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136話、旅館と天ぷら色々
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ルキョウの町について植物公園を一通り見て回った頃、空はすっかり夕暮れになっていた。
となると自然と話題になるのが今日の夜ごはんだ。ベアトリスとライラの二人と相談した結果、ひとまず宿屋へ行き荷物を降ろしてから改めて考えようとなった。
ルキョウの町の宿は主に旅館と呼ばれている。部屋は畳と呼ばれる草を編んで作った床材が敷かれており、独特な青い匂いがほのかに香っていた。これは植物の匂いで、どことなく落ち着く香りをしている。どうやらリラックス効果もあるらしい。
一部屋がわりと広く、ベッドではなく布団と呼ばれる敷くタイプの寝具が備え付けられている。なので複数人一緒の部屋に泊まった方がお得なのだ。
というわけでベアトリスも同じ部屋に泊まる事となり、一端荷物を置いて腰を落ち着ける。大きな広い部屋を仕切りで二つに区切っていて、一つが居間、そしてもう一つが寝間となっている。
居間にはローテーブルと座卓があり、ベアトリスと向かい合わせで座りながら、ライラも入れて三人で夕食の話し合いを始めた。
「夜ごはんどうする?」
私が言うと、腰を落ち着けてすっかりリラックスしているベアトリスが気の無い返事を返した。
「そうねー……とりあえず今はしばらく動きたくないわ」
ようやく落ち着ける宿にたどり着いたからか、一気に気が抜けてしまったのだろう。それは私も同じだった。この畳み独特の落ち着く香りが満ちる部屋で腰を降ろしたら、まるで根が張ったように立てなくなる。
……ライラなんて、畳みの上でごろごろ転がってるし。
「でもこのままこうしてるとお腹が空いていくばかりなんだよな~」
それが問題だった。この部屋は落ち着くしできればもう外に出たくないが、しかし夜ごはんがまだな現状、じわじわお腹が空いていく。
このままだと、気がつけばお腹が空いていて動く気力も尽き、夕食を食べずに寝てしまう未来が待っていそうだ。せっかく町にたどり着いたのにそんな結末は避けたい。
だからといって、ここですぐ外に出てお店を探そうと言う事もできなかった。いや本当、落ち着くんだよここ。せめて後十分……いや十五分ほどはゆっくりしたい。それからごはんの事は考えよう。……やっぱり二十分後で。
私がそんな自堕落に陥っていた時、ベアトリスは何の気なしにローテーブルの上に置いてあった旅館の案内書を手にして、ぱらぱらとめくり始めた。これには当旅館の説明や周囲の地図に観光地が記されているはずだ。
「あら」
するとそんな小さな声を出して案内書をめくる手を止めた。
「なにかあったの?」
「見てこれ。ここ、ごはんを注文できるらしいわ」
「え、うそっ」
ベアトリスが差し出した案内書を見ると、確かにそう書かれていた。これまでの宿屋は基本的に泊まる為だけの施設だったが、この旅館は料理を提供するサービスも行っているらしい。
これは渡りに船だ。外に出る事なくごはんが食べられるなんて今の私には夢のよう。
「よし、ここでごはん注文しよう」
「そうね。それが一番だわ」
「私はなんでもいいわよー」
二人も問題ないようなので、早速何を食べるか決めるべく、案内書に記されている料理の種類をざっと眺めてみる。
肉料理や魚料理などのメジャーどころの料理名は基本的にあった。しかしどうせ食べるならこの町独特の物が良いというのが私の持論であり旅の目的である。
そういう目線で見ると、おのずと食べたい物が限られてくる。
その中でも気になった料理名を、私は二人に告げてみた。
「天ぷらってどうかな? ちょっと気になるんだけど」
「天ぷら? ……ああ、揚げ物料理の事よね。ちょっとだけ聞いた事があるわ。小麦粉で作った衣で包むのはフリッターと同じだけど、それと比べて衣が薄くサクっとした食感だとか。私も食べた事ないから気になるわ」
「じゃあベアトリスも天ぷらね。ライラは?」
