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第12話 数の国
11 夜の数読み
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「父様、つかまえた」
空がぼんやりと紺色に暮れて、そのはるかな空にも数字が並んでいるのかな……とるりなみが気を失いそうになった頃、ゆめづきが、かずよみに追いついて、数の体をつかんだ。
夜の街には、灯りが浮かんで見えた。
それらは光る数字だった。
一方で、世界の多くの数字たちは、夜の闇の中で、暗い色になって溶けていくように見えた。
街は、光と影の世界になって、ずいぶんと落ち着いた。
それでもまだ、そこは数の国だった。
「ゆめづき……君はよく、お父さんを見つけられたね」
るりなみがなんとかそう言うと、ゆめづきは、ふふ、と笑った。
「最初は私も、気が滅入りそうだったのですが……この世界に並んでいるのは、数字であっても、そこにあるのは父様や兄様に変わりないはずだ、と思えたら、時計も街並みも、この世界の見え方になじんできて……」
「ええっ、なじめたの?」
「ここに、父様は数として並んで見えるけれど……それは普段、私が見ている父様を、別の方法であらわしているだけなのですから、怖くはないな、って」
「ははぁ!」
かずよみが、ゆめづきの言葉に感心するように声をあげ、つかまれていた腕をあげて、ゆめづきと肩を組むようにして、灯りの揺れる街をようようと歩き出した。
あの時計であった光の渦の、鎖の先を指に引っかけて、かずよみはぶんぶんと振り回しはじめた。
それをゆめづきがぱっとつかみ、取り戻した。
かずよみは、遊び疲れた子どもが、もうそのおもちゃに夢中になることを忘れてしまったように、時計を取り返そうとはしなかった。
「君たちにも見えるのだね……けっこう、けっこう。私の体も、ゆめづきも、るりなみも……みんな数字が構成しているとわかって、面白いだろう」
かずよみに肩を組まれたゆめづき、そのゆめづきに手を取られたるりなみ……三人はひょこひょことした奇妙な足どりで、夜の街を歩いていった。
かずよみは陽気に説明を続けた。
「その数の構成はな、その人をあらわす、変わらないものだ、と私は思うのだ。いや、いや。体の端っこなんか、いつも数が入れ替わっているし、服を変えれば、見た目の数は変わるがね。だがそれでも、数の並びの方式やリズムは、いつもその人をあらわしている、と思うのだよ」
るりなみが首をかしげる横で、ゆめづきが相槌をうった。
「そうですね……だって、ここにかずよみ父様がいる、ってわかるものね」
かずよみは、肩を組んでいたゆめづきを放し、くるりと振り返って、うしろ向きに歩きながらまくしたてた。
「そう! たとえ肉体が死に、焼かれて灰になったとしてもな……その人がいる場所には……つまり、死んだ者が葬式の様子を見にきたり、親しい人に会いにきたりしたときには、そこに、その数字の構成が見える、と私は思うのだよ!」
るりなみは、数字の霊がお葬式をのぞいている光景を想像しようとしたが……そのお葬式もすべて数が並んで見えているのだったら、と思わず首を横に振った。
ずっと、世界がこのままだったら、どうしよう。
そう思ってから、るりなみははっとした。
かずよみは……祖父は、いつでもずっと、こんな世界を見ているのだろうか。
何度、寝て起きても、晴れの日も雨の日も、どこに行っても、世界には数ばかりが並んでいるのだろうか。
昔から、国王だった頃から、そうだったわけではあるまい。
もとの世界に、戻れなくなってしまったのだろうか。
困っていないのだろうか。
るりなみが心配になった先で、当のかずよみは、うしろ歩きのまま、陽気に声をはりあげた。
「数を通して、宇宙の普遍が……永遠に変わらざるものがわかるとは、すごいだろう!」
かずよみは両手を広げ、銀河で踊るかのように、くるくるとその場で体を回した。
それから立ち止まり、ぴたり、とゆめづきの胸もとを指さした。
「たとえば、ゆめづきを読みあげてみよう」
かずよみは、歌うように数を口ずさみはじめた。
「3173……20998……702532……これらはな、とてつもなく大きな、あるいは割り切れずに続くような、ある数を示しているわけではないのだ。なにかの意味をあらわす数列でもない。ただ、そこにある揺らぎのとおりに、数が並んでいる……ゆめづきという迷宮に揺れている、ゆめづきの揺らぎをあらわす数たちなのだよ……ほら、ここに同じ揺らぎの波がある、702532……」
かずよみはそのあとも、ゆめづきの、そしてるりなみの、数の揺らぎを読みあげていった。
