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151話、ベルスト風ミートパイ
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昼間、たくさんのお菓子を食べ歩きしてきた私達。でも、やはりお菓子はお菓子。ごはんとは違うので、腹持ちはそこまででもなく、時間が経つとしっかりお腹が空く。
夜ご飯時である六~七時を超えて八時頃。早い所ではお店が締まりだすこの頃合いに、私達は空腹を覚えていた。
なので遅めの夜ごはんを食べにお店探し。今回は私の意見を優先してもらい、観光客向けのお店では無く、この町に住む人々が普段通いする食堂へ行くことにする。
観光客向けの料理もいいけど、やっぱりその町に住む人々が食べる、日常に定着した料理を味わいたい。私のこんなポリシーをベアトリスに伝えると、彼女は驚いたような表情をした。
「あなた、一応そういう所を考えていたのね。おいしいのが食べられれば何でもいいのかと思ってたわ」
心底意外とばかりにベアトリスはこう言っていた。心外だよ。口に合う、合わないは多少あるかもしれないけど、やっぱり旅をしているなら色んな料理を味わいたいのが当然だ。
ベルストの町はあまり料理に力を入れてないらしいけど、だからといって全てが全て微妙という訳はないはずだ。特に普段から食べる料理はなんだかんだおいしいはず。そうでもなければ家庭料理になんてならないはずだもん。
そうしてひっそりとした裏路地を探索していたら、私好みのこじんまりとした食堂を発見。中を覗くと、夜八時だというのに結構人がいる。
雰囲気は中々良い。年季が入った灰色目のテーブルと椅子がずらっと並び、お客はまばらに座って思い思いに料理を食べお酒を飲んでいた。いかにも地元民に親しまれた大衆食堂って感じ。
早速私達はこのお店の中に入っていった。妖精のライラの姿は見えないだろうが、魔女の格好をした私や、吸血鬼と一目では分からずとも長い金髪とおしゃれなスカートを纏ったベアトリスは、少し人目を引いたようだ。入ったとたんお客の何人かが一瞥してくる。でもすぐに興味を失ったようで、黙々とごはんを食べ始めていた。
ベアトリスは最初から他人の目を気にしてないようで、しげしげとお店の壁を眺めていた。
「ここ、メニューが書かれた木札を定員に渡すシステムのようね」
お店入口の壁には、木札がずらっと並べられている。その木札にはメニューが書かれていて、それを渡す事で声で伝えずとも料理が注文できるようだ。初見だとちょっと戸惑うが、通いなれると多分やりやすいシステムなんだろうな。
「今日はなに食べるの?」
「んとね、パイがいいかな」
ライラに尋ねられ、私は様々なパイメニューが書かれた木札を眺め出した。
「どうやらここではパイ系料理が家庭料理として親しまれているみたいなんだよ。外部の町からはベルスト風パイって呼ばれてるみたいで、既存のパイとはちょっと違うみたい」
「ふーん。じゃあパイにしましょう。私ミートパイ」
ベアトリスが木札を取る。続いて私も手にした。
「……私もミートパイ」
ちょっと色々眺めたが、これが一番無難な気がした。いわしのパイとやらもあったが、多分他の人が食べてるパイ生地からいわしの頭が飛び出たやつだろう。さすがにあれを初見で食べる勇気はない。
二人分の木札を店員に渡し、向かい合わせで座って料理を待つ。他のお客がちょこちょこ雑談する声と、調理場で料理をする音だけが響いている。夜八時という事もあり、何だか静かでゆったりした時間が流れていた。
やがて、私とベアトリスの前にミートパイが入ったお皿が運ばれて来た。
「おお……意外とボリュームある」
平たいお皿の真ん中に、結構大きめな丸いパイがでんと置かれている。その周囲にはポテトフライとグリーンピースが盛られていた。そしてパイの上からは赤黒いソースがかけられている。
「……ワインと肉汁で作ったソースかしら。悪くないわね」
お皿に顔を近づけて匂いを嗅いだベアトリス。匂いだけでそんなことが分かるのか。
でも、見た感じ結構おいしそうだ。期待を持ちつつ、私はフォークとナイフを手にパイを切り分ける。
「お、結構分厚い」
見た目と上からソースがかかっている事から予測できていたが、ベルスト風パイは生地が結構分厚い。一般的なサクサクしたパイとは別物だ。
パン……とも感覚が違う。本当にパイ生地が分厚くなったって感じ。表面はパリっとしているが、中はしっとり分厚いパイ生地だ。
ミートパイを半分切り分けると、中にはぎっしりと肉が詰まっていた。細かく刻んだ玉ねぎも入っているらしい。これは食べごたえすごそう。
