでいると「そんなに落ち込まないでください」とロゼット本人から声をかけられる。
「先に話すきっかけができて良かったです。こういうのって、自分からなかなか言えませんから」
「そうですか?それなら良いのですが」
相変わらずしょげていると、ロゼットが微笑みかけてくれる。
「えぇ、バースさんは優しいんですね」
「いえ、そんなことは。僕はちょっと……いや、考えなしというか、人と違った部分がたくさんあるので、もし、今後僕が気に障ることを言ったらすぐに言ってください」
率直に言うと、「わかりました」とそう言われ、そのときはリーシェさんにロゼットさんが呼ばれて、そこでその話は終わった。
その一件があったからか、ロゼットさんとはそれなりに仲良くさせてもらった。そもそも、ヴァンデッダ卿もリーシェさんも基本忙しくしていて、あまり在宅していることがなく、必然的にロゼットさんと一緒にいることが多かった。
「どうしました?」
「あ、バースさん。すみません、ここの編み目が飛んじゃったみたいで、どうしたら良いかと」
「あぁ、ここ抜けちゃったんですね。なら一度戻しましょうか、代わりますよ」
「すみません、ありがとうございます」
ロゼットさんは元公爵令嬢ということで、編み物や刺繍など慣れない部分はリーシェさんだけでなく、僕がフォローに回ることもあった。最近では、専ら僕が家事関連に関しては指導に当たっていると言ってもおかしくはない。
「クエリーシェル様もそうですが、バースさんも男性で貴族だというのにこういうの得意なんですね」
「ヴァンデッダ卿はどうしてかはわかりませんが、僕は姉が4人いるので自然と覚えた感じです」
「まぁ、お姉様が4人も!」
4人も女が続き、跡取りがどうしても欲しかった父は、どうしてもと母に頼み込んで説得して産まれたのが僕らしい。まぁ、貴族にありがちな話だ。結局その僕は、跡取りとしてはあまり機能していないが。
だが、何だかんだと愛情はかけてもらったとは思う。見捨てたり見放したりすることはたくさんできたはずなのに、両親は腫れ物扱いではあったものの家に置いてくれたし、嫁いでいる姉もちょくちょく僕の様子を見に来てくれた。
「姦しいですが、それでも大事な姉です」
「それはいいことですね。今度お会いしたいです」
「え、会ったらそれはもう大変ですよ!根掘り葉掘り聞かれますし!あ、事件のこととかじゃなくて、趣味や好きなものとかドレスの話とかでしょうけど」
僕が焦っていたのが面白いのか、ロゼットさんがクスクスと笑う。
「仲がよろしいんですね」
「まぁ、そうですかね。そうかもしれません」
「……羨ましい」
彼女がぽつりと言った言葉が、なぜか胸に響く。泣いているわけでもないのに、どこか寂しげな表情の彼女を見ると、以前のようにキュッと胸が締め付けられる。
(ロゼットさんの笑う顔が見たい。彼女を守りたい)
今まで恋愛などしてこなかった僕が、初めて抱いた恋心だった。
色白で線が細く、まるでどこかのご令嬢のように品がある立ち振る舞いでとても美しくて、どうして彼女がメイドをしているのだろうか、と思ったほどだ。
そしてつい、何の気なしに、そんな疑問を彼女に向けて口にしてしまったのがいけなかった。サッと悪くなる顔色。何か嫌なことを思い出させてしまったようで、我ながら不躾だと気付いて、すぐに謝った。
「いえ、すみません、お気遣いさせてしまって。隠しても仕方のないことなのですが、私の本名はロゼット・クォーツです。これがどういう意味か、おわかりでしょうか?」
クォーツ、と言えばあの例の事件を起こしたクォーツ家ということだろうか。確か、侯爵家のクォーツ家が大規模なテロを起こしたとかどうとか。
詳細はわからないものの、自宅で引きこもっていたとはいえ、それでも耳にしたくらいだ。相当な事件だったのだろうと、安易に想像がつく。
「え、と、すみません。本当に、不躾なことを言ってしまって」
「いえ、どうせいずれバレてしまうことですし。むしろ同僚が私で申し訳ないです。もし誰かから嫌なことを言われてしまったら、そのときはおっしゃってください」
