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2章【告白編】
48 違和感
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何やら外が騒がしい気がして、フッと意識が覚醒する。外はまだ明るいから、そこまでは寝入っていないようだった。
「……っ!さ、……わ、……お……わ!」
「だ……、だ……す!い……、…………」
(何事だろうか?)
声の感じから察するに、何か言い合いというか、お互い興奮して話しているように思える。叫ぶ、と言った表現ほどではなさそうだが、それなりに大きな声であることは確かだ。
恐らく推察するに、ここまで音が遠いと玄関先でのやりとりだろうが、遠いのとお互いに普段のトーンの会話でないせいか、会話の内容はほぼほぼわからない。
確か今日、クエリーシェルは国境整備のほうに赴いているから朝から不在のはず。声の感じからバースではなさそうなので、恐らくロゼットと誰かなのだろうが、ロゼットが言い合いをしているのなんて珍しい。
(どうしたのだろう?トラブルかしら)
こんなときに自分が使い物にならないのが情けない。さすがにもし強盗やら悪漢だったらバースが対処するだろうが、矢面に立っているのがロゼットなら、恐らくあまり害のない訪問者だろう。
誰か今日訪問予定があったか、頭痛と目眩で鈍っている頭を一生懸命稼働させて思い出すが、さして思いつかない。そもそも、ここのところ船旅の準備のためアポイントは極力断っていた。
(ということは、アポなしで誰か来ているのか?)
アポイントを取らずに来そうな人を考え、クエリーシェルの姉、マルグリッダを思い出す。だがもし彼女が来ているなら、恐らく特に言い合いなどならずに歓待するだろう。
(では、他に誰だろう?)
さすがに領民が領主のメイドに食ってかかることは早々ないだろうし、領民はクエリーシェルのことを尊敬している者が多く、トラブルはほとんどない。
たまに新参者であろう領民がクレームをつけてくることはあったが、クエリーシェルないしマルグリッダがその辺は上手く抑えていたというか、適当にあしらっていたというか、ともかくあまり大事になったことはない。
(あとでロゼットに聞けば良いか)
とにかく無事に済めばいいが、と思っていたら、急に声が止んだ。どうにかなったのか、とホッと胸を撫で下ろせば、自室の扉が開いた。
「……はぁ、全くもう、いつもいつも……。っ!リーシェさん、起きられたんですね」
声を出さずに頷くと、ロゼットは苦笑気味な表情をする。入室したときにあった眉間の皺はないが、あからさまなその姿に、何か彼女にとって不快なことがあったようだということはすぐにわかった。
ジッと声に出さずにロゼットを見つめると、私の意図を察したのか少しだけ額を押さえると、「ペルルーシュカ様です」と観念したように答えた。
「騒ぎ、聞こえてました?」
静かに頷くと、はぁ、とまた溜息をつくロゼット。こんな彼女の様子は見たことがなく、珍しく苛立っているようだった。
「実は、そのうちお話しようとは思っていたのですが、ペルルーシュカ様がほぼ毎日のようにお見えになりまして」
「毎、日……?」
声が擦れながら私が復唱すると、ロゼットはベッドの近くに椅子を置き、私のそばに座った。
「えぇ、忙しくてアポイントは取れない、と伝えてはいるのですが、どうしても、と。でも特別、要件があるわけではないらしくて。できれば部屋で帰りを待っていたいとかおっしゃるんですが、そういうわけにもいかないと」
相当毎日ペルルーシュカがごねているのだろう。彼女の様子で容易に想像できる。
「べルルージュガざま゛の゛ごりょうじんは?」
ガラガラな声で聞くと、ロゼットが顔を近づけて、よく聞こえるように耳を傾けてくれる。そして聞き終えると、頭の中で整理しているのか、沈黙した。
(こんな声で本当に申し訳ない)
「……あぁ、ご両親ですか?彼らは特に来ていらっしゃいませんよ。彼女単独です。ペルルーシュカ様は養子で入られたので、あまりご両親とは仲がよくないというか、ちょっと特殊な関係なんですよ」
(ペルルーシュカが養子?)
初耳な情報に、少し戸惑う。だが、確かに言われてみれば合点がいくことが多い。
最初の出会いだって、1人で悪漢に捕まり、そのことをファーミット家が知ったのは解決してからだった。慣れない土地に子供だけ、しかも女性を放置したり単独行動させるなど滅多に、というか普通は絶対にあり得ない。
また、普通のご令嬢なら母親から学ぶ機会が多く、そのため必然的に母親と過ごすことが多いが、彼女はどちらかというと父親と一緒にいることが多く、あまり彼女の母親を目にすることはない。
気づくと色々な部分に疑問を持つ。そして、その不自然さがとても気になった。
「あまり大きな声でペラペラ言うのも憚られますが、養子に迎えたのも別にそこまで古い話でもなくて。あと、そのペルルーシュカ様が元々いた家の方が権力があったのか、ご両親達は彼女には逆らえないようなところが。私も詳しくは知りませんが、父も、ファーミット家というよりペルルーシュカ様とお話されていることが多かったように思います。具体的に何を話していたかは存じませんけど」
(初老の男が小娘と?)