「ほら半分ライラの分」
「わーい」
切り分けてライラの分を差し出すと、フォークを抱きながらふわふわ舞って近づいてくる。
するとベアトリスもちょいちょいと手招きした。
「ライラ、私のも少し上げるわ。お昼にお菓子いっぱい食べたから、これ全部食べるの大変そうなのよね」
「わーい」
ライラは呼ばれるままふわふわと舞ってベアトリスの食器へと向かった。餌付けされやすくない? もう記憶がおぼろげだけど、初めて会った時は結構警戒してたのに、今ではこんな簡単にごはんに誘われる妖精になっちゃって……。
ま、ごはんがおいしいから仕方ないか。
ベアトリスの方のミートパイから食べ始めたライラを尻目に、私もミートパイを食べ始める。
ぎっしり入ったひき肉の塊。そして分厚いパイ生地。それを赤ワインのソースにつけて食べる。
味は……シンプルというか、かなり分かりやすい。ちょっと塩気があるパイ生地に、ひき肉の旨み、そして肉汁と赤ワインソースの甘酸っぱさ。
食べ心地は一般的なパイとは大分異なる。なんというか……硬めのパンをひき肉の塊と一緒に食べている感じだ。サクサク感のないぎっしりとした食感はパイとしては中々斬新。
付け合わせのポテトフライとグリーンピースも、やっぱり見たまんまの味。ちょっと塩がかけられているだけで、味は赤ワインソース頼り。でもホクホクしたポテトと、独特な青臭さを感じるグリーンピースは結構主張が強くて箸休めに悪くない。
しかし……生地がずっしりしてる分、結構お腹に来る。なんだかんだ昼間にお菓子を食べ歩きしたせいで、胃に余裕はない。
「ライラ……ほら、私のミートパイが半分残ってるよ」
一人では食べきれそうにないので、ライラをこっちに呼び寄せる。
するとベアトリスがそれを制してきた。
「待ちなさいライラ。リリアのミートパイより先に私のミートパイを半分食べるのよ……」
「え、え」
ライラが困ったように私達二人を見回した。
「私も結構お腹いっぱいなんだけど……どうして一番小さい私にいっぱい食べさせようとするのよ」
ド正論だった。ライラはそんなに食べられないよね……分かってる。
でもこれ全部お腹に入るかな……。パイもそうだけど、ポテトとグリーンピースもボリューミィ。
私とベアトリスは呼吸が合ったのか、二人して見つめ合った。
「……これ、一つで良かったかもしれないわね」
ベアトリスにそう言われ、うんうんと頷く。
「まあ、ゆっくり食べよっか。まだお店閉まる気配ないし」
夜八時を超えたゆったりとした時間の中、私達はどうにかしてゆっくりゆっくり完食を目指すのだった。
夜ご飯時である六~七時を超えて八時頃。早い所ではお店が締まりだすこの頃合いに、私達は空腹を覚えていた。
なので遅めの夜ごはんを食べにお店探し。今回は私の意見を優先してもらい、観光客向けのお店では無く、この町に住む人々が普段通いする食堂へ行くことにする。
観光客向けの料理もいいけど、やっぱりその町に住む人々が食べる、日常に定着した料理を味わいたい。私のこんなポリシーをベアトリスに伝えると、彼女は驚いたような表情をした。
「あなた、一応そういう所を考えていたのね。おいしいのが食べられれば何でもいいのかと思ってたわ」
心底意外とばかりにベアトリスはこう言っていた。心外だよ。口に合う、合わないは多少あるかもしれないけど、やっぱり旅をしているなら色んな料理を味わいたいのが当然だ。
ベルストの町はあまり料理に力を入れてないらしいけど、だからといって全てが全て微妙という訳はないはずだ。特に普段から食べる料理はなんだかんだおいしいはず。そうでもなければ家庭料理になんてならないはずだもん。
そうしてひっそりとした裏路地を探索していたら、私好みのこじんまりとした食堂を発見。中を覗くと、夜八時だというのに結構人がいる。
雰囲気は中々良い。年季が入った灰色目のテーブルと椅子がずらっと並び、お客はまばらに座って思い思いに料理を食べお酒を飲んでいた。いかにも地元民に親しまれた大衆食堂って感じ。
早速私達はこのお店の中に入っていった。妖精のライラの姿は見えないだろうが、魔女の格好をした私や、吸血鬼と一目では分からずとも長い金髪とおしゃれなスカートを纏ったベアトリスは、少し人目を引いたようだ。入ったとたんお客の何人かが一瞥してくる。でもすぐに興味を失ったようで、黙々とごはんを食べ始めていた。
ベアトリスは最初から他人の目を気にしてないようで、しげしげとお店の壁を眺めていた。
「ここ、メニューが書かれた木札を定員に渡すシステムのようね」
お店入口の壁には、木札がずらっと並べられている。その木札にはメニューが書かれていて、それを渡す事で声で伝えずとも料理が注文できるようだ。初見だとちょっと戸惑うが、通いなれると多分やりやすいシステムなんだろうな。
