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152話、旅立ち前の紅茶とメロンパン
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ベルストの町に来てから三日目の朝。今日はこの町から旅立ち、近くにあるまた別の町を目指す予定だ。
しかしその前に、まずは色々とお買い物。お菓子がおいしい町なので、日持ちしない生菓子系は旅立つ前に買っておきたい。その他、茶葉や野宿の際に食べる食材なども欲しい所。
とはいえ、今や野外料理はベアトリスの管轄。なのでそっちはベアトリス主導で好きに買ってもらい、私はお菓子や茶葉などもろもろを購入していく。
そうやって買い物に夢中になっていたら、ある重要な事を私は忘れてしまっていた。それをついに思い出し、ベアトリスとライラに尋ねる。
「朝ごはんどうしよっか。どこかで食べる?」
そう、朝食がまだだった。とりあえず買い物を済ませてから食べようという流れになっていたのだ。
買い物もひと段落したので空腹を思い出した私は、とりあえず一度食事がしたかった。
「そうね……わざわざお店で食べるのも時間がかかりそうだし、お茶と一緒に何か適当に買ってその辺で食べるのもいいんじゃない?」
ベアトリスに言われ、私はちょっと考える。
ベルストではテイクアウト系の料理は揚げ物が多い。さすがに朝から揚げ物を食べるのは辛いので、パンとかを買ってぱぱっと済ませるのも悪くない。
「じゃあさ、菓子パン買おうよ。この町、お菓子がおいしいなら菓子パンもきっとおいしいよ」
「菓子パン? ああ、言われればそうね。お菓子がおいしいのに菓子パンが微妙なわけないもの」
偏見に近いかもしれないが、私達はそんな認識を共有していた。
という事で、早速市場を歩きながら菓子パン探し。すると一件朝から人で賑わうパン屋を見つけたので、そこで菓子パンを見繕う事にする。
店内に入り、花柄アートをあしらった陳列棚に並べられたパンを色々見てみる。大きいウインナーが入った調理パン系統がたくさんあり、朝食を求めてきたお客はほとんどこっち目当てのようで、菓子パンコーナーは結構まばらだった。おかげでゆっくり好みのを探す事ができる。
「色々あるなぁ……目移りしちゃうよ」
私はパン全般好きな方で、調理パン、菓子パン、どちらも好んで食べる方だ。菓子パン一つとっても、ジャムパンやらクリームパン、チョココロネに揚げパンなど、様々な種類がある。どれもそれぞれ特徴がはっきりしたおいしさなので、何を買おうか迷ってしまう。
「……ベアトリスはなにを買うつもりなの? やっぱりラズベリージャムパン?」
迷ってる私を見ていたライラが、ベアトリスにそう尋ねた。すると意外にもベアトリスが首を振る。
「せっかくだから別のを頂くわ。今は新しいラズベリー菓子パンの開発が目下の目標だから、その研究の為に色々食べてみたいのよ」
そんな目標を持ってたのか。世界をラズベリーにする前に菓子パン界をラズベリーに沈めるつもりなのかもしれない……。
それにしても何を買おう。いっその事、この町独特の菓子パンとかあればいいけど……。
そんな時、私は一つのパンを見つけた。
「……あ、メロンパンだ」
メロンパン。メロンという名称が入っているが、別に果物のメロンが入っているという訳ではない。形がメロンの表面に似ているからそういう名前になった菓子パンだ。
じゃあどういう菓子パンかというと、表面がクッキー生地でさくさくとして、中はふんわりと焼き上げられた甘いパンだ。
メロンパンは菓子パン界でも古株かつ根強い人気があり、結構色々な地域で見られる。
……うん。ここは一度王道のメロンパンを食べてみよう。なにせここはお菓子がおいしい町。そんな町で売ってる王道のメロンパンは、しっかりとおいしいに決まっている。後紅茶にも合いそうだし。
という事で私はメロンパンを手に取った。するとベアトリスが続いてメロンパンを手にする。
「迷った時はやっぱり王道よね」
ラズベリー吸血鬼にも王道が分かるのか……。とにかく、今日の朝ごはんはメロンパンで決定だ。
早速会計を済ませ、ついでにパン屋で売っていた紅茶を購入。このパン屋では店内で食べられるテーブル席のスペースがあったので、そこで食べることにする。
メロンパンはまだ焼きたてなのか、ほんのり暖かい。朝一のパン屋は出来たてを食べられるのが嬉しいね。
「はい、ライラ」
メロンパンを適当に千切り、ライラに渡す。するとベアトリスもメロンパンを軽く千切り、ライラを呼び寄せていた。
「私のも少し上げるわ、はい」
「お、多いわよ……」
ライラは戸惑いながらも千切った二つのメロンパンを食べ始めた。私もベアトリスも約三分の一を千切って渡したので、半分以上食べる計算になる。
