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137話、お城跡地と重箱料理
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ルキョウの町には昔お城があったらしく、現在では修繕されて観光地として開放されている。
ルキョウの町二日目の午前。私達はそんなお城を観光するため、現地へとやってきていた。
このお城の名はそのままルキョウ城と呼ぶらしい。現在のルキョウ自体はもともと城下町だったらしく、時代が経ってお城が廃城となってもルキョウの町は栄えつづけたというのだ。
そして今、観光地とするためお城が修繕され、こうして一般に開放されている。
お城と言うとそれこそ本城と呼ばれる建物が浮かぶが、実際はそこを中心とした敷地全てが城と言っても過言ではない。もともとは敵襲を防ぐための施設でもあり、周囲には水堀が作られ石垣を積む事で侵入経路が減らされている。
このルキョウ城もそれに漏れなく立派な水堀と石垣があったが、一般に開放されている事もあり水堀には橋がかけられ、堂々と入城できるようになっていた。
石垣の内側に入れば塀で仕切られた通行路があり、そこを進んで本城へと向かう。この道が何度も直角に曲がり無駄に歩かされるのは、それこそ侵入者を足止めする目的だからだろう。
観光客としてやってきた私達からすると、たまった物ではない。無駄に歩かされているのがまざまざと分かり、なんだか疲れてくる。お城の観光って大変だ。
そしてようやく本城へと到達し中へと入る。
残念ながら、この本城は当時とは大分様変わりしているらしい。当時の設計図を元にできるだけ修繕されてはいるが、何分古いため詳しく読み取れない部分や設計意図が分からない箇所も多々あるようだ。
設計図上では入れない場所やなんのために作られた部屋か分からない所があり、それらの再現は諦めて観光用として作り直した場所が多いらしく、当時の雰囲気を楽しむという目的だと多少期待を裏切られるかもしれない。
でも私達は本当に興味本位でやってきたので、それで問題ない。この町の歴史とか詳しくないし……。
本城は七回建てになっていて、最上階まで開放されている。それぞれの階ではこの町の歴史が記されていた。それによると、このルキョウの町はかつてフウゲツの町と争っていたらしい。もしかしたらフウゲツの町にもかつてお城があったのかもしれない。
そのまま最上階まで登る。最上階は吹き抜けになっていて町が一望できた。
「結構高いわね」
強めに吹きつける風に流される髪を抑えながら、ベアトリスがそう言った。
「ベアトリスって高い所大丈夫な方?」
「そうね、問題ないわ」
……そういえば初めて会った時とか、洋館の屋根で堂々と立っていたもんな。
私も別に高い所が苦手というわけではない。だったら箒で空飛べないし。でも町が一望できるほど高い場所から真下を見下ろすと、少し足が震えた。これは生物としての本能だろう。
しかしなんだ。こうして高い場所から景色を楽しんでいると、なんかこう……お腹空いてくる。
いや、我ながらおかしいとは思う。良い景色だなーと思いながら目も心もこの風景を堪能しているのに、それに比例するかのような空腹感に気づかされるのだ。
多分満足感の中に一つ満たされない要素があり、そこが強調されてしまって脳裏によぎるのだろう。そんな言い訳を自分自身にしながらも素直に言えば、お腹空いてきた。
しかし……言えない。こうして味わうように町の全貌を楽しんでいるベアトリスとライラに、お腹空いたなんて無粋な言葉はとても……。
どうせまた白い目で見られるだろうし……本気で私の空腹スイッチが壊れていると疑われてしまいそうだ。
でもお腹空いたのは事実なんだよなー。ごはん食べたいんだよなー。
どうしよう……。
そんな風に葛藤していると、ベアトリスが風に流される髪が邪魔だったのかかんざしでぱぱっと纏め上げ、私に視線を送った。
「そろそろお昼の時間だから、食事にでもいかない?」
「……行こう!」
私は心の中でぐっと拳を握った。ナイスベアトリス!
