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5.味方がいない

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 こんな馬鹿旦那に絆された自分に心底腹が立つ。
 私はこっそり屋敷を出た。向かった先は実家。
 エリオットに浮気されたことと、今回のことを伝えるだけじゃない。
 そしてとっととの赤の他人になりたいと自分の意思を告げるためだった。

 きっと両親も「二度とあの屋敷に戻るな」と言ってくれるだろう。
 そう信じて。


 実家に行くと、母は不在だった。茶会に行っているそうだ。
 なので、まずは父親に話すことにした。

「別にいいんじゃないか?」

 私の話を聞き終えると、父はうんうんと頷きながらそう言った。

「ではお父様。早速弁護士を依頼して……」
「ん? 何を言っているんだ、リリティーヌ」

 父は不思議そうな顔をして、私の言葉を遮った。
 何だろう。とてつもなく嫌な予感がする。

「私がいいじゃないかと言ったのは、その浮気相手と友人になることについてだ」
「な、何を仰っているのですか?」

 仰天のあまり、私の声は上擦っていた。

「トゥール侯爵と彼女との関係は既に終わっているんだろう? だったら、屋敷に居候させても何の問題はないはずだ」
「大ありです!」

 私は声を張り上げた。
 エリオットは新しい家が見付かるまでと言っていたが、絶対に長期的なものになる。レナが私にだけ見せた笑みが、そう物語っていた。

「私の気持ちはどうなるのですか……」

 消え入りそうな声で、ぽつりと零す。
 レナの姿を見た時、私はあの光景・・・・をフラッシュバックさせた。
 仲睦まじく宿屋に入ろうとしたエリオットとレナ。
 胸の奥がざわつき、怒りや悲しみが溢れ出すのを止められない。
 私が急いでトゥール邸を飛び出して来たのは、どろどろに澱んだ衝動に駆られて、凶行に及ぶのを防ぐためでもあった。
 例えば壺を手に取って、あの二人に襲いかかったりとか。

「リリティーヌ……お前少し過剰になりすぎている」

 父は椅子に深く座り直すと、呆れたような口調で私に問いかけた。

「トゥール侯爵が元浮気相手とよりを戻さないかと心配しているだろう。自分の夫を信用していないのか?」
「そんなことは……」
「侯爵はただ人助けをしようとしているだけだ」

 私を見る父の目は、とても冷ややかなものだった。
 きっと聞き分けの悪い娘だとしか思っていないのだろう。
 悔しさと無力感で、唇を強く噛み締める。

「こんなことで離婚なんて、私は絶対に認めんぞ。その娘も素直に迎え入れろ」
「はぁぁぁ……」
「それにトゥール侯爵の言う通り、案外いい友人同士になれるかもしれん」

 どこか楽しそうな口調で言う父。
 このふざけた空想を思い描く頭をぶん殴って矯正したい。


 結局母の帰りを待たずに、私は実家を後にした。
 父に「あいつもきっと私と同じ考えだ」と言われたから。

「はぁ~~~」

 そして帰って来ました、トゥール邸。
 住み慣れた屋敷なのだが、今の私にとっては悪魔の館だ。
 重い足取りで中に入ると、出迎えたメイドが「少々お待ちください」と言って、パタパタとどこかへ走って行った。
 そして数分後、困ったような顔のエリオットを連れて戻って来る。

「そんなに怒らないでくれ、リリティーヌ。レナが君が怖いと言って、泣いていたよ」

 こ、この浮かれポンチのスットコドッコイが……!!
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