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2章【告白編】
47 風邪
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「だから、ステラは何も気負わなくていいわ。貴女が起こした戦争ではないのだから。でも、気をつけて。貴女が生きていることは、先日の件でバレてしまったわ。だから、くれぐれも注意して。誰が敵か誰が味方か、きちんと見極めることが大事よ。もちろん、ステラならそれ以外の方法もありだと思って言うけど」
なんとなく癖のある言い方に、この人はどんな未来を見ているのだろう、と正直気にはなるが、どうせ教えてはもらえないだろうと口にすることを諦める。
実際に目の前にいる姉は、私の思考を読んだからか、ニコニコというよりニヤニヤと何か知っている素振りを見せるが、教えてもらえそうにはなかった。
「わかったわ。ねぇ、姉様。私は結局、誰かと結婚するの?」
「それも秘密。言ってしまったら面白くないでしょう?それに、そもそもステラはこういう経験が少ないのだから、たくさん恋愛を経験した方がいいわ。今が一番、女性として華やぐときなのだから」
青春っていいわねぇ、といつもの姉のように、また私は幼子相手のように躱され、はぐらかされる。でも、不思議と嫌な気持ちはなかった。
(実際に知ったところで、どうなるかわからないしね)
未来は移ろいやすいもの、だから己自身で切り開かなければならない、と母にもよく言われていたことを思い出す。
「だから、自分の気持ちには素直になりなさい?これはステラの人生なのだから。貴女が望むままに生きていいの」
「さっきは私のワガママを聞けって言ったくせに」
「それはそれ、これはこれ。あぁ、もう時間ね。今日はゆっくり休むこと。最近のステラは働きすぎだわ」
姉に目を手で塞がれる。そして、「またいつの日か。ステラの幸せを常に願っているわ」と耳元で囁かれると、そのまま意識は浮上した。
「お゛あ゛よ゛う゛、ござい゛ま゛ず」
「まぁ、リーシェさん!お声、どうなさったの?!」
「……ガゼを、いぎまじだ」
「ま、まぁ大変!ちょ、ちょっと、とりあえず寝ててください!!」
ふらふらとキッチンに現れたガラガラ声の私に、ギョッとしながらロゼットが慌てて私を引き摺るようにしてベッドに戻す。
「今日はどこにも行かせませんからね!」
珍しく語気を荒めに念を押されると、そのままロゼットは慌ただしく部屋を出て行った。
(こうやって何もしないで寝ているのは、あの入院以来か)
と言っても癒着してはまずいと、ちょこちょこだが軽く動くことは推奨されてたので、全く寝込んでいたわけでもないが。
そもそも身体を動かすことが好きというかそういう性分なので、それはそれで良かったのだが、今は諸症状のせいで動くのは正直億劫だった。
喉が痛い。頭が痛い。鼻水も出る。目眩もする。身体が火照って、怠い。節々が痛い。典型的な風邪の症状である。恐らくそのうち高熱が出て、咳も出るようになるだろう。
(嫌だなぁ……)
ゆっくり休めと姉に言われたのは、こういうことだったのか、と気付いて溜息をつく。せめて先に、このあと風邪ひくよー、とか声を掛けてくれたらある程度心構えができたものを、と心の中で勝手に姉に八つ当たりする。
(まぁ、そもそも体調管理を疎かにしていたのは自分だしね)
確かにここのところ忙しくしてたから、体調などに気遣ってなかったが、まさかこんなときに発熱するとは。
(風邪ひいたのなんて、いつぶりだろう)
身体が丈夫なことを売りの1つにしていたつもりだが、そのぶん慣れてないせいか、病気になるとドッとしんどくなる。
今もただ痛む身体を持て余していて、寝たいけど痛みで寝れないという、非常に矛盾した状態に陥っているところだ。
(とにかく寝よう)
目を閉じる。ロゼットは私が寝たと思ったのか、静かに部屋に入って顔についた汗を乾いた布で拭ったあと、額に濡らしたタオルを乗せてくれる。
