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67.夢
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ソニアは夢を見ていた。
母親が亡くなってから見ていた悲しい夢。
小さな自分が人混みの中にひとり立ち止まっている。周りは大きな人ばかり。でも誰も自分を見向きもしない。まるでそこに存在してないかのように。
わたしは誰かの名を呼ぶ。必死に、ありったけの声で叫ぶ。それでも景色は変わらない。
わたしは走り出す。すると、突然だれもいなくなる。景色さえなくなり、白い世界になる。
わたしは走り続ける。何かを求めて。でもその何かは手に入らない。何故かそれだけは分かる。
汗だくになり、
ふらふらになり、
転びそうになって
―――――――目が覚める。
まるで本当に走っていたかのように息切れする。心臓が早鐘を打ち、全身汗だくになっている。
・・・・・夢。また、この夢。身体が小さくなった影響かもしれない。子供の頃によく見た夢だ。その頃は目が覚めると顔中が涙でぐしゃぐしゃだった。
寂しくて、でも父にも言えなくて。一時期はとても辛かったが、大きくになるにつれて見る間隔が長くなり、大人になったら極たまに見るくらいになった。
わたしは深呼吸して心を落ち着ける。昔、いつもしていたように言い聞かせる。
大丈夫。今のわたしにはレドとルーカスがいる。ひとりじゃない。身体だってちゃんと戻る。だからわたしは大丈夫。
こうして自分で自分を落ち着け、励ましながら、幾度となく眠れない夜を過ごしたのだ。
周りを見渡す。広い部屋、大きなベッド、バーカウンター。2人が居なくてもいつもの光景にホッとする。
・・・着替えなきゃ、汗で気持ち悪い。本当はシャワーしたいけどひとりじゃ無理だしね。
ベッドの端まで行って足をぶら下げる。・・・結構高いな。向きを変え、ベッドへうつ伏せになって後ろ向きで足からズリズリと降りる。床に足が着いて、立った、と思って手を離したら・・・ころんっ!と後ろに転がった。
「ふぇっ!」
大した衝撃はなかったがしっぽが潰れてチョット痛い。しっぽをさすりながら立ち上がってリビングへ向かう。目指すは洗面所、タオルが欲しいのだ。でもタオルを手に入れるには2つのドアという難関が待っている。ドレッサーのイスはきっと危ないし、他に踏み台になるようなものはこの部屋にはない。
ドアの前で爪先立ちし、ぷるぷる震える手をノブへ伸ばす。私室のドアノブは取っ手を下に下げるタイプだ。上手く掴めればわたしでもきっと開く。
・・・掴めた!
クイッ、と下げた途端汗で滑って手が外れ、顎にドアがぶつかった。
ゴンッ!と鈍い音がして衝撃が走り、バランスを崩して転び、頭をぶつけた。
「……いだい……っ、ひっく、うぅ…ぐすっ…」
個人差もあるかもしれないけど、子供の体って我慢がきかないみたいだ。痛くても悲しくてもすぐに涙が出てしまう。泣きながら何とか起き上がってドアを開け、やっとリビングに出た。
顎と頭を自分で撫でていると・・・
「ソニア…!?」
「レド…」
オーナー部屋からレドが入ってきて、わたしを見て驚きの声を上げた。すぐに駆け寄ってきてしゃがみ込み、汗をびっしょりかいてる事にまた驚く。
「ッ!?どうした?何かあったか?どこか痛いか?」
目線を合わせ、焦った声で矢継ぎ早に聞く。
「なんもない、ゆめ、みただけ」
「夢…?怖い夢か?こんなに汗だくになって…涙まで…」
わたしの涙を指で拭って抱き上げ、そのままぎゅっと抱きしめてくれた。
「ひとりにしてすまなかった。もう大丈夫だ」
「レド…っ…」
まだ痛いのと安心したのがごっちゃになってまた泣きそうになった。
その時、ルーカスが入ってくる。
「…ソニア!?」
彼もわたしの様子を見て慌てて駆け寄って来た。レドが説明して聞かせると、頭を優しく撫でてくれた。
「可哀想に…こんなに汗をかい…あれ、ここにタンコブが…ソニア、もしかして頭をぶつけました!?」
「頭?おい、他は!」
下に降ろされ、身体をチェックされる。・・・くすぐったい!一気に涙が引っ込みましたよ。
「…ケガはなさそうですが、おしりが少し赤いです。コブも後頭部ですし、ドアを開けて後ろへ転んだのでは?頭痛くないですか?」
「らしいな…顎の下にも傷がある。ドアがここにぶつかったのか?唇は大丈夫そうだが、中は切れてないか?」
おふぅ・・・全部正解です。大丈夫、という意味も込めてコクン、と頷くと目で続きを促された。恥ずかしエピソードを話さなきゃダメですか・・・。
わたしは手当してもらいながら目が覚めてからの事を話した。話した後はとりあえず汗を流さないと、という事でシャワーに入れてくれた。
着替えも済ませ、ルーカスの膝の上で流れた水分を補給する。
「夢はよく見るのか?」
「みるけど…このゆめきょおがはじめて」
「やはり身体変化が原因でしょうか?」
「そうだとおもう。…こどものときに、よくみたゆめだから」
どんな夢、とは聞かれなくて助かった。話したらまた泣きそうだもん。
「そうか…もうひとりにしない。安心しろ」
「…うん、ありがと」
