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第12話 数の国

9 数の河、数の渦

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 数のかわの上のベンチには、ゆめづきとかずよみがすわっている。

 その顔も、はなも、かみも、すべてがぼんやりとして、よく見れば数字が組まれている。

 るりなみもそうだ。
 見下ろした手も足も、服の細かいところまで、すべては数がからまりあってできている。

「あ……ああ……っ」

 あまりのことに、おどろきや混乱こんらんは、うまく言葉にならない。

 ゆめづきのしぐさや表情ひょうじょうは、なんとなくいろいだけを見ていればわかる。
 だが彼女がゆっくりと顔を回すと、残像ざんぞうのように小さな数字がこぼれた。

「なんですか、これは……」
「ゆめづきにも、数が……数の世界が、見えている?」
兄様にいさまも?」

 ゆめづきとるりなみは、おたがいの顔を……数が見えるほど近づけた。

 よく見れば見るほど、細かい目鼻までが、数字によって成っているのがわかる。

 顔をはなせば、ほほや髪、服のおおまかな面をたよりに、ガラスびんの向こうにかしたようにぼんやりとだが、人の姿すがた認識にんしきできる。
 だがもっと離れると、大まかな数字がり集まった数のかたまりのようにも見えてしまう。

 そのゆめづきの手もとをのぞきこんでいる数のかたまりが、かずよみだった。

 かずよみの見ている先を見て、るりなみは「あっ」と声をあげた。

「ゆめづき、それ、時計だよね……?」

 ゆめづきがむねの前で手に持っているものは、時計には見えなかった。

 そこには、光る数字がうずいて、小さな銀河ぎんがが生まれているかのようだった。

「やはりこの時計が、やはりこの時計が!」

 かずよみがさけごえをあげ、ゆめづきの手から、その銀河のように渦巻くかたまりをうばい取った。

「あっ、父様、返して!」
「やはりこの時計が、ひずみのおおもとだったのだな、はっはぁ!」

 かずよみは時計であったはずの、光る数の渦をかかげて、ベンチから飛びり、数の大河たいがの真ん中に立った。

 すると、大河を流れていく数字たちや、流れからはじかれた数字たちが、巻きあげられるように、かずよみの手の上の光の渦へと吸い上げられ、光の渦は──時計であったものは、どんどん大きな数の渦になっていった。

「すごい、すごいぞ! すさまじいぞぉぉ……」

 かずよみは数の渦を高くかかげたまま、河の下流かりゅうへと走り出した。
 その姿は、あっというに数の河にまれて、見けがつかなくなってしまう。

 河の上にかかげられ、数字をい上げていく光の渦が遠ざかっていくのだけがわかった。

   *   *   *
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