上 下
4 / 33

4.女遊びの噂

しおりを挟む
 時を経てマクシミリアンは17歳、ユリアとヴィルヘルムは14歳となった。

 貴族社会は、今日の味方は明日の敵にもなりえる魑魅魍魎の世界である。第一王子の婚約者ユリアは、婚約者のためと思ってデビュタント前でも参加できるお茶会には積極的に参加して社交にいそしんでいた。でもその立場ゆえに普通の貴族令嬢以上に敵が多かったから、攻撃材料を見つけてユリアにつっかかってくる貴族もしょっちゅういた。ラウエンブルク公爵家は一家そろってまじめだから、その攻撃材料と言えばマクシミリアンの女遊びしかなかった。

「ごきげんよう、ユリア様。第一王子殿下はつつがなくお元気でいらっしゃいますの?」

「ごきげんよう、ルイーゼ様。もちろん、殿下はお元気です。」

「そうですの、第二王子殿下と一緒の剣技の授業を第一王子殿下はずっと病欠されているってお聞きしましたけど?お元気なのはあっちのほうだけかしら。やんごとなきご身分の方が頻繁に娼館に通っていらっしゃるという噂、お聞きしたことありまして?」

「まぁ、やんごとなきご身分ってどこかの公爵閣下も入るのかしらね」
「……なっ!」

 貴族令嬢としては下品な物言いをしたのは、トラヘンベルク公爵家のルイーゼ嬢。彼女は婚約者のいない第二王子ヴィルヘルムとの婚約をいまだに狙っていて、王宮で幼馴染としてユリアに出会って以来ずっとユリアに強烈なライバル意識を持っている。

 教会は配偶者の他に愛人を持つことを堕落として禁止しているが、ルイーゼの父親のトラヘンベルク公爵には何人も愛人がいるとまことしやかに噂されており、娼館にしょっちゅう通っていることも、普通に社交している貴族なら耳にしたことがあるはずである。この国のあと2人しかいない公爵達は堅物かつ愛妻家で有名であるから、娼館に通う『公爵』とすれば、ルイーゼの父を指すことは誰にでもわかることだった。

 この日のお茶会に参加している令嬢たちは、ユリアが出席するお茶会のほとんどで常連で、お互いに名前呼びを許した仲と言えば聞こえはいいが、お互いの本音は笑顔の仮面の下に隠している。

 ユリアがルイーゼをやっとかわしてお茶会の別のテーブルに行くと、今度はクレットガウ伯爵令嬢が心配を装っている体で、挨拶もそこそこにマクシミリアンの浮気情報というジャブを浴びせてきた。

「ユリア様、最近、第一王子殿下がいつも同じ女性と一緒におられるという目撃情報がいくつもあるんです。お聞きになったことがありますか? その女性がどこの家のご令嬢なのかまではまだわからないのですが、もしご心配でしたら、調べてみることもできましてよ」

「マリア様、ありがとうございます。私もそのことは存じていますので、お手を煩わせるまでもございませんわ」

 以前は、その時その時で違う令嬢と一緒にいたマクシミリアンだが、ここ数ヶ月はいつも同じ令嬢が一緒だった。しかもその令嬢との目撃情報が出るようになってからはマクシミリアンは娼館にも行かなくなっていたようだった。

 そのことはユリアも知っていたが、その令嬢の名前はまだ知らなかった。それも当然で、マクシミリアンと同い年の彼女は、最近フェアラート男爵家の養女になったばかりで、まだ社交界に正式にデビューしていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は前世の心中相手に囚われたくない!

田鶴
恋愛
伯爵令嬢アニカには、約100年前のコーブルク公爵家の侍女アンネとしての前世の記憶がある。アンネは、当時の公爵家嫡男ルドルフと恋仲だったが、身分差のため結婚を反対され、ヤンデレ化したルドルフに毒で無理心中させられてしまったのだ。ヤンデレルドルフが転生していたら、やっぱりヤンデレだよね?今世では、そんな男に惚れないし、惚れられない!だから今世ではまともな男性と素敵な恋愛をするぞー!と思ったら、こんな身近にルドルフの転生者らしきヤツが!!ああ、めくるめく恋愛は今世でも成就しないのっ?! アルファポリス、小説家になろう、ムーンライトノベルズ、カクヨムに掲載している『始まりは偽装デキ婚から』(完結済み)と同じ世界の約100年後の話です。 前作で不幸な死に方をしたアンネとルドルフ(特にアンネ!)を救ってあげたくて今世で幸せになる話を書きました。 前作を読んでいなくても本作品を楽しめるように書いていますが、前作も読んでいただけると本作品をもっと楽しめるかと思いますので、前作も読んでいただけるとうれしいです! https://www.alphapolis.co.jp/novel/768272089/741700187 作中の固有名詞は実在のものと無関係です。 *小説家になろうとカクヨムでも投稿しています。

もう一度だけ。

しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。 最期に、うまく笑えたかな。 **タグご注意下さい。 ***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。 ****ありきたりなお話です。 *****小説家になろう様にても掲載しています。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

処理中です...