「今日はなに食べるの?」
「んとね、パイがいいかな」
ライラに尋ねられ、私は様々なパイメニューが書かれた木札を眺め出した。
「どうやらここではパイ系料理が家庭料理として親しまれているみたいなんだよ。外部の町からはベルスト風パイって呼ばれてるみたいで、既存のパイとはちょっと違うみたい」
「ふーん。じゃあパイにしましょう。私ミートパイ」
ベアトリスが木札を取る。続いて私も手にした。
「……私もミートパイ」
ちょっと色々眺めたが、これが一番無難な気がした。いわしのパイとやらもあったが、多分他の人が食べてるパイ生地からいわしの頭が飛び出たやつだろう。さすがにあれを初見で食べる勇気はない。
二人分の木札を店員に渡し、向かい合わせで座って料理を待つ。他のお客がちょこちょこ雑談する声と、調理場で料理をする音だけが響いている。夜八時という事もあり、何だか静かでゆったりした時間が流れていた。
やがて、私とベアトリスの前にミートパイが入ったお皿が運ばれて来た。
「おお……意外とボリュームある」
平たいお皿の真ん中に、結構大きめな丸いパイがでんと置かれている。その周囲にはポテトフライとグリーンピースが盛られていた。そしてパイの上からは赤黒いソースがかけられている。
「……ワインと肉汁で作ったソースかしら。悪くないわね」
お皿に顔を近づけて匂いを嗅いだベアトリス。匂いだけでそんなことが分かるのか。
でも、見た感じ結構おいしそうだ。期待を持ちつつ、私はフォークとナイフを手にパイを切り分ける。
「お、結構分厚い」
見た目と上からソースがかかっている事から予測できていたが、ベルスト風パイは生地が結構分厚い。一般的なサクサクしたパイとは別物だ。
パン……とも感覚が違う。本当にパイ生地が分厚くなったって感じ。表面はパリっとしているが、中はしっとり分厚いパイ生地だ。
ミートパイを半分切り分けると、中にはぎっしりと肉が詰まっていた。細かく刻んだ玉ねぎも入っているらしい。これは食べごたえすごそう。
「ほら半分ライラの分」
「わーい」
切り分けてライラの分を差し出すと、フォークを抱きながらふわふわ舞って近づいてくる。
するとベアトリスもちょいちょいと手招きした。
「ライラ、私のも少し上げるわ。お昼にお菓子いっぱい食べたから、これ全部食べるの大変そうなのよね」
「わーい」
ライラは呼ばれるままふわふわと舞ってベアトリスの食器へと向かった。餌付けされやすくない? もう記憶がおぼろげだけど、初めて会った時は結構警戒してたのに、今ではこんな簡単にごはんに誘われる妖精になっちゃって……。
ま、ごはんがおいしいから仕方ないか。
ベアトリスの方のミートパイから食べ始めたライラを尻目に、私もミートパイを食べ始める。
ぎっしり入ったひき肉の塊。そして分厚いパイ生地。それを赤ワインのソースにつけて食べる。
味は……シンプルというか、かなり分かりやすい。ちょっと塩気があるパイ生地に、ひき肉の旨み、そして肉汁と赤ワインソースの甘酸っぱさ。
食べ心地は一般的なパイとは大分異なる。なんというか……硬めのパンをひき肉の塊と一緒に食べている感じだ。サクサク感のないぎっしりとした食感はパイとしては中々斬新。
付け合わせのポテトフライとグリーンピースも、やっぱり見たまんまの味。ちょっと塩がかけられているだけで、味は赤ワインソース頼り。でもホクホクしたポテトと、独特な青臭さを感じるグリーンピースは結構主張が強くて箸休めに悪くない。
しかし……生地がずっしりしてる分、結構お腹に来る。なんだかんだ昼間にお菓子を食べ歩きしたせいで、胃に余裕はない。
「ライラ……ほら、私のミートパイが半分残ってるよ」
一人では食べきれそうにないので、ライラをこっちに呼び寄せる。
するとベアトリスがそれを制してきた。
「待ちなさいライラ。リリアのミートパイより先に私のミートパイを半分食べるのよ……」
「え、え」
ライラが困ったように私達二人を見回した。
「私も結構お腹いっぱいなんだけど……どうして一番小さい私にいっぱい食べさせようとするのよ」
ド正論だった。ライラはそんなに食べられないよね……分かってる。
でもこれ全部お腹に入るかな……。パイもそうだけど、ポテトとグリーンピースもボリューミィ。
私とベアトリスは呼吸が合ったのか、二人して見つめ合った。
「……これ、一つで良かったかもしれないわね」
ベアトリスにそう言われ、うんうんと頷く。
「まあ、ゆっくり食べよっか。まだお店閉まる気配ないし」
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