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68話
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部屋の外から侍女の悲鳴が聞こえてきたのは、フィオナがベッドに入って一時間ほど経った頃だった。
慌てて飛び起きようとすると、部屋のドアが開いて誰かが入ってくる。
窓から差し込む月の光が、侵入者の姿を照らす。
体格からして男のようだが、茶色のフードで顔を隠している。
「ど、どなたですか……!?」
その問いに答えず、侵入者はベッドへ駆け寄ってフィオナに覆い被さった。
「キャアア……むぐっ」
手のひらで口を塞がれて、声が出せない。
それでも全身をじたばたさせていると、上から声が降ってきた。
「大人しくしなよ、ライラ。僕だってば」
「……っ!」
フィオナが抵抗を弱めると、手のひらがゆっくりと離れていった。
「あ、あなたはもしかして……」
「ああ、会いたかったよ! 驚いている君もとっても綺麗だね」
フードを外したトーマスは、とろけるような笑みを浮かべていた。
「何故、あなたがここにいるのですか!?」
「しーっ、静かに。実は大変なんだよ。野盗たちがこの屋敷を襲いに来たみたいなんだ」
「野盗が……?」
「見張りの兵もみんな殺されちゃったらしくて、生き残りが僕に助けを求めてきたんだ。だから、兵士のみんなと慌てて駆けつけてきたってわけさっ」
自慢げに語るトーマスだったが、フィオナの顔は険しさを増していく。
「……あなたは私たちを助けに来たのですよね? でしたら、何故あなたは、私を組み敷いているのですか?」
「タダで助けるってわけにもいかないよねぇ? お金はいらないから、君の体を味見させてよ」
目を爛々に輝かせるトーマスに、フィオナは開いた口が塞がらない。
「やめてください! 私はもうあなたとは何の関係もありません!」
「そんなことないよ、君は僕のところに戻ってくるんだよ」
「今の私は、メルヴィン殿下の婚約者です!」
「その殿下が死んだら、ライラはまた独り身になるよね?」
トーマスの問いかけに、フィオナは目を見張る。
「どういう意味ですか?」
「それがさぁ、さっきメルヴィン殿下の死体を見つけちゃったんだよ。ごめんね、間に合わなかったんだ」
わざとらしく申し訳なさそうな声で謝るトーマス。
フィオナはひゅっと喉から息を漏らしたあと、すぐに目の前の男を睨んだ。
「……嘘を仰らないでください」
「嘘じゃないよ! 首の辺りをスパって切られちゃってさ。あんな足だから逃げられなかったんだね」
「あんな足? あなたのせいではありませんか!」
フィオナが声を荒らげると、トーマスはむっと顔を歪めた。
「な、何だよ、君も僕を責めるの? 確かに怪我をさせたことは謝るけどさ……殿下も根性が足りなかったんじゃない?」
「根性……?」
「ああいうのって、リハビリさえ頑張れば何とかなるもんでしょ? でも、あの王太子はそれを怠ったからまともに歩けなくなったんだよ。それを僕のせいにされたら、たまんないよ!」
「……私が愚かでした」
「え? 何か言った?」
「一度でもあなたを愛した、私が愚かでした」
フィオナは怒りと呆れを込めて告げると、クローゼットへ視線を飛ばして叫んだ。
「お願いします!」
途端、クローゼットが内側から開かれて、何かが飛び出してきた。
そして両手に握り締めていたフライパンで、トーマスの頭部を思い切り殴りつける。
「フィオナ様に何てことをするのよ、このゴミ野郎!!」
ベッドから転がり落ちたトーマスを見下ろし、憤怒の表情でそう罵ったのはジェイミーだった。
慌てて飛び起きようとすると、部屋のドアが開いて誰かが入ってくる。
窓から差し込む月の光が、侵入者の姿を照らす。
体格からして男のようだが、茶色のフードで顔を隠している。
「ど、どなたですか……!?」
その問いに答えず、侵入者はベッドへ駆け寄ってフィオナに覆い被さった。
「キャアア……むぐっ」
手のひらで口を塞がれて、声が出せない。
それでも全身をじたばたさせていると、上から声が降ってきた。
「大人しくしなよ、ライラ。僕だってば」
「……っ!」
フィオナが抵抗を弱めると、手のひらがゆっくりと離れていった。
「あ、あなたはもしかして……」
「ああ、会いたかったよ! 驚いている君もとっても綺麗だね」
フードを外したトーマスは、とろけるような笑みを浮かべていた。
「何故、あなたがここにいるのですか!?」
「しーっ、静かに。実は大変なんだよ。野盗たちがこの屋敷を襲いに来たみたいなんだ」
「野盗が……?」
「見張りの兵もみんな殺されちゃったらしくて、生き残りが僕に助けを求めてきたんだ。だから、兵士のみんなと慌てて駆けつけてきたってわけさっ」
自慢げに語るトーマスだったが、フィオナの顔は険しさを増していく。
「……あなたは私たちを助けに来たのですよね? でしたら、何故あなたは、私を組み敷いているのですか?」
「タダで助けるってわけにもいかないよねぇ? お金はいらないから、君の体を味見させてよ」
目を爛々に輝かせるトーマスに、フィオナは開いた口が塞がらない。
「やめてください! 私はもうあなたとは何の関係もありません!」
「そんなことないよ、君は僕のところに戻ってくるんだよ」
「今の私は、メルヴィン殿下の婚約者です!」
「その殿下が死んだら、ライラはまた独り身になるよね?」
トーマスの問いかけに、フィオナは目を見張る。
「どういう意味ですか?」
「それがさぁ、さっきメルヴィン殿下の死体を見つけちゃったんだよ。ごめんね、間に合わなかったんだ」
わざとらしく申し訳なさそうな声で謝るトーマス。
フィオナはひゅっと喉から息を漏らしたあと、すぐに目の前の男を睨んだ。
「……嘘を仰らないでください」
「嘘じゃないよ! 首の辺りをスパって切られちゃってさ。あんな足だから逃げられなかったんだね」
「あんな足? あなたのせいではありませんか!」
フィオナが声を荒らげると、トーマスはむっと顔を歪めた。
「な、何だよ、君も僕を責めるの? 確かに怪我をさせたことは謝るけどさ……殿下も根性が足りなかったんじゃない?」
「根性……?」
「ああいうのって、リハビリさえ頑張れば何とかなるもんでしょ? でも、あの王太子はそれを怠ったからまともに歩けなくなったんだよ。それを僕のせいにされたら、たまんないよ!」
「……私が愚かでした」
「え? 何か言った?」
「一度でもあなたを愛した、私が愚かでした」
フィオナは怒りと呆れを込めて告げると、クローゼットへ視線を飛ばして叫んだ。
「お願いします!」
途端、クローゼットが内側から開かれて、何かが飛び出してきた。
そして両手に握り締めていたフライパンで、トーマスの頭部を思い切り殴りつける。
「フィオナ様に何てことをするのよ、このゴミ野郎!!」
ベッドから転がり落ちたトーマスを見下ろし、憤怒の表情でそう罵ったのはジェイミーだった。
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