「私もそれでいいわー」
ライラはまだ畳の上でごろごろしていた。
となると、複数人で食べられる天ぷらの盛り合わせを頼めば問題なさそうだ。
私はすごくおっくうだったが、部屋から出て旅館の入口に向かい、受付の人に料理の注文を告げた。そうすると料理ができあがったら部屋に持ってきてくれるのだ。
部屋に戻ると、なぜかベアトリスもライラみたく畳みの上で横になっていた。
「……なにしてるの」
「ライラが気持ちよさそうだったからつい」
確かに気持ちよさそうだけども。まあ好きにさせておこう。
そんなだらけた時間が十数分ほど経った時、ドアがノックされる。注文していた天ぷらの盛り合わせが届いたのだ。
もうお腹が大分空いていたので、すぐさまドアを開けて招き入れる。ローテーブルの上に天ぷらの盛り合わせを置いた従業員さんを見送った後、私達は一斉に天ぷらの前に集まった。
樹の根を編み込んだような独特な器に油を吸う為のペーパーが敷かれ、その上に天ぷらが山盛りになっている。これは壮観な見た目だ。
「これが天ぷら……思ってた以上に衣が薄いわね。やっぱりフリッターとは違ってるわ」
ベアトリスは興味津々といったていで天ぷらへ視線を送っている。どちらかというと食欲よりも料理体系への興味が強いようだけど。
対して私とライラは、なんでもいいからおいしければいいという考え。早く食べたくてうずうずしていた。
「冷めないうちに食べましょうよ」
ライラのその言葉に、そうだとばかりに私は頷く。ベアトリスはちょっと呆れつつも、そうねと肯定した。
「だけど山盛りになってるから何がなんだか分からないわね」
「食べてみればわかるんじゃない? まさか一種類だけって事はないだろうし」
早速私は山盛りの天ぷらの一番頂点へ箸を伸ばした。
掴んだのは非常に薄い天ぷら。衣だけでなく具材も薄い。うっすらと衣が透けて、緑色の葉っぱのような具材が見えた。
なんだこれ。本当に葉っぱじゃん。食べられるの?
そう思いつつ一口噛んでみると、じゃくっと小気味いい音と共に簡単に噛みちぎれた。
すると口の中に爽やかでさっぱりとしたほのかな酸味が広がる。
これ、シソの葉か。別名大葉。お肉に巻いて食べたり千切りにしてかけたりと、どちらかといえば薬味に近い葉っぱだ。
それを一枚丸ごとからっと揚げるのは面白い。シソ独特の匂いは食欲を増進させる効果があるのか、食欲が更にわいてきた。
「あ、備え付けの塩と天つゆがあるわよ。具材によってはこれをつけて食べた方がよりおいしいかもね」
ベアトリスが二つの小皿にそれぞれを入れてくれる。ただシソの葉に限っては何もつけなくても十分に感じた。
よし、このままどんどん食べていこう。私達三人は、気の向くまま山盛りの天ぷらを崩していく。
次に私が手に取ったのはししとうの天ぷらだった。また緑色じゃんと思ったが、揚げられたししとうはボリっとした食感と共に青くさい野菜の旨みに溢れ、甘じょっぱい天つゆと合わせて食べると非常においしい。
野菜もいいけど肉系とかないのかな、と思い、それっぽいのを次はチョイス。
「これは……肉だよね。なんの肉?」
疑問に思いつつ、塩をつけて一口かじってみる。すると溢れる肉汁と旨み。この味は知っている。
「鳥肉だ」
これは鶏の天ぷらだった。鶏肉はさっぱりしつつクセがなく、豚や牛と比べると少々淡泊な印象がある。しかし油であげるとジューシーさが増して食べごたえも抜群。じわっと染み出る鶏肉の旨みはなんとも言えないおいしさである。
私がそんな風に舌つづみを打っていると、ベアトリスもちょうど何かの天ぷらを頬張る所だった。
「これは……かき揚げよね。これも食べるの初めて……さて、どうかしら」
かき揚げは小さい食材を衣で纏めて揚げた物で、天ぷらの一種らしい。所々黄色が見えたが、さて、何を食べたのだろう。
じゃくじゃく小気味いい音が私の耳にも届き、ベアトリスはごくんと飲みこんだ。表情を見るに非常においしかったようだ。すごく満足げ。
「それなに?」
「トウモロコシだったみたい。甘くてすごくおいしいわ」