ますます訳がわからない。ファーミット家とクォーツ家が懇意にしていたとロゼットは言うが、クォーツ家の調査の際にはそんな情報欠片もなかった。
隠蔽したのか、とファーミット家にも秘密裏に調査に入ったそうだが、そこでも特に目ぼしいものが出ず、結局調査は打ち切りになったそうだ。
その調査は、以前クエリーシェルがファーミット家に不審さを抱いて国王に頼んで行ったものだが、ファーミット家ではなくペルルーシュカ自身が何か隠しているとなると、調査結果はまた変わる可能性がある。
だが、いくら何でも勝手にご令嬢の部屋を調べるなんてことはできない。そもそも、彼女がいくら不自然とはいえ、これと言った証拠もなければ何も誰も動くことはできなかった。
(うーん、どうしたものかなぁ)
まだ彼女が何か隠してるとわかったわけでもないが、どうにも気になる。こういうところは疑り深いというか、興味を唆られるものに突っ走ってしまう私の悪い癖だ。
「というか、ついうっかり話込んじゃいましたけど、もうちょっと寝ててください!昼食ご用意致しますから、それを食べたらまた寝ててくださいね!」
「あ゛ーい」
素直に返事をすると、ちょっと気持ちが落ち着いたのか、表情は和らいでいた。ロゼットは先程の小競り合いで乱れたであろう髪を掻き上げると、椅子を直して部屋を出て行く。
(本当早く治さないとなー)
あまり出立まで時間がない。準備とペルルーシュカと並行してこなしていたら、アウトだ。いや、このまま寝込んでいてもアウトだが。
(どうにか今日で治そう。というか、風邪用の薬とか用意しとけば良かった)
あまり病気にならないからと、つい常備薬を用意することを忘れていた。私がいない間に困らないようにいくつか作っておこうと、身体を起こし、手近なところにあった紙とペンで思いつくままに書き出す。
「リーシェさん、昼食ですー」
改めて昼食を持ちながら入室してきたロゼットと、ペンを持ちながら目が合う。その後、こっ酷く叱られたのは言うまでもなかった。
「……っ!さ、……わ、……お……わ!」
「だ……、だ……す!い……、…………」
(何事だろうか?)
声の感じから察するに、何か言い合いというか、お互い興奮して話しているように思える。叫ぶ、と言った表現ほどではなさそうだが、それなりに大きな声であることは確かだ。
恐らく推察するに、ここまで音が遠いと玄関先でのやりとりだろうが、遠いのとお互いに普段のトーンの会話でないせいか、会話の内容はほぼほぼわからない。
確か今日、クエリーシェルは国境整備のほうに赴いているから朝から不在のはず。声の感じからバースではなさそうなので、恐らくロゼットと誰かなのだろうが、ロゼットが言い合いをしているのなんて珍しい。
(どうしたのだろう?トラブルかしら)
こんなときに自分が使い物にならないのが情けない。さすがにもし強盗やら悪漢だったらバースが対処するだろうが、矢面に立っているのがロゼットなら、恐らくあまり害のない訪問者だろう。
誰か今日訪問予定があったか、頭痛と目眩で鈍っている頭を一生懸命稼働させて思い出すが、さして思いつかない。そもそも、ここのところ船旅の準備のためアポイントは極力断っていた。
(ということは、アポなしで誰か来ているのか?)
アポイントを取らずに来そうな人を考え、クエリーシェルの姉、マルグリッダを思い出す。だがもし彼女が来ているなら、恐らく特に言い合いなどならずに歓待するだろう。
(では、他に誰だろう?)
