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3.私の偽者……!?
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鼻歌をふんふんと歌いながら紅茶を飲んでいると、傍にいたメイドに声をかけられた。
「奥様、今日はご機嫌ですね」
「さっきエリオット様に『あとで素敵な話があるんだ』って言われたの。だからワクワクしちゃって……」
「そういうことでしたか。……奥様はここ最近、ずっと暗い表情ばかりされていたので安心しました」
メイドが優しく微笑みながら、紅茶のお代わりを淹れてくれる。
彼女はエリオットが私以外の女と関係を持っていたことを知っている。いやこの屋敷の人間の大半が、例の件を把握済み。
ちなみに私が教えたわけじゃない。
原因はレナだった。
エリオットに別れを告げられて、突如泣き出したのだ。
「いやぁぁぁぁっ! 何で、何で……!? レナのこと大好きだって、愛してるって言ってくれたのに!」
「レナ……君の気持ちは嬉しいよ。だけど、僕たちは元々愛し合ってはいけない関係だったんだ。そのことをやっと気づくことができた」
「愛しちゃいけないなんて誰が決めたの!? 神様!? それとも奥さん!?」
法律だ、馬鹿。勉強してこい。
私は罵倒したい気持ちを必死に堪えた。
ここで暗黒面を披露して、エリオットに悪い印象を与えたくなかったし。
「さあ、レナ。目を覚ますんだ。楽しい夢はもう終わりの時間だよ」
「うっ、うぅぅっ、うあぁぁあぁん……っ!!」
大 号 泣。
レナの泣き声が耳にキンキン響く。
これが最後だからと、あの女を抱き締めるエリオットにも苛立ちを覚える。
浮気相手に慈悲を与えてやる必要なんてないのに。
その後落ち着きを取り戻したレナは、大人しく帰って行ったものの、泣き声を聞いた使用人たちが屋敷中に噂を拡散させたというわけだ。
エリオットに対する皆の態度が微妙に冷たくなり、私には優しくなったのが何よりの証拠。
一度でも夫が不貞を働いたショックはまだ癒えないけれど、それでも彼が私を選んでくれたこと。そして使用人のみんなが、私の味方でいてくれることが嬉しかった。
いつか完全に立ち直れるといいな。
明るい未来を夢見て口元を緩めた、まさにその時だった。
「リリティーヌ様、早急にお聞きしたいことがございます」
別のメイドが慌ただしく私の部屋に入ってきた。
「その……最近ドレスを大量に購入なさいましたか?」
「ううん。ここ半年くらい買ってないわよ」
「ですよね。いえ、失礼しました。リリティーヌ様は無暗に散財するような方ではないと、分かっていたのですが……」
「何かあったの?」
私が尋ねると、メイドは困惑の表情で答えた。
「実は先程から服飾店から次々とドレスが届いているのです。もう六軒目ですよ……」
「六軒!? 何かの間違いじゃないの?」
「それが……ドレスの注文書に、リリティーヌ様のサインが書かれていまして」
「えっ!?」
「こちらがその注文書です」
メイドから渡された六枚の紙に目を通していく。
確かに『トゥール侯爵夫人リリティーヌ』の名前がある。けれど。
「ち、違う。これ、私が書いたものじゃないわよ!?」
というか私の字、こんなに下手じゃないんだけど。
誰かが私に成りすました? だとしたら、その目的は?
「リリティーヌ、さっき言っていたことなんだが……ん? どうしたんだい?」
思考を巡らせていると、このタイミングでエリオットが部屋にやって来た。
だけど今は、素敵な話どころじゃない。
「エリオット、大変よ! 私の偽者がドレスの爆買いを……!」
「ああ、それについても今から話をするよ」
「はい?」
「さあ、君も入っておいで」
目を丸くする私をよそに、エリオットが誰かに呼びかける。
すると見覚えのある人物が、ドアから顔を覗かせた。
「えぇ~? でも、エリオットの奥さんとっても怖いしぃ……」
レナ!! 何故に!?