「本当? 私も食べる」
「これなら天つゆがおすすめかしら」
勧められるまま、天つゆをつけてトウモロコシのかき揚げを一口。
かき揚げは通常の天ぷらのようにサクっとした食感がありつつ、中は厚い衣のもっちりとした食べごたえもあった。そしてふんだんに入ったトウモロコシが本当に甘い。砂糖とかの甘味料とは違う、野菜の甘みだ。ベアトリスが言う通り、天つゆが非常に合っている。
「見てリリア、こんなに大きいエビー」
ライラの方は天ぷらの盛り合わせの奥からエビを発見したらしく、大きなエビをぱくっと頬張っていた。
「おいしいわ。二人も食べたら? エビー」
エビの天ぷらか……エビフライは食べた事あるけど、天ぷらだとやはりちょっと違う物なのだろうか。
そう思いながらエビを探していたら、掴んだのはまたかき揚げだった。
今度のは所々赤い。なんだろうこれ。
とりあえず何もつけずに食べると、ピリっとした辛味が口に走る。
この味は……ショウガだ。どうやら赤く色づけした紅ショウガをかき揚げにして揚げた物らしい。
紅ショウガは以前食べた肉丼の上に乗っていたが、やはりこれも薬味に近い。天ぷらって薬味をメイン食材として食べたりするのか。ちょっと独創的。
この天ぷらの盛り合わせ。色んな種類がある上に量も多く、三人で食べても食べてもまだ無くならない。しかも何が入っているのか分かってないから、食べるごとに驚きと発見があって楽しかった。まるで山を掘ってお宝を探している気分になる。
エビにタラか何かの白身魚、そして薬味系のミョウガ、ネギにきのこ。食べれば食べるほど色んな味が楽しめる。
パンやごはんといった主食が無い分、たくさんの天ぷらが楽しめた。ようやく全部食べ終えた頃には私達のお腹は限界だった。
「さすがに多かったわね……でもおいしかったわ」
満足したように三人ため息をつき、油で汚れた口元を紙で拭う。
しかしあれだ。こうして油っ気あるものをたくさん食べた後は……熱いお茶で口を潤したい。
……また受付まで行ってお茶を注文するか。でも面倒な気も。ああ、どうしよう。
すると私の迷いを察したのか、ベアトリスが言う。
「飲み物を注文してくるなら、私のもお願い。種類は任せるわ」
「私もおねがーい」
……うまいことお願いされてしまった。お腹が重かったがしかたなく立ち上がり、部屋を出る。
その際に完全に食後のだらけきったベアトリスとライラを見て、ふと思った。
なんか今回は私だけ堕落してなくない?
となると自然と話題になるのが今日の夜ごはんだ。ベアトリスとライラの二人と相談した結果、ひとまず宿屋へ行き荷物を降ろしてから改めて考えようとなった。
ルキョウの町の宿は主に旅館と呼ばれている。部屋は畳と呼ばれる草を編んで作った床材が敷かれており、独特な青い匂いがほのかに香っていた。これは植物の匂いで、どことなく落ち着く香りをしている。どうやらリラックス効果もあるらしい。
一部屋がわりと広く、ベッドではなく布団と呼ばれる敷くタイプの寝具が備え付けられている。なので複数人一緒の部屋に泊まった方がお得なのだ。
というわけでベアトリスも同じ部屋に泊まる事となり、一端荷物を置いて腰を落ち着ける。大きな広い部屋を仕切りで二つに区切っていて、一つが居間、そしてもう一つが寝間となっている。
居間にはローテーブルと座卓があり、ベアトリスと向かい合わせで座りながら、ライラも入れて三人で夕食の話し合いを始めた。
「夜ごはんどうする?」
私が言うと、腰を落ち着けてすっかりリラックスしているベアトリスが気の無い返事を返した。
「そうねー……とりあえず今はしばらく動きたくないわ」
ようやく落ち着ける宿にたどり着いたからか、一気に気が抜けてしまったのだろう。それは私も同じだった。この畳み独特の落ち着く香りが満ちる部屋で腰を降ろしたら、まるで根が張ったように立てなくなる。
……ライラなんて、畳みの上でごろごろ転がってるし。
「でもこのままこうしてるとお腹が空いていくばかりなんだよな~」
それが問題だった。この部屋は落ち着くしできればもう外に出たくないが、しかし夜ごはんがまだな現状、じわじわお腹が空いていく。
