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4.新しい家が見つかるまで?

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 私が目をかっ開いて固まっていると、エリオットは取り繕うように慌てて笑みを浮かべた。

「レ、レナとは別れた。それは本当だよ」
「じゃあ、何で!?」
「……実はレナには身寄りがない。両親は幼い頃に失踪していて、彼らが残した借金を返済するために日々働いていたんだ。築五十年以上の小さな貸家で一人暮らしながら」
「は、はぁ……」

 私よりも若い身で、随分と過酷な人生を送っているようで。親が子を見捨てて借金地獄から逃げ出すことは、平民の間ではよくある話だ。これは素直に同情する。

「ところが、その家も老朽化で取り壊されることが決まって、半ば無理矢理追い出された。新しい家を提供することなく。酷い話だと思わないかい?」
「えっ、じゃあまさかそんな理由で、屋敷に住まわせるつもりなの!?」

 私が仰天すると、エリオットはむっと顔を顰めた。

「そういう言い方はないんじゃないかな。レナにとっては大変なことなのに」
「だけどあなた、レナとの関係はもう終わらせるって言ったじゃない!」
「終わらせたとも。だがかつて愛した人の一大事を、放ってはおけないよ。君はこんなに可憐で健気なレナが、路頭に迷ってもいいのかい?」
「…………」

「こいつ一発ぶん殴っとけ」と、天使の私が囁く。
「部屋に飾ってある壺で、こいつの頭かち割れ」と、悪魔の私が囁く。
 分かり合えない相手は、やっぱり暴力で屈服させるしかないの……?

「うぅぅ~~、やっぱり奥さん怖いです。レナのことまだ怒ってるみたいですよぉ」

 私の殺気を察知したレナが、エリオットの背後に避難する。
 そして一瞬だけ、意地の悪い笑みを見せた。
 そうとも知らず、エリオットはレナを守るように両腕を広げながら言う。

「それに、ずっと屋敷で暮らすわけではない。新しく住む家を見つけるまでの話だ。家探しは僕も協力するから」
「…………百歩譲って、それでいいとしましょう。で、ドレスをたくさん買った理由は?」
「レナは短い間だけど、この屋敷の住人になるんだ。それ相応の格好をさせないといけないよ。ただ平民お断りの店が多くてね。君の名を騙るようにと、僕がレナに言ったんだ」
「い……いい加減にしなさい! さっきからその女の心配ばっかりで、私の気持ちガン無視なのはどういうこと!?」

 私はついにキレた。暴力の行使はギリギリで堪えたけど、めちゃめちゃキレた。

「リリティーヌ、これは君にとってもいい話だと思うんだ」
「ど、どこが……?」
「君とレナには『僕が好き』って共通点があるんだ。だったら、仲の友人同士になれると僕は信じてるよ!」

 エリオットは、胸を拳でドンと叩いて声高らかに言った。
 なんて澄んだ目をしてやがる……

「レナはリリティーヌと仲良く出来るよね?」
「はいっ、レナは奥さんとお友達になりたいです! でも奥さんは、レナのこと……」
「そんなことないよ。そうだよね、リリティーヌ?」

 そして勝手に話が進められていく。
 エリオットの言う『素敵な話』とは、このことだったのか。
 そう気づいた私は天井を仰ぎながら溜め息をついた。

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