ライラは妖精だからそもそも食事をする必要が無いので、強い空腹を覚えることが無い。だから今までお腹空いた発言は私からしか飛び出さなかったが、ベアトリスは別だ。ベアトリスは吸血鬼……いや、今はもう別の謎生物な気もするけど、とにかく食事をするタイプの存在だ。だからこうしてごはんへ行こうと切り出してくることもある。
このおかげで私が言いださなくても自然と食事に行けるのだ。ありがとうベアトリス。ライラにまた食欲がおかしくなってると思われずに済んだ。
「……どうしてにやにやしてるのかしら?」
「さあ? リリアはたまに訳が分からないわ」
心の中で歓喜していたが表情に少し出ていたようで、ベアトリスとライラが不思議そうな顔をしていた。
こほんと一つ咳払いして、場を流す。
「確か一階にお店があったから、そこでごはん食べてこよう。さっ、行こ行こっ」
二人の背中を押すようにして、私は気持ちをはやらせながら今日のお昼ごはんへと向かった。
本城一階のお店では、昔お祝い事で出されていたという重箱料理が提供されている。
これは中が仕切られた大きな箱に色々な料理が詰められた形式で、一人用はもちろん、複数人用のも注文できる。
なので今回は複数人用の重箱料理を注文する事にした。
店内は本城の雰囲気をそのままに改装されており、黒塗りの艶あるテーブルと椅子がいくつも並んでいる。その一角に私達も座り、水を飲みながら重箱がやってくるのを待ち構えていた。
「一人用と複数人用では結構中身が違うみたいね」
ベアトリスが写真付きのメニューをぺらぺらとめくり始める。
「一人用だと二段仕様で、一段目が鮭ごはんらしいわ。二段目はおかずが色々入ってるみたいよ」
「鮭ごはんかぁ。それもおいしそうだなぁ」
言ってると、私達の前に重箱が運ばれてくる。複数人使用は三段らしく、私達は重ねられているそれを一つ一つ降ろしていった。
そしてそれぞれの蓋を開けていく。まず一段目は、俵状のおにぎりが敷き詰められていた。そして二段目、三段目は仕切られた中に様々な料理が収められている。
おかずとなる料理は品目が多い。かまぼこにごぼう、肉の角煮、レンコンとインゲンの炒め物、山菜のゴマ和え、出し巻き卵に魚の天ぷら、栗の甘露煮。デザートなのかイチゴとブドウも入ってた。肉系より野菜系が多いのは、この地域の特色だろうか。
「昨日の天ぷらもそうだけど、一つの料理で色んな種類の食べ物が食べられるのね」
ライラのその印象に私は頷く。ルキョウの町はごはんを主食に様々なおかずが付いてくるスタイルのようだ。とにかくおかずの種類が多くて贅沢な気分になれる。実際の所一つ一つは数少なく野菜が多いので、そこまで贅沢ではないのだけど。ただバランス良い食事なのは確かだ。
早速私達は頂きますをして、思い思いに重箱をつつきはじめた。
私が最初に食べたのはかまぼこ。魚のすり身で作った食べ物だが、意外にも魚っぽさが感じられない。魚独特の匂いもなく、あっさりと癖のないおいしさだ。
次に食べたのはごぼう。これはしっかり煮てあるらしく、見た目に反して柔らかくほくほくしていた。煮汁が甘辛系で、ごぼうは風味が強く力強い味。ここで俵状のおにぎりを一口頬張る。
肉の角煮は甘目で、レンコンとインゲンの炒め物は酢が効いたさっぱり系。レンコンがしゃくしゃくしていて食感が楽しい。山菜のゴマ和えはほろ苦い山菜にゴマの風味が良いアクセント。出し巻き卵はおにぎりとも合い、魚の天ぷらはほろっとした身でほのかな塩気がたまらない。栗の甘露煮はデザートに近いが、デザート系よりも箸休めという印象。
とにかくたくさんの品目があるので、次はあれを食べようこれを食べようと箸が止まらない。ごはん系の料理なら丼物が好きな私だが、こうして様々なおかずを前にごはんをつつくスタイルも楽しいものだ。
皆でパクパク食べていると、ベアトリスがふと口を開いた。
「これ、確かにお祝い事で出てきそうな料理よね。でもどんなお祝い事で出されたのかしら……?」
「それは……」
ふと私も箸を止め、考える。
私ならどういう時にこういう料理を作るだろうか……?
「……弟子の独り立ちが決まった時とか?」
「私なら綺麗な花畑と出会えた時かしら」
私とライラの答えを聞いて、ベアトリスがふっとため息をつく。
「違うわ。きっともっと大事な時に作られるのよ。そう、例えば……おいしいラズベリーが収穫できた時とか」
「……」
「……」
……私もライラも黙々と重箱をつつきはじめた。
しかし、胸の内でどうしても思わずにいられない。
ラズベリーが収穫できた時って……なんで栽培してる目線なの?