その数の歌は、夜の街を成すまわりの数に響き合って、溶けていった。
空がぼんやりと紺色に暮れて、そのはるかな空にも数字が並んでいるのかな……とるりなみが気を失いそうになった頃、ゆめづきが、かずよみに追いついて、数の体をつかんだ。
夜の街には、灯りが浮かんで見えた。
それらは光る数字だった。
一方で、世界の多くの数字たちは、夜の闇の中で、暗い色になって溶けていくように見えた。
街は、光と影の世界になって、ずいぶんと落ち着いた。
それでもまだ、そこは数の国だった。
「ゆめづき……君はよく、お父さんを見つけられたね」
るりなみがなんとかそう言うと、ゆめづきは、ふふ、と笑った。
「最初は私も、気が滅入りそうだったのですが……この世界に並んでいるのは、数字であっても、そこにあるのは父様や兄様に変わりないはずだ、と思えたら、時計も街並みも、この世界の見え方になじんできて……」
「ええっ、なじめたの?」
「ここに、父様は数として並んで見えるけれど……それは普段、私が見ている父様を、別の方法であらわしているだけなのですから、怖くはないな、って」
「ははぁ!」
かずよみが、ゆめづきの言葉に感心するように声をあげ、つかまれていた腕をあげて、ゆめづきと肩を組むようにして、灯りの揺れる街をようようと歩き出した。
あの時計であった光の渦の、鎖の先を指に引っかけて、かずよみはぶんぶんと振り回しはじめた。
それをゆめづきがぱっとつかみ、取り戻した。
かずよみは、遊び疲れた子どもが、もうそのおもちゃに夢中になることを忘れてしまったように、時計を取り返そうとはしなかった。
「君たちにも見えるのだね……けっこう、けっこう。私の体も、ゆめづきも、るりなみも……みんな数字が構成しているとわかって、面白いだろう」
かずよみに肩を組まれたゆめづき、そのゆめづきに手を取られたるりなみ……三人はひょこひょことした奇妙な足どりで、夜の街を歩いていった。
かずよみは陽気に説明を続けた。
「その数の構成はな、その人をあらわす、変わらないものだ、と私は思うのだ。いや、いや。体の端っこなんか、いつも数が入れ替わっているし、服を変えれば、見た目の数は変わるがね。だがそれでも、数の並びの方式やリズムは、いつもその人をあらわしている、と思うのだよ」
るりなみが首をかしげる横で、ゆめづきが相槌をうった。
「そうですね……だって、ここにかずよみ父様がいる、ってわかるものね」
かずよみは、肩を組んでいたゆめづきを放し、くるりと振り返って、うしろ向きに歩きながらまくしたてた。
「そう! たとえ肉体が死に、焼かれて灰になったとしてもな……その人がいる場所には……つまり、死んだ者が葬式の様子を見にきたり、親しい人に会いにきたりしたときには、そこに、その数字の構成が見える、と私は思うのだよ!」
るりなみは、数字の霊がお葬式をのぞいている光景を想像しようとしたが……そのお葬式もすべて数が並んで見えているのだったら、と思わず首を横に振った。
ずっと、世界がこのままだったら、どうしよう。
そう思ってから、るりなみははっとした。
かずよみは……祖父は、いつでもずっと、こんな世界を見ているのだろうか。
何度、寝て起きても、晴れの日も雨の日も、どこに行っても、世界には数ばかりが並んでいるのだろうか。
昔から、国王だった頃から、そうだったわけではあるまい。
もとの世界に、戻れなくなってしまったのだろうか。
困っていないのだろうか。
るりなみが心配になった先で、当のかずよみは、うしろ歩きのまま、陽気に声をはりあげた。
「数を通して、宇宙の普遍が……永遠に変わらざるものがわかるとは、すごいだろう!」
かずよみは両手を広げ、銀河で踊るかのように、くるくるとその場で体を回した。
それから立ち止まり、ぴたり、とゆめづきの胸もとを指さした。
「たとえば、ゆめづきを読みあげてみよう」
かずよみは、歌うように数を口ずさみはじめた。
「3173……20998……702532……これらはな、とてつもなく大きな、あるいは割り切れずに続くような、ある数を示しているわけではないのだ。なにかの意味をあらわす数列でもない。ただ、そこにある揺らぎのとおりに、数が並んでいる……ゆめづきという迷宮に揺れている、ゆめづきの揺らぎをあらわす数たちなのだよ……ほら、ここに同じ揺らぎの波がある、702532……」
かずよみはそのあとも、ゆめづきの、そしてるりなみの、数の揺らぎを読みあげていった。
その数の歌は、夜の街を成すまわりの数に響き合って、溶けていった。
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