このままだと、気がつけばお腹が空いていて動く気力も尽き、夕食を食べずに寝てしまう未来が待っていそうだ。せっかく町にたどり着いたのにそんな結末は避けたい。
だからといって、ここですぐ外に出てお店を探そうと言う事もできなかった。いや本当、落ち着くんだよここ。せめて後十分……いや十五分ほどはゆっくりしたい。それからごはんの事は考えよう。……やっぱり二十分後で。
私がそんな自堕落に陥っていた時、ベアトリスは何の気なしにローテーブルの上に置いてあった旅館の案内書を手にして、ぱらぱらとめくり始めた。これには当旅館の説明や周囲の地図に観光地が記されているはずだ。
「あら」
するとそんな小さな声を出して案内書をめくる手を止めた。
「なにかあったの?」
「見てこれ。ここ、ごはんを注文できるらしいわ」
「え、うそっ」
ベアトリスが差し出した案内書を見ると、確かにそう書かれていた。これまでの宿屋は基本的に泊まる為だけの施設だったが、この旅館は料理を提供するサービスも行っているらしい。
これは渡りに船だ。外に出る事なくごはんが食べられるなんて今の私には夢のよう。
「よし、ここでごはん注文しよう」
「そうね。それが一番だわ」
「私はなんでもいいわよー」
二人も問題ないようなので、早速何を食べるか決めるべく、案内書に記されている料理の種類をざっと眺めてみる。
肉料理や魚料理などのメジャーどころの料理名は基本的にあった。しかしどうせ食べるならこの町独特の物が良いというのが私の持論であり旅の目的である。
そういう目線で見ると、おのずと食べたい物が限られてくる。
その中でも気になった料理名を、私は二人に告げてみた。
「天ぷらってどうかな? ちょっと気になるんだけど」
「天ぷら? ……ああ、揚げ物料理の事よね。ちょっとだけ聞いた事があるわ。小麦粉で作った衣で包むのはフリッターと同じだけど、それと比べて衣が薄くサクっとした食感だとか。私も食べた事ないから気になるわ」
「じゃあベアトリスも天ぷらね。ライラは?」
「私もそれでいいわー」
ライラはまだ畳の上でごろごろしていた。
となると、複数人で食べられる天ぷらの盛り合わせを頼めば問題なさそうだ。
私はすごくおっくうだったが、部屋から出て旅館の入口に向かい、受付の人に料理の注文を告げた。そうすると料理ができあがったら部屋に持ってきてくれるのだ。
部屋に戻ると、なぜかベアトリスもライラみたく畳みの上で横になっていた。
「……なにしてるの」
「ライラが気持ちよさそうだったからつい」
確かに気持ちよさそうだけども。まあ好きにさせておこう。
そんなだらけた時間が十数分ほど経った時、ドアがノックされる。注文していた天ぷらの盛り合わせが届いたのだ。
もうお腹が大分空いていたので、すぐさまドアを開けて招き入れる。ローテーブルの上に天ぷらの盛り合わせを置いた従業員さんを見送った後、私達は一斉に天ぷらの前に集まった。
樹の根を編み込んだような独特な器に油を吸う為のペーパーが敷かれ、その上に天ぷらが山盛りになっている。これは壮観な見た目だ。
「これが天ぷら……思ってた以上に衣が薄いわね。やっぱりフリッターとは違ってるわ」
ベアトリスは興味津々といったていで天ぷらへ視線を送っている。どちらかというと食欲よりも料理体系への興味が強いようだけど。
対して私とライラは、なんでもいいからおいしければいいという考え。早く食べたくてうずうずしていた。
「冷めないうちに食べましょうよ」
ライラのその言葉に、そうだとばかりに私は頷く。ベアトリスはちょっと呆れつつも、そうねと肯定した。
「だけど山盛りになってるから何がなんだか分からないわね」
「食べてみればわかるんじゃない? まさか一種類だけって事はないだろうし」
早速私は山盛りの天ぷらの一番頂点へ箸を伸ばした。
掴んだのは非常に薄い天ぷら。衣だけでなく具材も薄い。うっすらと衣が透けて、緑色の葉っぱのような具材が見えた。
なんだこれ。本当に葉っぱじゃん。食べられるの?