ルキョウの町二日目の午前。私達はそんなお城を観光するため、現地へとやってきていた。
このお城の名はそのままルキョウ城と呼ぶらしい。現在のルキョウ自体はもともと城下町だったらしく、時代が経ってお城が廃城となってもルキョウの町は栄えつづけたというのだ。
そして今、観光地とするためお城が修繕され、こうして一般に開放されている。
お城と言うとそれこそ本城と呼ばれる建物が浮かぶが、実際はそこを中心とした敷地全てが城と言っても過言ではない。もともとは敵襲を防ぐための施設でもあり、周囲には水堀が作られ石垣を積む事で侵入経路が減らされている。
このルキョウ城もそれに漏れなく立派な水堀と石垣があったが、一般に開放されている事もあり水堀には橋がかけられ、堂々と入城できるようになっていた。
石垣の内側に入れば塀で仕切られた通行路があり、そこを進んで本城へと向かう。この道が何度も直角に曲がり無駄に歩かされるのは、それこそ侵入者を足止めする目的だからだろう。
観光客としてやってきた私達からすると、たまった物ではない。無駄に歩かされているのがまざまざと分かり、なんだか疲れてくる。お城の観光って大変だ。
そしてようやく本城へと到達し中へと入る。
残念ながら、この本城は当時とは大分様変わりしているらしい。当時の設計図を元にできるだけ修繕されてはいるが、何分古いため詳しく読み取れない部分や設計意図が分からない箇所も多々あるようだ。
設計図上では入れない場所やなんのために作られた部屋か分からない所があり、それらの再現は諦めて観光用として作り直した場所が多いらしく、当時の雰囲気を楽しむという目的だと多少期待を裏切られるかもしれない。
でも私達は本当に興味本位でやってきたので、それで問題ない。この町の歴史とか詳しくないし……。
本城は七回建てになっていて、最上階まで開放されている。それぞれの階ではこの町の歴史が記されていた。それによると、このルキョウの町はかつてフウゲツの町と争っていたらしい。もしかしたらフウゲツの町にもかつてお城があったのかもしれない。
そのまま最上階まで登る。最上階は吹き抜けになっていて町が一望できた。
「結構高いわね」
強めに吹きつける風に流される髪を抑えながら、ベアトリスがそう言った。
「ベアトリスって高い所大丈夫な方?」
「そうね、問題ないわ」
……そういえば初めて会った時とか、洋館の屋根で堂々と立っていたもんな。
私も別に高い所が苦手というわけではない。だったら箒で空飛べないし。でも町が一望できるほど高い場所から真下を見下ろすと、少し足が震えた。これは生物としての本能だろう。
しかしなんだ。こうして高い場所から景色を楽しんでいると、なんかこう……お腹空いてくる。
いや、我ながらおかしいとは思う。良い景色だなーと思いながら目も心もこの風景を堪能しているのに、それに比例するかのような空腹感に気づかされるのだ。
多分満足感の中に一つ満たされない要素があり、そこが強調されてしまって脳裏によぎるのだろう。そんな言い訳を自分自身にしながらも素直に言えば、お腹空いてきた。
しかし……言えない。こうして味わうように町の全貌を楽しんでいるベアトリスとライラに、お腹空いたなんて無粋な言葉はとても……。
どうせまた白い目で見られるだろうし……本気で私の空腹スイッチが壊れていると疑われてしまいそうだ。
でもお腹空いたのは事実なんだよなー。ごはん食べたいんだよなー。
どうしよう……。
そんな風に葛藤していると、ベアトリスが風に流される髪が邪魔だったのかかんざしでぱぱっと纏め上げ、私に視線を送った。
「そろそろお昼の時間だから、食事にでもいかない?」
「……行こう!」
私は心の中でぐっと拳を握った。ナイスベアトリス!