ベアトリスがお供になってからというもの、こういった外食では私だけでなくベアトリスもライラに少し料理を分けていた。おかげでライラは食べる量が若干増えている。妖精に満腹の概念があるかは分からないが、あの小柄な体でどこまで食べられるのかは少し興味があった。
ライラ自身はそんなにたくさん食べようとはしないのだが、本気を出したらもしかしたらすごく食べられるのかもしれない。なにせ妖精って謎の存在だし。
まあライラは大食いを目指しているわけでは無いから、その辺りはずっと謎のままだろう。
それはさておき、私とベアトリスも早速メロンパンを食べ始める。
一口食べるとサクっとした食感。メロンパンは表面のクッキー生地が魅力の半分。もう半分は中のふわふわした生地部分だ。
サクサク感とふわふわ感を両方味わえ、ほんのりと甘いパンの味。うん、やはり王道のおいしさだ。
その甘さが残るうちに、ストレートの紅茶を流し込む。ほんのり苦くすっきりとした匂いが際立つ紅茶が、口内をさっぱりさせてくれる。
そんな風に私がメロンパンの王道のおいしさに浸っていると、対面のベアトリスは考え込むように難しい顔をしながら食べていた。
……なんか、またろくでもないことを考えてそうだ。
そう思いながらも、一応どうしたのか聞いてみる。
「どうしたの、そんな難しい顔して」
私が聞くと、ベアトリスは神妙な表情を返した。
「メロンパンって、メロンの形状をしているからメロンパンなのよね?」
「そうだね」
最近はメロンの果汁を使ったのもあるとは聞くけども。
「……どうしてラズベリーの形状をしたラズベリーパンは無いのかしら?」
知らないよそんなの。
「こうなったら私がラズベリーの形をしたパンを作るしか……いえ、でもラズベリー独特の形をパンで再現するのは難しすぎる……ああ、私はどうすれば……!」
いったい何を悩んでるんだこいつ……。
そんなベアトリスをよそにもそもそメロンパンを食べ続け、さっさと全部平らげてしまう。
ベアトリスも私に遅れてメロンパンを全部食べ終わり、最後に上の空な感じで紅茶を飲んでいた。
やがて、彼女は天啓を得たかのように、はっとした顔をした。
「そうよ……メロンパンのクッキー生地と下の生地の間にラズベリージャムを塗れば……真のラズベリーパンの完成だわ!」
いや、それはラズベリージャムが入ったメロンパンだよ。
「ねえ、ベアトリスはいったい何を言ってるの?」
訳が分からないとばかりにライラが聞いてくるが、私は力なく首を振るしかできない。
私のセリフだよ、それは……。
ベアトリスのラズベリーで菓子パン界を制覇する野望の達成は、まだまだ遠そうだった。
しかしその前に、まずは色々とお買い物。お菓子がおいしい町なので、日持ちしない生菓子系は旅立つ前に買っておきたい。その他、茶葉や野宿の際に食べる食材なども欲しい所。
とはいえ、今や野外料理はベアトリスの管轄。なのでそっちはベアトリス主導で好きに買ってもらい、私はお菓子や茶葉などもろもろを購入していく。
そうやって買い物に夢中になっていたら、ある重要な事を私は忘れてしまっていた。それをついに思い出し、ベアトリスとライラに尋ねる。
「朝ごはんどうしよっか。どこかで食べる?」
そう、朝食がまだだった。とりあえず買い物を済ませてから食べようという流れになっていたのだ。
買い物もひと段落したので空腹を思い出した私は、とりあえず一度食事がしたかった。
「そうね……わざわざお店で食べるのも時間がかかりそうだし、お茶と一緒に何か適当に買ってその辺で食べるのもいいんじゃない?」
ベアトリスに言われ、私はちょっと考える。
ベルストではテイクアウト系の料理は揚げ物が多い。さすがに朝から揚げ物を食べるのは辛いので、パンとかを買ってぱぱっと済ませるのも悪くない。
「じゃあさ、菓子パン買おうよ。この町、お菓子がおいしいなら菓子パンもきっとおいしいよ」
「菓子パン? ああ、言われればそうね。お菓子がおいしいのに菓子パンが微妙なわけないもの」
偏見に近いかもしれないが、私達はそんな認識を共有していた。
という事で、早速市場を歩きながら菓子パン探し。すると一件朝から人で賑わうパン屋を見つけたので、そこで菓子パンを見繕う事にする。
店内に入り、花柄アートをあしらった陳列棚に並べられたパンを色々見てみる。大きいウインナーが入った調理パン系統がたくさんあり、朝食を求めてきたお客はほとんどこっち目当てのようで、菓子パンコーナーは結構まばらだった。おかげでゆっくり好みのを探す事ができる。
「色々あるなぁ……目移りしちゃうよ」
私はパン全般好きな方で、調理パン、菓子パン、どちらも好んで食べる方だ。菓子パン一つとっても、ジャムパンやらクリームパン、チョココロネに揚げパンなど、様々な種類がある。どれもそれぞれ特徴がはっきりしたおいしさなので、何を買おうか迷ってしまう。
「……ベアトリスはなにを買うつもりなの? やっぱりラズベリージャムパン?」