(気持ちいい)
「おやすみなさい、リーシェさん」
パタン、とドアが閉まり、静寂に包まれると、だんだんと睡魔が降りてきて、私はゆっくりとそれに身を委ねた。
なんとなく癖のある言い方に、この人はどんな未来を見ているのだろう、と正直気にはなるが、どうせ教えてはもらえないだろうと口にすることを諦める。
実際に目の前にいる姉は、私の思考を読んだからか、ニコニコというよりニヤニヤと何か知っている素振りを見せるが、教えてもらえそうにはなかった。
「わかったわ。ねぇ、姉様。私は結局、誰かと結婚するの?」
「それも秘密。言ってしまったら面白くないでしょう?それに、そもそもステラはこういう経験が少ないのだから、たくさん恋愛を経験した方がいいわ。今が一番、女性として華やぐときなのだから」
青春っていいわねぇ、といつもの姉のように、また私は幼子相手のように躱され、はぐらかされる。でも、不思議と嫌な気持ちはなかった。
(実際に知ったところで、どうなるかわからないしね)
未来は移ろいやすいもの、だから己自身で切り開かなければならない、と母にもよく言われていたことを思い出す。
「だから、自分の気持ちには素直になりなさい?これはステラの人生なのだから。貴女が望むままに生きていいの」
「さっきは私のワガママを聞けって言ったくせに」
「それはそれ、これはこれ。あぁ、もう時間ね。今日はゆっくり休むこと。最近のステラは働きすぎだわ」
姉に目を手で塞がれる。そして、「またいつの日か。ステラの幸せを常に願っているわ」と耳元で囁かれると、そのまま意識は浮上した。
「お゛あ゛よ゛う゛、ござい゛ま゛ず」
「まぁ、リーシェさん!お声、どうなさったの?!」
「……ガゼを、いぎまじだ」
「ま、まぁ大変!ちょ、ちょっと、とりあえず寝ててください!!」
ふらふらとキッチンに現れたガラガラ声の私に、ギョッとしながらロゼットが慌てて私を引き摺るようにしてベッドに戻す。
「今日はどこにも行かせませんからね!」
珍しく語気を荒めに念を押されると、そのままロゼットは慌ただしく部屋を出て行った。
(こうやって何もしないで寝ているのは、あの入院以来か)
と言っても癒着してはまずいと、ちょこちょこだが軽く動くことは推奨されてたので、全く寝込んでいたわけでもないが。
そもそも身体を動かすことが好きというかそういう性分なので、それはそれで良かったのだが、今は諸症状のせいで動くのは正直億劫だった。
喉が痛い。頭が痛い。鼻水も出る。目眩もする。身体が火照って、怠い。節々が痛い。典型的な風邪の症状である。恐らくそのうち高熱が出て、咳も出るようになるだろう。
(嫌だなぁ……)
ゆっくり休めと姉に言われたのは、こういうことだったのか、と気付いて溜息をつく。せめて先に、このあと風邪ひくよー、とか声を掛けてくれたらある程度心構えができたものを、と心の中で勝手に姉に八つ当たりする。
(まぁ、そもそも体調管理を疎かにしていたのは自分だしね)
確かにここのところ忙しくしてたから、体調などに気遣ってなかったが、まさかこんなときに発熱するとは。
(風邪ひいたのなんて、いつぶりだろう)
身体が丈夫なことを売りの1つにしていたつもりだが、そのぶん慣れてないせいか、病気になるとドッとしんどくなる。
今もただ痛む身体を持て余していて、寝たいけど痛みで寝れないという、非常に矛盾した状態に陥っているところだ。
(とにかく寝よう)
目を閉じる。ロゼットは私が寝たと思ったのか、静かに部屋に入って顔についた汗を乾いた布で拭ったあと、額に濡らしたタオルを乗せてくれる。
(気持ちいい)
「おやすみなさい、リーシェさん」
パタン、とドアが閉まり、静寂に包まれると、だんだんと睡魔が降りてきて、私はゆっくりとそれに身を委ねた。
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