悲しげな表情をする彼女に、ギュッと胸が締め付けられる。恐らく、今まで心ない言葉をたくさん浴びせられていたことだろう。
自身が犯した犯行ではないとはいえ、家族がやった過ちは、本人ないし家族へと憎しみがいってしまう。被害者がいる事件なら、なおさらだ。
こんな表情をさせたかったわけではないのに、自分の安易な発言が悔やまれる。そして、僕自身が人を傷つけてしまうことなど、想像もしていなかった。
(あぁ、言葉1つで人を喜ばせたり傷つけたりしてしまうなんて。しかも、傷つけられていた僕が、それをしてしまうだなんて)
常に被害者であった自分が、加害者になるということがあるなどと、考えたこともなかった。ひたすら外界との接触を絶っていたため、こういうコミュニケーション能力の不足を痛感する。
言葉の重みを感じて1人で沈み込んでいると「そんなに落ち込まないでください」とロゼット本人から声をかけられる。
「先に話すきっかけができて良かったです。こういうのって、自分からなかなか言えませんから」
「そうですか?それなら良いのですが」
相変わらずしょげていると、ロゼットが微笑みかけてくれる。
「えぇ、バースさんは優しいんですね」
「いえ、そんなことは。僕はちょっと……いや、考えなしというか、人と違った部分がたくさんあるので、もし、今後僕が気に障ることを言ったらすぐに言ってください」
率直に言うと、「わかりました」とそう言われ、そのときはリーシェさんにロゼットさんが呼ばれて、そこでその話は終わった。
その一件があったからか、ロゼットさんとはそれなりに仲良くさせてもらった。そもそも、ヴァンデッダ卿もリーシェさんも基本忙しくしていて、あまり在宅していることがなく、必然的にロゼットさんと一緒にいることが多かった。
「どうしました?」
「あ、バースさん。すみません、ここの編み目が飛んじゃったみたいで、どうしたら良いかと」
「あぁ、ここ抜けちゃったんですね。なら一度戻しましょうか、代わりますよ」
「すみません、ありがとうございます」
ロゼットさんは元公爵令嬢ということで、編み物や刺繍など慣れない部分はリーシェさんだけでなく、僕がフォローに回ることもあった。最近では、専ら僕が家事関連に関しては指導に当たっていると言ってもおかしくはない。
「クエリーシェル様もそうですが、バースさんも男性で貴族だというのにこういうの得意なんですね」
「ヴァンデッダ卿はどうしてかはわかりませんが、僕は姉が4人いるので自然と覚えた感じです」
「まぁ、お姉様が4人も!」
4人も女が続き、跡取りがどうしても欲しかった父は、どうしてもと母に頼み込んで説得して産まれたのが僕らしい。まぁ、貴族にありがちな話だ。結局その僕は、跡取りとしてはあまり機能していないが。
だが、何だかんだと愛情はかけてもらったとは思う。見捨てたり見放したりすることはたくさんできたはずなのに、両親は腫れ物扱いではあったものの家に置いてくれたし、嫁いでいる姉もちょくちょく僕の様子を見に来てくれた。
「姦しいですが、それでも大事な姉です」
「それはいいことですね。今度お会いしたいです」
「え、会ったらそれはもう大変ですよ!根掘り葉掘り聞かれますし!あ、事件のこととかじゃなくて、趣味や好きなものとかドレスの話とかでしょうけど」
僕が焦っていたのが面白いのか、ロゼットさんがクスクスと笑う。
「仲がよろしいんですね」
「まぁ、そうですかね。そうかもしれません」
「……羨ましい」
彼女がぽつりと言った言葉が、なぜか胸に響く。泣いているわけでもないのに、どこか寂しげな表情の彼女を見ると、以前のようにキュッと胸が締め付けられる。
(ロゼットさんの笑う顔が見たい。彼女を守りたい)
今まで恋愛などしてこなかった僕が、初めて抱いた恋心だった。
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