「大丈夫だよ、レナ。リリティーヌはとても聡明で優しい女性だから」
「エ、エリオット……? どうしてレナさんがうちにいるのかしら……」
寒くもないのに声を震わせながら尋ねると、エリオットは私の両手を握り、甘えるように首を傾げながらとんでもないことを言い出した。
「レナをこの屋敷に住まわせたいと思うんだ。いいよね……?」
「は?」
この男、一体何を言って……
「奥様、今日はご機嫌ですね」
「さっきエリオット様に『あとで素敵な話があるんだ』って言われたの。だからワクワクしちゃって……」
「そういうことでしたか。……奥様はここ最近、ずっと暗い表情ばかりされていたので安心しました」
メイドが優しく微笑みながら、紅茶のお代わりを淹れてくれる。
彼女はエリオットが私以外の女と関係を持っていたことを知っている。いやこの屋敷の人間の大半が、例の件を把握済み。
ちなみに私が教えたわけじゃない。
原因はレナだった。
エリオットに別れを告げられて、突如泣き出したのだ。
「いやぁぁぁぁっ! 何で、何で……!? レナのこと大好きだって、愛してるって言ってくれたのに!」
「レナ……君の気持ちは嬉しいよ。だけど、僕たちは元々愛し合ってはいけない関係だったんだ。そのことをやっと気づくことができた」
「愛しちゃいけないなんて誰が決めたの!? 神様!? それとも奥さん!?」
法律だ、馬鹿。勉強してこい。
私は罵倒したい気持ちを必死に堪えた。
ここで暗黒面を披露して、エリオットに悪い印象を与えたくなかったし。
「さあ、レナ。目を覚ますんだ。楽しい夢はもう終わりの時間だよ」
「うっ、うぅぅっ、うあぁぁあぁん……っ!!」
大 号 泣。
レナの泣き声が耳にキンキン響く。
これが最後だからと、あの女を抱き締めるエリオットにも苛立ちを覚える。
浮気相手に慈悲を与えてやる必要なんてないのに。
その後落ち着きを取り戻したレナは、大人しく帰って行ったものの、泣き声を聞いた使用人たちが屋敷中に噂を拡散させたというわけだ。
エリオットに対する皆の態度が微妙に冷たくなり、私には優しくなったのが何よりの証拠。
一度でも夫が不貞を働いたショックはまだ癒えないけれど、それでも彼が私を選んでくれたこと。そして使用人のみんなが、私の味方でいてくれることが嬉しかった。
いつか完全に立ち直れるといいな。
明るい未来を夢見て口元を緩めた、まさにその時だった。
「リリティーヌ様、早急にお聞きしたいことがございます」
別のメイドが慌ただしく私の部屋に入ってきた。
「その……最近ドレスを大量に購入なさいましたか?」
「ううん。ここ半年くらい買ってないわよ」
「ですよね。いえ、失礼しました。リリティーヌ様は無暗に散財するような方ではないと、分かっていたのですが……」
「何かあったの?」
私が尋ねると、メイドは困惑の表情で答えた。
「実は先程から服飾店から次々とドレスが届いているのです。もう六軒目ですよ……」
「六軒!? 何かの間違いじゃないの?」
「それが……ドレスの注文書に、リリティーヌ様のサインが書かれていまして」
「えっ!?」
「こちらがその注文書です」
メイドから渡された六枚の紙に目を通していく。
確かに『トゥール侯爵夫人リリティーヌ』の名前がある。けれど。
「ち、違う。これ、私が書いたものじゃないわよ!?」
というか私の字、こんなに下手じゃないんだけど。
誰かが私に成りすました? だとしたら、その目的は?
「リリティーヌ、さっき言っていたことなんだが……ん? どうしたんだい?」
思考を巡らせていると、このタイミングでエリオットが部屋にやって来た。
だけど今は、素敵な話どころじゃない。
「エリオット、大変よ! 私の偽者がドレスの爆買いを……!」
「ああ、それについても今から話をするよ」
「はい?」
「さあ、君も入っておいで」
目を丸くする私をよそに、エリオットが誰かに呼びかける。
すると見覚えのある人物が、ドアから顔を覗かせた。
「えぇ~? でも、エリオットの奥さんとっても怖いしぃ……」
レナ!! 何故に!?
「大丈夫だよ、レナ。リリティーヌはとても聡明で優しい女性だから」
「エ、エリオット……? どうしてレナさんがうちにいるのかしら……」
寒くもないのに声を震わせながら尋ねると、エリオットは私の両手を握り、甘えるように首を傾げながらとんでもないことを言い出した。
「レナをこの屋敷に住まわせたいと思うんだ。いいよね……?」
「は?」
この男、一体何を言って……
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