そして、海へ

降羽 優

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「昨日は、台風通過のため午後から学校はお休みになったんですね」
「はい、全員が部活も無く帰りました」
 六原と言う、優しげな刑事の口調にわたしも徐々に緊張せずに話せるようになってくる。
「先生方もですか?」
「ええ、全校生徒の帰宅を確認してから、我々も学校を閉めて帰りましたね」
 三塚先生も時々話に加わって和やかな雰囲気だ。
「なんせ、台風の直撃ですからね。皆さん、ご自宅に?」
「そうなりますね……」
 代表して、三塚先生が答えてくれた。

「ひょっとして、今のアリバイの確認ってヤツですか?」
 食いつくように、幸二が目を輝かせて六原に聞く。
「幸二くんだっけ、鋭いね。でもほとんどの人が自宅に籠ってしまっては、アリバイも目撃者も期待薄だね……」
 さも、困ったように六原は腕を組んで唸るような仕草をした。

「でも、一美は自殺なんですよね……」
 わたしは不安げに六原を見ると、その目を六原は一瞬冷ややかに見返してからおどけた様に言った。
「検死結果がじきに出ますので、それまではあくまで可能性の一つとして検討するのが、我々刑事の仕事なんですよね」
 ごめんなさいねと言うように六原は微笑んだ。

 そして、次は二葉と太一の話を聞くと言うので、わたしたちは席を立つ。
「あ、そうだ。礼香さん、女子は皆さん赤いスカーフなんですか?」
 入口の手前で急に後ろから声をかけられ、わたしは驚いて振り向いた。
「スカーフですか? 高校生は全員『赤』です。中学生は『緑』で区別されています」
「皆さん、予備のスカーフは持っているんですかね?」
「スカーフの予備ですか……。さあ、普通は無いんじゃないでしょうか?」
 わたしはそう答えて部屋を出ていった。

 しばらく考え込んでいた六原は三塚に尋ねる。
「ここの高校の制服は変わりましたか?」
「いいえ、ここ十年は変わっていませんが」

 三塚は質問の意味が分からなかったが、六原は満足げにうなずいていた。
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