そう思いつつ一口噛んでみると、じゃくっと小気味いい音と共に簡単に噛みちぎれた。
すると口の中に爽やかでさっぱりとしたほのかな酸味が広がる。
これ、シソの葉か。別名大葉。お肉に巻いて食べたり千切りにしてかけたりと、どちらかといえば薬味に近い葉っぱだ。
それを一枚丸ごとからっと揚げるのは面白い。シソ独特の匂いは食欲を増進させる効果があるのか、食欲が更にわいてきた。
「あ、備え付けの塩と天つゆがあるわよ。具材によってはこれをつけて食べた方がよりおいしいかもね」
ベアトリスが二つの小皿にそれぞれを入れてくれる。ただシソの葉に限っては何もつけなくても十分に感じた。
よし、このままどんどん食べていこう。私達三人は、気の向くまま山盛りの天ぷらを崩していく。
次に私が手に取ったのはししとうの天ぷらだった。また緑色じゃんと思ったが、揚げられたししとうはボリっとした食感と共に青くさい野菜の旨みに溢れ、甘じょっぱい天つゆと合わせて食べると非常においしい。
野菜もいいけど肉系とかないのかな、と思い、それっぽいのを次はチョイス。
「これは……肉だよね。なんの肉?」
疑問に思いつつ、塩をつけて一口かじってみる。すると溢れる肉汁と旨み。この味は知っている。
「鳥肉だ」
これは鶏の天ぷらだった。鶏肉はさっぱりしつつクセがなく、豚や牛と比べると少々淡泊な印象がある。しかし油であげるとジューシーさが増して食べごたえも抜群。じわっと染み出る鶏肉の旨みはなんとも言えないおいしさである。
私がそんな風に舌つづみを打っていると、ベアトリスもちょうど何かの天ぷらを頬張る所だった。
「これは……かき揚げよね。これも食べるの初めて……さて、どうかしら」
かき揚げは小さい食材を衣で纏めて揚げた物で、天ぷらの一種らしい。所々黄色が見えたが、さて、何を食べたのだろう。
じゃくじゃく小気味いい音が私の耳にも届き、ベアトリスはごくんと飲みこんだ。表情を見るに非常においしかったようだ。すごく満足げ。
「それなに?」
「トウモロコシだったみたい。甘くてすごくおいしいわ」
「本当? 私も食べる」
「これなら天つゆがおすすめかしら」
勧められるまま、天つゆをつけてトウモロコシのかき揚げを一口。
かき揚げは通常の天ぷらのようにサクっとした食感がありつつ、中は厚い衣のもっちりとした食べごたえもあった。そしてふんだんに入ったトウモロコシが本当に甘い。砂糖とかの甘味料とは違う、野菜の甘みだ。ベアトリスが言う通り、天つゆが非常に合っている。
「見てリリア、こんなに大きいエビー」
ライラの方は天ぷらの盛り合わせの奥からエビを発見したらしく、大きなエビをぱくっと頬張っていた。
「おいしいわ。二人も食べたら? エビー」
エビの天ぷらか……エビフライは食べた事あるけど、天ぷらだとやはりちょっと違う物なのだろうか。
そう思いながらエビを探していたら、掴んだのはまたかき揚げだった。
今度のは所々赤い。なんだろうこれ。
とりあえず何もつけずに食べると、ピリっとした辛味が口に走る。
この味は……ショウガだ。どうやら赤く色づけした紅ショウガをかき揚げにして揚げた物らしい。
紅ショウガは以前食べた肉丼の上に乗っていたが、やはりこれも薬味に近い。天ぷらって薬味をメイン食材として食べたりするのか。ちょっと独創的。
この天ぷらの盛り合わせ。色んな種類がある上に量も多く、三人で食べても食べてもまだ無くならない。しかも何が入っているのか分かってないから、食べるごとに驚きと発見があって楽しかった。まるで山を掘ってお宝を探している気分になる。
エビにタラか何かの白身魚、そして薬味系のミョウガ、ネギにきのこ。食べれば食べるほど色んな味が楽しめる。
パンやごはんといった主食が無い分、たくさんの天ぷらが楽しめた。ようやく全部食べ終えた頃には私達のお腹は限界だった。
「さすがに多かったわね……でもおいしかったわ」
満足したように三人ため息をつき、油で汚れた口元を紙で拭う。
しかしあれだ。こうして油っ気あるものをたくさん食べた後は……熱いお茶で口を潤したい。
……また受付まで行ってお茶を注文するか。でも面倒な気も。ああ、どうしよう。
すると私の迷いを察したのか、ベアトリスが言う。
「飲み物を注文してくるなら、私のもお願い。種類は任せるわ」
「私もおねがーい」
……うまいことお願いされてしまった。お腹が重かったがしかたなく立ち上がり、部屋を出る。
その際に完全に食後のだらけきったベアトリスとライラを見て、ふと思った。
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