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第12話 数の国

10 異国をさまよって

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 るりなみとゆめづきは、それでも、かずよみを……その光のうずを、追っていった。

 走っているうちに、るりなみをつくる数の集まりも、ゆめづきの数のかたまりも、かわの流れにまれ、体のかたちがわからなくなっていった。
 流れていく数字が引っかかって、るりなみの輪郭りんかくの数字と入れわっていくのも見えた。

 このまま自分が分解ぶんかいされちゃったらどうしよう、とるりなみが思ったころ、ゆめづきの声がした。

父様とうさまは、とおりに出たみたいです!」

 るりなみのうでがぐいっとつかまれ、河から引き上げられた。

 河から出ると、るりなみの体からは、しずくがしたたるように数字がこぼれていった。
 だが、あたりは数字がきちんとならぶしっかりとした世界だった。

 るりなみの腕をつかんでいたのは、ゆめづきだとわかったし、そこは庁舎ちょうしゃ裏庭うらにわけた先のまちの通りなのだともわかった。

 通りにめんして並ぶ建物たてものまどが、ガラスでできていることもわかった……そこに並ぶ数字たちは、かがみのような光り方をしていたので。

 その通りの先を、かずよみらしき人物じんぶつが、光のうずをかかげて走っていた。

 るりなみは、ゆめづきに手を引かれて、またそれを追う。

 石畳いしだたみの道に、きらきらとガラスがかれたように見える数字の面は、水たまりだった。

 それを踏んだるりなみのくつは、れるはずだった。
 でも、すべては数でできている。

 水たまりの数字をびた数字の靴が、本当に濡れたのかどうか、るりなみにはすでに冷たさも重さもわからなくなっていた。

 わけがわからなくなって、走る足ももつれる。

 それでもゆめづきがぐいっと引っ張り、「追いかけないと!」と前へ走らせる……そのゆめづきの声さえ、数字でできている気がしてきて、るりなみはふらふらと足を走らせるしかなかった。

 ゆめづきは、がりかどで立ちまったり、うら路地ろじに入ったりしながら走っていくが、るりなみは、街をさまよっているとしか思えなかった。

 太陽たいようも見えないし、時刻じこくもわからないが、だんだんに日がれていくのが、世界の色合いの変化でわかる。

 このまま、いつのまにか、かげたちの世界にまよいこんでしまったとしても……そこにいる影たちも数字でくされて見えるのだったら、影のくににいるのか、数の国にいるのか、区別くべつもつかないな、とるりなみは思った。

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