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4.女遊びの噂
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時を経てマクシミリアンは17歳、ユリアとヴィルヘルムは14歳となった。
貴族社会は、今日の味方は明日の敵にもなりえる魑魅魍魎の世界である。第一王子の婚約者ユリアは、婚約者のためと思ってデビュタント前でも参加できるお茶会には積極的に参加して社交にいそしんでいた。でもその立場ゆえに普通の貴族令嬢以上に敵が多かったから、攻撃材料を見つけてユリアにつっかかってくる貴族もしょっちゅういた。ラウエンブルク公爵家は一家そろってまじめだから、その攻撃材料と言えばマクシミリアンの女遊びしかなかった。
「ごきげんよう、ユリア様。第一王子殿下はつつがなくお元気でいらっしゃいますの?」
「ごきげんよう、ルイーゼ様。もちろん、殿下はお元気です。」
「そうですの、第二王子殿下と一緒の剣技の授業を第一王子殿下はずっと病欠されているってお聞きしましたけど?お元気なのはあっちのほうだけかしら。やんごとなきご身分の方が頻繁に娼館に通っていらっしゃるという噂、お聞きしたことありまして?」
「まぁ、やんごとなきご身分ってどこかの公爵閣下も入るのかしらね」
「……なっ!」
貴族令嬢としては下品な物言いをしたのは、トラヘンベルク公爵家のルイーゼ嬢。彼女は婚約者のいない第二王子ヴィルヘルムとの婚約をいまだに狙っていて、王宮で幼馴染としてユリアに出会って以来ずっとユリアに強烈なライバル意識を持っている。
教会は配偶者の他に愛人を持つことを堕落として禁止しているが、ルイーゼの父親のトラヘンベルク公爵には何人も愛人がいるとまことしやかに噂されており、娼館にしょっちゅう通っていることも、普通に社交している貴族なら耳にしたことがあるはずである。この国のあと2人しかいない公爵達は堅物かつ愛妻家で有名であるから、娼館に通う『公爵』とすれば、ルイーゼの父を指すことは誰にでもわかることだった。
この日のお茶会に参加している令嬢たちは、ユリアが出席するお茶会のほとんどで常連で、お互いに名前呼びを許した仲と言えば聞こえはいいが、お互いの本音は笑顔の仮面の下に隠している。
ユリアがルイーゼをやっとかわしてお茶会の別のテーブルに行くと、今度はクレットガウ伯爵令嬢が心配を装っている体で、挨拶もそこそこにマクシミリアンの浮気情報というジャブを浴びせてきた。
「ユリア様、最近、第一王子殿下がいつも同じ女性と一緒におられるという目撃情報がいくつもあるんです。お聞きになったことがありますか? その女性がどこの家のご令嬢なのかまではまだわからないのですが、もしご心配でしたら、調べてみることもできましてよ」
「マリア様、ありがとうございます。私もそのことは存じていますので、お手を煩わせるまでもございませんわ」
以前は、その時その時で違う令嬢と一緒にいたマクシミリアンだが、ここ数ヶ月はいつも同じ令嬢が一緒だった。しかもその令嬢との目撃情報が出るようになってからはマクシミリアンは娼館にも行かなくなっていたようだった。
そのことはユリアも知っていたが、その令嬢の名前はまだ知らなかった。それも当然で、マクシミリアンと同い年の彼女は、最近フェアラート男爵家の養女になったばかりで、まだ社交界に正式にデビューしていなかった。
貴族社会は、今日の味方は明日の敵にもなりえる魑魅魍魎の世界である。第一王子の婚約者ユリアは、婚約者のためと思ってデビュタント前でも参加できるお茶会には積極的に参加して社交にいそしんでいた。でもその立場ゆえに普通の貴族令嬢以上に敵が多かったから、攻撃材料を見つけてユリアにつっかかってくる貴族もしょっちゅういた。ラウエンブルク公爵家は一家そろってまじめだから、その攻撃材料と言えばマクシミリアンの女遊びしかなかった。
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「ごきげんよう、ルイーゼ様。もちろん、殿下はお元気です。」
「そうですの、第二王子殿下と一緒の剣技の授業を第一王子殿下はずっと病欠されているってお聞きしましたけど?お元気なのはあっちのほうだけかしら。やんごとなきご身分の方が頻繁に娼館に通っていらっしゃるという噂、お聞きしたことありまして?」
「まぁ、やんごとなきご身分ってどこかの公爵閣下も入るのかしらね」
「……なっ!」
貴族令嬢としては下品な物言いをしたのは、トラヘンベルク公爵家のルイーゼ嬢。彼女は婚約者のいない第二王子ヴィルヘルムとの婚約をいまだに狙っていて、王宮で幼馴染としてユリアに出会って以来ずっとユリアに強烈なライバル意識を持っている。
教会は配偶者の他に愛人を持つことを堕落として禁止しているが、ルイーゼの父親のトラヘンベルク公爵には何人も愛人がいるとまことしやかに噂されており、娼館にしょっちゅう通っていることも、普通に社交している貴族なら耳にしたことがあるはずである。この国のあと2人しかいない公爵達は堅物かつ愛妻家で有名であるから、娼館に通う『公爵』とすれば、ルイーゼの父を指すことは誰にでもわかることだった。
この日のお茶会に参加している令嬢たちは、ユリアが出席するお茶会のほとんどで常連で、お互いに名前呼びを許した仲と言えば聞こえはいいが、お互いの本音は笑顔の仮面の下に隠している。
ユリアがルイーゼをやっとかわしてお茶会の別のテーブルに行くと、今度はクレットガウ伯爵令嬢が心配を装っている体で、挨拶もそこそこにマクシミリアンの浮気情報というジャブを浴びせてきた。
「ユリア様、最近、第一王子殿下がいつも同じ女性と一緒におられるという目撃情報がいくつもあるんです。お聞きになったことがありますか? その女性がどこの家のご令嬢なのかまではまだわからないのですが、もしご心配でしたら、調べてみることもできましてよ」
「マリア様、ありがとうございます。私もそのことは存じていますので、お手を煩わせるまでもございませんわ」
以前は、その時その時で違う令嬢と一緒にいたマクシミリアンだが、ここ数ヶ月はいつも同じ令嬢が一緒だった。しかもその令嬢との目撃情報が出るようになってからはマクシミリアンは娼館にも行かなくなっていたようだった。
そのことはユリアも知っていたが、その令嬢の名前はまだ知らなかった。それも当然で、マクシミリアンと同い年の彼女は、最近フェアラート男爵家の養女になったばかりで、まだ社交界に正式にデビューしていなかった。
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