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醜聞
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アリシアは先代ラクール公爵の愛人だった。その肉体で公爵を惑わせ、後継者に自分を指名するように仕向けた。
アリシアはダミアンに隠れて、不特定多数の男と関係を持っている。男娼専門の娼館に足繁く通う時期もあった。
アリシアはラクール公爵家を乗っ取り、ダミアンとポーラを追い出した後に愛人の男を迎え入れようと画策している。
ニコラが作り出した醜聞は、瞬く間に国内中に流布された。金で雇われた工作員が各地で吹聴して回った成果である。
その効果は絶大だった。
「あの小娘……公爵と関係を持っていたのか」
「権力を手に入れるためなら、自分の体も武器にするということか。これだから女は」
「男娼にまで手を出していたとは……そんな女に継承権など与えていいはずがなかろう」
「例の法案は、何としてでも否決させるぞ」
領主たちはこぞってアリシアを非難した。それに伴い、「女を政治に関わらせるべきではない」という論調が散見されるようになる。元々、彼らはそのきっかけを探していたのだろう。
(これで今回の法案は通らないだろう。……だが)
ダミアンには一つ不満があった。
領主たちは噂に食い付いてきたものの、貴族女性からは一切リアクションがなかったことだ。
特に夫人会の情報網は侮れない。男たちですら把握していない、他国の情報を握っていることもある。
そんな彼女たちが、アリシアの噂を知らないはずがない。
大方、自分らにとって都合の悪い情報を遮断しているだけだろう。
今、女性の希望の星であるアリシアを失うわけにはいかないのだ。
(議会のほうは問題ないが、女どもは目障りだな。この辺りで、分からせなければならない)
アリシアを担ぎ上げたことは、大きな間違いだったということを。
近日、王都で夫人会が開かれる。それは飛び入り参加が可能で、尚且つ夫の同伴が認められている。
またとないチャンスだ。
「ポーラ、夫人会に出席するぞ」
「そんなものに出るより、また王太子殿下とお食事がしたいですわ。ねぇダミアン様。おねがぁい」
「うっ……ま、また今度にしよう」
王太子にお近付きになりたいのは、ダミアンも同じだ。今度はアリシア抜きでお会いしたいと手紙を送った。殿下の気に障らないよう、アリシアは仕事で忙しいことをアピールして。
ところが数日後、要約すると「自分も執務が忙しいので会えない」という返信の手紙が届いた。要するに、アリシアがいなければ、会うつもりはないということだ。
(アリシアに気があるのか? あんな愛嬌の欠片もない女を?)
王族とは、常人とは異なる感性を持っているのかもしれない。
廊下を歩いていると、アリシアとすれ違った。
「こんばんは、ダミアン様」
屋敷の中にいても、お互い顔を合わせることは殆どない。律儀に挨拶してくる側室に、ダミアンはふんっと鼻を鳴らす。
そして、ふとあることを思い出した。
「おい、アリシア。モルナ男爵領から僕宛に手紙が来たら、必ず知らせるんだぞ」
「はい?」
アリシアが足を止める。
「モルナ男爵領……からですか?」
「あそこで栽培されている作物は、味がよく栄養価も高いと言われている。うちの領で取り扱ってやると交渉している最中なんだ」
「……分かりました。もし何かのてち……いえ。モルナ男爵家からお手紙が届きましたら、すぐダミアン様にお知らせいたします」
謎の間があったのものの、アリシアは素直に頷いた。
アリシアはダミアンに隠れて、不特定多数の男と関係を持っている。男娼専門の娼館に足繁く通う時期もあった。
アリシアはラクール公爵家を乗っ取り、ダミアンとポーラを追い出した後に愛人の男を迎え入れようと画策している。
ニコラが作り出した醜聞は、瞬く間に国内中に流布された。金で雇われた工作員が各地で吹聴して回った成果である。
その効果は絶大だった。
「あの小娘……公爵と関係を持っていたのか」
「権力を手に入れるためなら、自分の体も武器にするということか。これだから女は」
「男娼にまで手を出していたとは……そんな女に継承権など与えていいはずがなかろう」
「例の法案は、何としてでも否決させるぞ」
領主たちはこぞってアリシアを非難した。それに伴い、「女を政治に関わらせるべきではない」という論調が散見されるようになる。元々、彼らはそのきっかけを探していたのだろう。
(これで今回の法案は通らないだろう。……だが)
ダミアンには一つ不満があった。
領主たちは噂に食い付いてきたものの、貴族女性からは一切リアクションがなかったことだ。
特に夫人会の情報網は侮れない。男たちですら把握していない、他国の情報を握っていることもある。
そんな彼女たちが、アリシアの噂を知らないはずがない。
大方、自分らにとって都合の悪い情報を遮断しているだけだろう。
今、女性の希望の星であるアリシアを失うわけにはいかないのだ。
(議会のほうは問題ないが、女どもは目障りだな。この辺りで、分からせなければならない)
アリシアを担ぎ上げたことは、大きな間違いだったということを。
近日、王都で夫人会が開かれる。それは飛び入り参加が可能で、尚且つ夫の同伴が認められている。
またとないチャンスだ。
「ポーラ、夫人会に出席するぞ」
「そんなものに出るより、また王太子殿下とお食事がしたいですわ。ねぇダミアン様。おねがぁい」
「うっ……ま、また今度にしよう」
王太子にお近付きになりたいのは、ダミアンも同じだ。今度はアリシア抜きでお会いしたいと手紙を送った。殿下の気に障らないよう、アリシアは仕事で忙しいことをアピールして。
ところが数日後、要約すると「自分も執務が忙しいので会えない」という返信の手紙が届いた。要するに、アリシアがいなければ、会うつもりはないということだ。
(アリシアに気があるのか? あんな愛嬌の欠片もない女を?)
王族とは、常人とは異なる感性を持っているのかもしれない。
廊下を歩いていると、アリシアとすれ違った。
「こんばんは、ダミアン様」
屋敷の中にいても、お互い顔を合わせることは殆どない。律儀に挨拶してくる側室に、ダミアンはふんっと鼻を鳴らす。
そして、ふとあることを思い出した。
「おい、アリシア。モルナ男爵領から僕宛に手紙が来たら、必ず知らせるんだぞ」
「はい?」
アリシアが足を止める。
「モルナ男爵領……からですか?」
「あそこで栽培されている作物は、味がよく栄養価も高いと言われている。うちの領で取り扱ってやると交渉している最中なんだ」
「……分かりました。もし何かのてち……いえ。モルナ男爵家からお手紙が届きましたら、すぐダミアン様にお知らせいたします」
謎の間があったのものの、アリシアは素直に頷いた。
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