ライラは妖精だからそもそも食事をする必要が無いので、強い空腹を覚えることが無い。だから今までお腹空いた発言は私からしか飛び出さなかったが、ベアトリスは別だ。ベアトリスは吸血鬼……いや、今はもう別の謎生物な気もするけど、とにかく食事をするタイプの存在だ。だからこうしてごはんへ行こうと切り出してくることもある。
このおかげで私が言いださなくても自然と食事に行けるのだ。ありがとうベアトリス。ライラにまた食欲がおかしくなってると思われずに済んだ。
「……どうしてにやにやしてるのかしら?」
「さあ? リリアはたまに訳が分からないわ」
心の中で歓喜していたが表情に少し出ていたようで、ベアトリスとライラが不思議そうな顔をしていた。
こほんと一つ咳払いして、場を流す。
「確か一階にお店があったから、そこでごはん食べてこよう。さっ、行こ行こっ」
二人の背中を押すようにして、私は気持ちをはやらせながら今日のお昼ごはんへと向かった。
本城一階のお店では、昔お祝い事で出されていたという重箱料理が提供されている。
これは中が仕切られた大きな箱に色々な料理が詰められた形式で、一人用はもちろん、複数人用のも注文できる。
なので今回は複数人用の重箱料理を注文する事にした。
店内は本城の雰囲気をそのままに改装されており、黒塗りの艶あるテーブルと椅子がいくつも並んでいる。その一角に私達も座り、水を飲みながら重箱がやってくるのを待ち構えていた。
「一人用と複数人用では結構中身が違うみたいね」
ベアトリスが写真付きのメニューをぺらぺらとめくり始める。
「一人用だと二段仕様で、一段目が鮭ごはんらしいわ。二段目はおかずが色々入ってるみたいよ」
「鮭ごはんかぁ。それもおいしそうだなぁ」
言ってると、私達の前に重箱が運ばれてくる。複数人使用は三段らしく、私達は重ねられているそれを一つ一つ降ろしていった。
そしてそれぞれの蓋を開けていく。まず一段目は、俵状のおにぎりが敷き詰められていた。そして二段目、三段目は仕切られた中に様々な料理が収められている。
おかずとなる料理は品目が多い。かまぼこにごぼう、肉の角煮、レンコンとインゲンの炒め物、山菜のゴマ和え、出し巻き卵に魚の天ぷら、栗の甘露煮。デザートなのかイチゴとブドウも入ってた。肉系より野菜系が多いのは、この地域の特色だろうか。
「昨日の天ぷらもそうだけど、一つの料理で色んな種類の食べ物が食べられるのね」
ライラのその印象に私は頷く。ルキョウの町はごはんを主食に様々なおかずが付いてくるスタイルのようだ。とにかくおかずの種類が多くて贅沢な気分になれる。実際の所一つ一つは数少なく野菜が多いので、そこまで贅沢ではないのだけど。ただバランス良い食事なのは確かだ。
早速私達は頂きますをして、思い思いに重箱をつつきはじめた。
私が最初に食べたのはかまぼこ。魚のすり身で作った食べ物だが、意外にも魚っぽさが感じられない。魚独特の匂いもなく、あっさりと癖のないおいしさだ。
次に食べたのはごぼう。これはしっかり煮てあるらしく、見た目に反して柔らかくほくほくしていた。煮汁が甘辛系で、ごぼうは風味が強く力強い味。ここで俵状のおにぎりを一口頬張る。
肉の角煮は甘目で、レンコンとインゲンの炒め物は酢が効いたさっぱり系。レンコンがしゃくしゃくしていて食感が楽しい。山菜のゴマ和えはほろ苦い山菜にゴマの風味が良いアクセント。出し巻き卵はおにぎりとも合い、魚の天ぷらはほろっとした身でほのかな塩気がたまらない。栗の甘露煮はデザートに近いが、デザート系よりも箸休めという印象。
とにかくたくさんの品目があるので、次はあれを食べようこれを食べようと箸が止まらない。ごはん系の料理なら丼物が好きな私だが、こうして様々なおかずを前にごはんをつつくスタイルも楽しいものだ。
皆でパクパク食べていると、ベアトリスがふと口を開いた。
「これ、確かにお祝い事で出てきそうな料理よね。でもどんなお祝い事で出されたのかしら……?」
「それは……」
ふと私も箸を止め、考える。
私ならどういう時にこういう料理を作るだろうか……?
「……弟子の独り立ちが決まった時とか?」
「私なら綺麗な花畑と出会えた時かしら」
私とライラの答えを聞いて、ベアトリスがふっとため息をつく。
「違うわ。きっともっと大事な時に作られるのよ。そう、例えば……おいしいラズベリーが収穫できた時とか」
「……」
「……」
……私もライラも黙々と重箱をつつきはじめた。
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