迷ってる私を見ていたライラが、ベアトリスにそう尋ねた。すると意外にもベアトリスが首を振る。
「せっかくだから別のを頂くわ。今は新しいラズベリー菓子パンの開発が目下の目標だから、その研究の為に色々食べてみたいのよ」
そんな目標を持ってたのか。世界をラズベリーにする前に菓子パン界をラズベリーに沈めるつもりなのかもしれない……。
それにしても何を買おう。いっその事、この町独特の菓子パンとかあればいいけど……。
そんな時、私は一つのパンを見つけた。
「……あ、メロンパンだ」
メロンパン。メロンという名称が入っているが、別に果物のメロンが入っているという訳ではない。形がメロンの表面に似ているからそういう名前になった菓子パンだ。
じゃあどういう菓子パンかというと、表面がクッキー生地でさくさくとして、中はふんわりと焼き上げられた甘いパンだ。
メロンパンは菓子パン界でも古株かつ根強い人気があり、結構色々な地域で見られる。
……うん。ここは一度王道のメロンパンを食べてみよう。なにせここはお菓子がおいしい町。そんな町で売ってる王道のメロンパンは、しっかりとおいしいに決まっている。後紅茶にも合いそうだし。
という事で私はメロンパンを手に取った。するとベアトリスが続いてメロンパンを手にする。
「迷った時はやっぱり王道よね」
ラズベリー吸血鬼にも王道が分かるのか……。とにかく、今日の朝ごはんはメロンパンで決定だ。
早速会計を済ませ、ついでにパン屋で売っていた紅茶を購入。このパン屋では店内で食べられるテーブル席のスペースがあったので、そこで食べることにする。
メロンパンはまだ焼きたてなのか、ほんのり暖かい。朝一のパン屋は出来たてを食べられるのが嬉しいね。
「はい、ライラ」
メロンパンを適当に千切り、ライラに渡す。するとベアトリスもメロンパンを軽く千切り、ライラを呼び寄せていた。
「私のも少し上げるわ、はい」
「お、多いわよ……」
ライラは戸惑いながらも千切った二つのメロンパンを食べ始めた。私もベアトリスも約三分の一を千切って渡したので、半分以上食べる計算になる。
ベアトリスがお供になってからというもの、こういった外食では私だけでなくベアトリスもライラに少し料理を分けていた。おかげでライラは食べる量が若干増えている。妖精に満腹の概念があるかは分からないが、あの小柄な体でどこまで食べられるのかは少し興味があった。
ライラ自身はそんなにたくさん食べようとはしないのだが、本気を出したらもしかしたらすごく食べられるのかもしれない。なにせ妖精って謎の存在だし。
まあライラは大食いを目指しているわけでは無いから、その辺りはずっと謎のままだろう。
それはさておき、私とベアトリスも早速メロンパンを食べ始める。
一口食べるとサクっとした食感。メロンパンは表面のクッキー生地が魅力の半分。もう半分は中のふわふわした生地部分だ。
サクサク感とふわふわ感を両方味わえ、ほんのりと甘いパンの味。うん、やはり王道のおいしさだ。
その甘さが残るうちに、ストレートの紅茶を流し込む。ほんのり苦くすっきりとした匂いが際立つ紅茶が、口内をさっぱりさせてくれる。
そんな風に私がメロンパンの王道のおいしさに浸っていると、対面のベアトリスは考え込むように難しい顔をしながら食べていた。
……なんか、またろくでもないことを考えてそうだ。
そう思いながらも、一応どうしたのか聞いてみる。
「どうしたの、そんな難しい顔して」
私が聞くと、ベアトリスは神妙な表情を返した。
「メロンパンって、メロンの形状をしているからメロンパンなのよね?」
「そうだね」
最近はメロンの果汁を使ったのもあるとは聞くけども。
「……どうしてラズベリーの形状をしたラズベリーパンは無いのかしら?」
知らないよそんなの。
「こうなったら私がラズベリーの形をしたパンを作るしか……いえ、でもラズベリー独特の形をパンで再現するのは難しすぎる……ああ、私はどうすれば……!」
いったい何を悩んでるんだこいつ……。
そんなベアトリスをよそにもそもそメロンパンを食べ続け、さっさと全部平らげてしまう。
ベアトリスも私に遅れてメロンパンを全部食べ終わり、最後に上の空な感じで紅茶を飲んでいた。
やがて、彼女は天啓を得たかのように、はっとした顔をした。
「そうよ……メロンパンのクッキー生地と下の生地の間にラズベリージャムを塗れば……真のラズベリーパンの完成だわ!」
いや、それはラズベリージャムが入ったメロンパンだよ。
「ねえ、ベアトリスはいったい何を言ってるの?」
訳が分からないとばかりにライラが聞いてくるが、私は力なく首を振るしかできない。
私のセリフだよ、それは……。
ベアトリスのラズベリーで菓子パン界を制覇する野望の達成は、まだまだ遠そうだった。
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