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17話

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 花嫁は、川の下流付近で発見された。
 目立った外傷はないものの、顔は青ざめていて呼吸が止まっている。心臓も動いていない状態だった。

「これはもう……」
「殿下っ! そちらのお嬢様は!?」

 近衛兵たちが諦めの表情を浮かべていると、メイドの一人が駆けつけてきた。
 ここからは畔は近い。騒ぎを聞いて、様子を見に来たらしい。

「自ら川へ飛び込んだんだ。呼吸も心臓も止まっている」
「でしたら、心肺蘇生法を試しましょう。時間との勝負です」

 メルヴィンの説明を聞くと、メイドは一切の躊躇いもなく花嫁の胸元をずらした。下着も素早く外すと、胸部を両手でぐっぐっと強く押し始める。

「それから、人工呼吸ですっ。どなたか、お願い、しますっ!」

 マッサージを続けながら、メイドが近衛兵たちへ視線を向けるが、誰も挙手しようとしない。

「ちょっと! 何をボーッと突っ立っているのです!」
「ですが、ロシャーニアこのくにでは、既婚者への性的接触が禁じられております。もしこの少女が既に婚姻しているとしたら……」

 兵の一人が気まずそうに口を開く。
 救助のためとはいえ、自分以外の男が妻と口づけをしたと憤る、融通の利かない男もいる。これが貴族となれば、さらに厄介だ。救助した者を提訴する事例も少なくない。
 屈強な男どもが尻込みする光景に、メイドはむっと顔を顰める。

「人の命がかかっているのに、そんなことを言っている場合ではないでしょう! もういいです、こちらも私が……」
「いや、俺がする」

 そう言いながら、メルヴィンが花嫁の傍らに膝をついた。
 これには、近衛兵たちも慌てて止めに入る。

「い、いえ、私どもが行います! 殿下にご迷惑をおかけするわけにはいきません!」
「王族の人間相手なら、妙な難癖をつける者もいないだろう。……人工呼吸の手順を教えてくれ」

 メイドに教えを乞うと、「はい! それでは……」と早速説明を始める。
 それに耳を傾けつつ気道の確保をして、花嫁の鼻をつまむ。
 そして、氷のように冷たい唇に自分のものを重ねて、ゆっくりと息を吹き込んだ。

「ゲホッ……」

 心臓マッサージと人工呼吸を繰り返すこと数分。花嫁が咳き込みながら、水を吐き出した。

「殿下、首を横に向かせてあげてください」
「分かった」

 メイドの指示通りにしていると、花嫁の瞼が震えていることに気づく。

「おい、しっかりしろ」

 頬を軽く叩きながら呼びかけてみると、固く閉ざされていた瞳がゆっくりと開いた。
 神秘的な光を宿した菫色の瞳が、目の前にいる男を映す。

(何だ?)

 血色の悪い唇が、微かに動いている。
 何を言おうとしているのかと、メルヴィンは花嫁の口元に耳を近づけた。

「────」

 掠れた声が、必死に紡いだ言葉。
 メルヴィンが眉間に皺を寄せながら顔を上げると、花嫁は再び瞼を閉ざしていた。
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