その後は夢を見ることもなく、朝までぐっすり眠った。
母親が亡くなってから見ていた悲しい夢。
小さな自分が人混みの中にひとり立ち止まっている。周りは大きな人ばかり。でも誰も自分を見向きもしない。まるでそこに存在してないかのように。
わたしは誰かの名を呼ぶ。必死に、ありったけの声で叫ぶ。それでも景色は変わらない。
わたしは走り出す。すると、突然だれもいなくなる。景色さえなくなり、白い世界になる。
わたしは走り続ける。何かを求めて。でもその何かは手に入らない。何故かそれだけは分かる。
汗だくになり、
ふらふらになり、
転びそうになって
―――――――目が覚める。
まるで本当に走っていたかのように息切れする。心臓が早鐘を打ち、全身汗だくになっている。
・・・・・夢。また、この夢。身体が小さくなった影響かもしれない。子供の頃によく見た夢だ。その頃は目が覚めると顔中が涙でぐしゃぐしゃだった。
寂しくて、でも父にも言えなくて。一時期はとても辛かったが、大きくになるにつれて見る間隔が長くなり、大人になったら極たまに見るくらいになった。
わたしは深呼吸して心を落ち着ける。昔、いつもしていたように言い聞かせる。
大丈夫。今のわたしにはレドとルーカスがいる。ひとりじゃない。身体だってちゃんと戻る。だからわたしは大丈夫。
こうして自分で自分を落ち着け、励ましながら、幾度となく眠れない夜を過ごしたのだ。
周りを見渡す。広い部屋、大きなベッド、バーカウンター。2人が居なくてもいつもの光景にホッとする。
・・・着替えなきゃ、汗で気持ち悪い。本当はシャワーしたいけどひとりじゃ無理だしね。
ベッドの端まで行って足をぶら下げる。・・・結構高いな。向きを変え、ベッドへうつ伏せになって後ろ向きで足からズリズリと降りる。床に足が着いて、立った、と思って手を離したら・・・ころんっ!と後ろに転がった。
「ふぇっ!」
大した衝撃はなかったがしっぽが潰れてチョット痛い。しっぽをさすりながら立ち上がってリビングへ向かう。目指すは洗面所、タオルが欲しいのだ。でもタオルを手に入れるには2つのドアという難関が待っている。ドレッサーのイスはきっと危ないし、他に踏み台になるようなものはこの部屋にはない。
ドアの前で爪先立ちし、ぷるぷる震える手をノブへ伸ばす。私室のドアノブは取っ手を下に下げるタイプだ。上手く掴めればわたしでもきっと開く。
・・・掴めた!
クイッ、と下げた途端汗で滑って手が外れ、顎にドアがぶつかった。
ゴンッ!と鈍い音がして衝撃が走り、バランスを崩して転び、頭をぶつけた。
「……いだい……っ、ひっく、うぅ…ぐすっ…」
個人差もあるかもしれないけど、子供の体って我慢がきかないみたいだ。痛くても悲しくてもすぐに涙が出てしまう。泣きながら何とか起き上がってドアを開け、やっとリビングに出た。
顎と頭を自分で撫でていると・・・
「ソニア…!?」
「レド…」
オーナー部屋からレドが入ってきて、わたしを見て驚きの声を上げた。すぐに駆け寄ってきてしゃがみ込み、汗をびっしょりかいてる事にまた驚く。
「ッ!?どうした?何かあったか?どこか痛いか?」
目線を合わせ、焦った声で矢継ぎ早に聞く。
「なんもない、ゆめ、みただけ」
「夢…?怖い夢か?こんなに汗だくになって…涙まで…」
わたしの涙を指で拭って抱き上げ、そのままぎゅっと抱きしめてくれた。
「ひとりにしてすまなかった。もう大丈夫だ」
「レド…っ…」
まだ痛いのと安心したのがごっちゃになってまた泣きそうになった。
その時、ルーカスが入ってくる。
「…ソニア!?」
彼もわたしの様子を見て慌てて駆け寄って来た。レドが説明して聞かせると、頭を優しく撫でてくれた。
「可哀想に…こんなに汗をかい…あれ、ここにタンコブが…ソニア、もしかして頭をぶつけました!?」
「頭?おい、他は!」
下に降ろされ、身体をチェックされる。・・・くすぐったい!一気に涙が引っ込みましたよ。
「…ケガはなさそうですが、おしりが少し赤いです。コブも後頭部ですし、ドアを開けて後ろへ転んだのでは?頭痛くないですか?」
「らしいな…顎の下にも傷がある。ドアがここにぶつかったのか?唇は大丈夫そうだが、中は切れてないか?」
おふぅ・・・全部正解です。大丈夫、という意味も込めてコクン、と頷くと目で続きを促された。恥ずかしエピソードを話さなきゃダメですか・・・。
わたしは手当してもらいながら目が覚めてからの事を話した。話した後はとりあえず汗を流さないと、という事でシャワーに入れてくれた。
着替えも済ませ、ルーカスの膝の上で流れた水分を補給する。
「夢はよく見るのか?」
「みるけど…このゆめきょおがはじめて」
「やはり身体変化が原因でしょうか?」
「そうだとおもう。…こどものときに、よくみたゆめだから」
どんな夢、とは聞かれなくて助かった。話したらまた泣きそうだもん。
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「…うん、ありがと」
その後は夢を見ることもなく、朝までぐっすり眠った。
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