さすがに領民が領主のメイドに食ってかかることは早々ないだろうし、領民はクエリーシェルのことを尊敬している者が多く、トラブルはほとんどない。
たまに新参者であろう領民がクレームをつけてくることはあったが、クエリーシェルないしマルグリッダがその辺は上手く抑えていたというか、適当にあしらっていたというか、ともかくあまり大事になったことはない。
(あとでロゼットに聞けば良いか)
とにかく無事に済めばいいが、と思っていたら、急に声が止んだ。どうにかなったのか、とホッと胸を撫で下ろせば、自室の扉が開いた。
「……はぁ、全くもう、いつもいつも……。っ!リーシェさん、起きられたんですね」
声を出さずに頷くと、ロゼットは苦笑気味な表情をする。入室したときにあった眉間の皺はないが、あからさまなその姿に、何か彼女にとって不快なことがあったようだということはすぐにわかった。
ジッと声に出さずにロゼットを見つめると、私の意図を察したのか少しだけ額を押さえると、「ペルルーシュカ様です」と観念したように答えた。
「騒ぎ、聞こえてました?」
静かに頷くと、はぁ、とまた溜息をつくロゼット。こんな彼女の様子は見たことがなく、珍しく苛立っているようだった。
「実は、そのうちお話しようとは思っていたのですが、ペルルーシュカ様がほぼ毎日のようにお見えになりまして」
「毎、日……?」
声が擦れながら私が復唱すると、ロゼットはベッドの近くに椅子を置き、私のそばに座った。
「えぇ、忙しくてアポイントは取れない、と伝えてはいるのですが、どうしても、と。でも特別、要件があるわけではないらしくて。できれば部屋で帰りを待っていたいとかおっしゃるんですが、そういうわけにもいかないと」
相当毎日ペルルーシュカがごねているのだろう。彼女の様子で容易に想像できる。
「べルルージュガざま゛の゛ごりょうじんは?」
ガラガラな声で聞くと、ロゼットが顔を近づけて、よく聞こえるように耳を傾けてくれる。そして聞き終えると、頭の中で整理しているのか、沈黙した。
(こんな声で本当に申し訳ない)
「……あぁ、ご両親ですか?彼らは特に来ていらっしゃいませんよ。彼女単独です。ペルルーシュカ様は養子で入られたので、あまりご両親とは仲がよくないというか、ちょっと特殊な関係なんですよ」
(ペルルーシュカが養子?)
初耳な情報に、少し戸惑う。だが、確かに言われてみれば合点がいくことが多い。
最初の出会いだって、1人で悪漢に捕まり、そのことをファーミット家が知ったのは解決してからだった。慣れない土地に子供だけ、しかも女性を放置したり単独行動させるなど滅多に、というか普通は絶対にあり得ない。
また、普通のご令嬢なら母親から学ぶ機会が多く、そのため必然的に母親と過ごすことが多いが、彼女はどちらかというと父親と一緒にいることが多く、あまり彼女の母親を目にすることはない。
気づくと色々な部分に疑問を持つ。そして、その不自然さがとても気になった。
「あまり大きな声でペラペラ言うのも憚られますが、養子に迎えたのも別にそこまで古い話でもなくて。あと、そのペルルーシュカ様が元々いた家の方が権力があったのか、ご両親達は彼女には逆らえないようなところが。私も詳しくは知りませんが、父も、ファーミット家というよりペルルーシュカ様とお話されていることが多かったように思います。具体的に何を話していたかは存じませんけど」
(初老の男が小娘と?)
ますます訳がわからない。ファーミット家とクォーツ家が懇意にしていたとロゼットは言うが、クォーツ家の調査の際にはそんな情報欠片もなかった。
隠蔽したのか、とファーミット家にも秘密裏に調査に入ったそうだが、そこでも特に目ぼしいものが出ず、結局調査は打ち切りになったそうだ。
その調査は、以前クエリーシェルがファーミット家に不審さを抱いて国王に頼んで行ったものだが、ファーミット家ではなくペルルーシュカ自身が何か隠しているとなると、調査結果はまた変わる可能性がある。
だが、いくら何でも勝手にご令嬢の部屋を調べるなんてことはできない。そもそも、彼女がいくら不自然とはいえ、これと言った証拠もなければ何も誰も動くことはできなかった。
(うーん、どうしたものかなぁ)
まだ彼女が何か隠してるとわかったわけでもないが、どうにも気になる。こういうところは疑り深いというか、興味を唆られるものに突っ走ってしまう私の悪い癖だ。
「というか、ついうっかり話込んじゃいましたけど、もうちょっと寝ててください!昼食ご用意致しますから、それを食べたらまた寝ててくださいね!」
「あ゛ーい」
素直に返事をすると、ちょっと気持ちが落ち着いたのか、表情は和らいでいた。ロゼットは先程の小競り合いで乱れたであろう髪を掻き上げると、椅子を直して部屋を出て行く。
(本当早く治さないとなー)
あまり出立まで時間がない。準備とペルルーシュカと並行してこなしていたら、アウトだ。いや、このまま寝込んでいてもアウトだが。
(どうにか今日で治そう。というか、風邪用の薬とか用意しとけば良かった)
あまり病気にならないからと、つい常備薬を用意することを忘れていた。私がいない間に困らないようにいくつか作っておこうと、身体を起こし、手近なところにあった紙とペンで思いつくままに書き出す。
「リーシェさん、昼食ですー」
改めて昼食を持ちながら入室してきたロゼットと、ペンを持ちながら目が合う。その後、こっ酷く叱られたのは言うまでもなかった。
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