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68.レドモンドとチビソニア(レドモンド視点)
しおりを挟む翌日。
夜はレドモンドに外せない会合があるため、昼間はレドモンド、夜はルーカスがソニア担当に決まった。
チビソニアを抱き上げてオーナー部屋へ入る。ソファーに降ろし、絵本を渡すとソニアは微妙な顔をした。いつもより小さなうさ耳が少しへなっ、と倒れる。何か言おうと口を開くが、思い直したのかそのまま閉じた。
「昼間来る客はいないから好きにしてろ。何かあったら言え」
「…あい」
本人は「はい」と言ったつもりだろうが、「あい」にしか聞こえない。笑ってしまいそうなのを抑えて頭を撫でると、うさ耳が広がってぴくぴく動く。ずっと撫でていたい欲を見ないふりして仕事にかかった。
絵本は、昨日フェズが何を思ったか服と一緒に持ってきた物だ。他にぬいぐるみやお菓子もあった。ぬいぐるみはともかく、絵本は良い。おそらくソニアは読んだ事がないだろうから、いい暇つぶしだ。
仕事をしながらチラッと見る。
ソニアは大きなソファーにちょこん、と正座して絵本をめくっている。オレンジ色のチェックのキャミソールワンピースを着て、同柄のリボンで長い髪をポニーテールにしていた。まあ、今は自分で出来ないので俺がしてやったのだが。
・・・可愛いな。もし、ソニアに似た女の子が産まれたらこんな感じなんじゃないかと思っていた。きっとルーカスも感じているだろう。子宝に恵まれるとは限らないが・・・つい考えてしまう。
半年ほど前までは妻や子など縁のないものだと思っていた。考えるのはグラベットの将来で、自分の事は正直どうでもよかった。
それが・・・こんな風に子供の事を想うようになるなんて。
柄にもなく感慨にふけっていると、ソニアのうさ耳が何かを聞きつけてぴこんっ!と立った。絵本を閉じて後ろ向きになり、しっぽとおしりを可愛くふりふりしながらバックでソファーから降りる。そして俺の元へててっ、と駆けてきた。
「ソニア?」
どうした?と聞く前にドアをノックする音。
なるほどな・・・。
オーナー部屋を訪れる者は意外と限られていて、客を除けば殆どが幹部連中だ。そいつらとはここで顔を合わせる事も多いし店でも一緒だ。
つまりチビの姿で会うのが恥ずかしいんだろう。
「ボス、ルイです。よろしいですか?」
「ああ、入れ」
ドアを開け、執務机の前に来ると何通かの書簡を差し出した。
「明け方に届きました。封はチェック済みです」
「ああ」
「あの…昨夜ルーカスさんからソニアちゃんの事聞きました。体は大丈夫なんですか?」
ルイには俺のイスの後ろにいるソニアは見えていないらしい。
「フフッ、本人に聞いてみろ。…顔くらい見せたらどうだ?」
声をかけると、僅かな間の後にイスの陰からソニアがぴょこっと顔を出した。うさ耳がせわしなく動いている。
「ルイしゃん…わたし、だいじょぶ。げんきれす」
「…ソニア、ちゃん…?」
「あい」
ルイは口を開けたまま惚けている。いつも爽やかな感じを崩さないこいつにしては珍しい反応だ。まあ、今回はソニアがもの凄く可愛いから仕方がないが。
「…ルイしゃん?」
黙ったまま自分を見ているルイを不思議に思ったのか、イスの横に出てきてコテン、と小首を傾げる。小さな手で俺の服の裾を握っているのが何とも言えない。
「………ハッ!?え?あ、ああ、大丈夫なら良かった。…じゃあ…失礼します」
「ああ」
我に返って何とか言葉を発し、やけにコキコキした動きで出ていった。
「…おどかしちゃったね」
「フフッ、まあな」
下から見上げてくるソニアを抱き上げ、横向きに膝に乗せる。
「…レド、しごとちゅーれしょ」
「ああ、そうだな」
「むぅ…またてきとーにへんじしゅる」
書簡は緊急時や何かあった場合はすぐに分かるようになっている。今日のは通常の報告だ。見られても構わない。俺はソニアを乗せたまま封を開け、報告書に目を通した。
さわり心地の良い髪を撫でながら読み始めると諦めたようで静かになった。全てに目を通し書簡をまとめていると膝の上から声が。
「…ねむい」
見ると目を擦っている。
「チビは昼寝の時間だ。このまま寝ても良いぞ」
小さな身体を胸に寄りかからせ、軽く抱きしめる。
「ん…」
ソニアは少しの間もぞもぞと動いていたがすぐに寝息を立て始めた。熟睡している事を確かめてからソファーへ寝かせ、薄いブランケットを掛ける。まだ俺の服を握って離さない可愛らしさに思わず笑みが浮かぶ。そっと小さな唇に口づけると、にへっ、と笑って手を緩めた。名残惜しくてもう一度口づけし、頭を撫でてから執務机に戻った。
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