そして、海へ

降羽 優

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「失礼します」
 ノックと共に、わたしは幸二と二人で職員室へ入っていった。
「どうした。礼香、気分でも悪くなったか?」
 担任の三塚は心配げに聞く。
「そうじゃ、ありません。三塚先生、ちょっとお話が……」
「分かった。隣の部屋に行こうか」
 今のわたしには、先生と幸二の心遣いがありがたかった。

 三塚先生にわたしは自分のスマホを見せ説明する。
「これ、昨夜届いたんです……」
 文面を確認して、三塚先生は驚いた顔で、わたしを見返す。
「お、お前。これ一美からだよな……。しかもこれは……」

「はい、遺書だと思います……」
 わたしもやっとのことでその言葉を口にした。

「……一美、バカ野郎……」
 幸二も隣で唇をかみしめていた。

「幸二、お願いがあるの……」
 三塚がメールの件で慌ただしく出ていったあと、わたしは思い切って幸二に思っていた事を切り出す。
「わたし、一美の死の原因を知りたいの……。何が原因か突き止めたい。協力して!」
 わたしの思いつめたような言葉に、少し悩みながらも、幸二はうなずく。
「仕方ないな。お前が暴走しないように付いていてやるよ」
 そう、ぎこちなく幸二は言った。

 ☆ ☆ ☆

 六原は役場の職員に案内され、島、唯一の高校にたどり着く。それは高台にある緑に囲まれた建物だった。
 さっそく職員室の隣の応接室に陣取り、関係者から話を聞くこととなる。
「刑事さん、まず、こいつに送られてきたメールを見てください」
 担任の三塚は、メールの文面を六原に見せ説明をする。
「昨夜、親友の礼香に送られてきたメールです」
「なるほど、これが一美さんの遺書と言うことですか……」
 そう言いながら、六原は鋭い目でメールの文面と礼香を交互に睨んだが、すぐに優しい表情に戻り二人に席をすすめる。
「丁度いいですから、あなたたちからお話を伺いましょうか」
 その言葉にうながされ、礼香と幸二は恐る恐る席に着いた。

 ☆ ☆ ☆

 台風一過の海岸に四谷と五条の姿があった。
「暑っちぃ。なんでこんなに暑いんだ!」
 五条は恨めしそうに雲一つない空を仰いだ。
「仕方ないですよ。台風一過ですからね。雲もみんな台風が持って行ってしまうんです」
 日焼けした笑顔で四谷が説明する。

「六原さん、絶対分かっていてこっちの仕事俺に振ったよな……」
 愚痴りながら五条は四谷と現場に立った。

「ここです。ここで遺体が発見されました」
「まあ、最初は遺体だか何だか分からなかっただろうな」
「ええ、近づいて初めて分かったそうです」
「しっかし、可愛そうにな。見つけた方も、良く知ってる友達なんだろう?」
「はい、親しい友人だそうです」
「ふぅん。まったくね」
 やるせないと言う表情で、五条は汗をぬぐいながら辺りを見回した。

「ここに流れ着くとなると、どこが現場なんだ? 潮の流れとかはどうなんだ?」
「はい、地元漁師に聞きますと。その先の灯台がある防波堤辺りではないかと言っております」
 あらかじめ漁師たちに四谷は聞き込んでいたので、五条の疑問にすぐに答えられた。

「嵐の中の防波堤か……。これは自殺で一件落着かな? でも、六さんしつこいからな、確か、スカーフが何だとか言ってたよな……」
 
 雲一つない晴天の元、一人、五条は空を見上げつぶやいたのだった。
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