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第十章
改築(二)
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主寝室となる部屋へ入ると、コンスタンツェはルシアナを振り返った。
「壁紙とかカーペットとか、素材も色も好きなものを言って! あっ、でも、家具とか装飾とかとの相性もあるか……家具はどうするの?」
「家具はすでに頼んでありますわ」
「家具が出来上がったら、設置のためにまた魔法術師協会に依頼するつもりだ」
レオンハルトの言葉に、コンスタンツェが小さく「うわ……」と漏らした。
「贅沢な使い方するわね、レオンハルト。魔法術師一人頼むより、普通に運んでくれる人を十数人頼んだほうが安いのに……。まぁ、大国となったシュネーヴェの公爵がそれぐらい払えないほうが問題か」
「……不毛の地であるはずのルドルティが何故あれほど豊かだったのか、国を離れすぎて忘れたようだな、コンスタンツェ」
「あら、ルドルティの最大の取引相手が一体どこだったのか、国が大きくなって忘れちゃったの? レオンハルト」
何やら睨み合う二人を視界に収めつつ、ルシアナは、なるほど、と内心頷く。
本来国に縛ることができない魔法術師が、何故シュネーヴェ王国にはたくさんいるのか不思議だったが、取引相手として互いに多大な利益があることが理由の一つなのだろう。
(旧ルドルティ王国は鉱山をたくさん保有し、多くの魔石を産出する魔石大国だったものね。魔法術師協会とは長い付き合いなのかもしれないわ)
北方には多くの鉱山があるが、魔石が採れる鉱山はそのほとんどが旧ルドルティ王国の領地内にあった。マナを含まないただの宝石の鉱山は採り尽くせばそれまでだが、魔石はそうではない。
一時的にほとんど採り尽くしたとしても、大気中に溢れるマナが鉱物の生成を促し、それほど長い年月をかけずにまた新たな魔石が採れるようになる。
魔石鉱山は、それだけあれば半永久的に国を潤すことができる、生涯涸れない水のようなものだった。
(それにしても、不毛の地とはどういうことかしら。とても寒いとは聞いていたけれど――)
「はーぁ、やめやめ。仏頂面拝んでても楽しくないわ」
盛大な溜息に我に返ったルシアナは、意識をコンスタンツェに戻す。彼女はすぐにルシアナを見ると、明るい笑みを浮かべた。
「じゃあ、好きに要望伝えてね、ルシアナちゃん。まだまだマナは有り余ってるから!」
「まあ、そんな……無理はなさらないでくださいね」
「大丈夫、大丈夫! それじゃあ、まずは壁紙からやろうか。何色がいい? 柄とかは?」
「そうですね……」
ちらりとレオンハルトを窺えば、彼は“好きにしていい”というように頷いた。
それに、ほっと肩の力を抜きつつコンスタンツェに視線を戻すと、ルシアナは恥ずかしげに目を伏せた。
「色は、レオンハルト様の瞳をもう少し淡く……灰色っぽくした色にしたくて……柄は無地がいいですわ」
「あら、可愛い。色味としてはピジョンブル―が近いかしらねー」
言うや否や、真っ白だった部屋の壁が灰色がかった薄い青色に変わる。
色合いを見てか、天井と壁の境目には蛇腹の白い廻り縁が取り付けられ、それだけで味気ない部屋が一気に華やいだ。
あまりにも想像通りの色が現れ、ルシアナは思わず「素敵」と声を漏らす。すると、コンスタンツェは得意げに口角を上げ「ありがとう」と返した。
その後、コンスタンツェに促されながら、床は濃い紺色のカーペットに、カーテンは白いものに、と要望を伝えていく。
寝室が終わったあとは、レオンハルトの私室と浴室の内装を変えた。変えたと言っても、私室は白い状態からさほど変化はなく、床を白い大理石に変えたぐらいだ。浴室に至っては、もともと彼の部屋に併設されていたものをそのまま移し替えていた。
レオンハルトがあまり変えていないのに、自分だけ好きに注文するのもどうなんだろう、と考えたが、「必ず好みの部屋に仕上げてくれ」とレオンハルトに念を押されたため、ルシアナは悩みながらも好みをコンスタンツェに伝えた。
これまで与えられていた白と瑠璃色と銀で整えられた部屋とは違う、若草色や薄黄色など、淡く明るい色を基調とした部屋。この邸宅内でルシアナが唯一自分好みに仕上げた、サロンを彷彿とさせるような色合いの部屋にすることにした。
部屋の色合いを見て、レオンハルトがわずかに険しい表情を浮かべたのに気付き、ルシアナは肩に置かれたレオンハルトの手に触れた。
「今いただいている部屋も、わたくしは好きですわ」
柔らかな笑みを浮かべながらそう伝えたものの、レオンハルトの表情は晴れず、彼は眉尻を下げ「そうか」と呟いた。
(本心なのだけれど……説得力がないわよね)
夜にでも改めて伝えよう、と心に決めながら、レオンハルトと共に浴室となる部屋へと向かう。
先に部屋を確認していたコンスタンツェは、ルシアナが入って来ると首を傾げた。
「浴室はシュネーヴェ式? トゥルエノ式?」
「まあ。トゥルエノのようにもできるのですか?」
「もちろん! って……レオンハルトは確認しなかったの?」
非難の目を向けるコンスタンツェに、レオンハルトはわずかに顔色を悪くし、ルシアナを見た。
「……シュネーヴェとトゥルエノで、様式が違うのか?」
「あ……ええと、トゥルエノは床に浴槽が埋まっている……床と浴槽が一体になっているのが一般的で」
「こっちでいうと温泉みたいなものよ」
「……そうなのか」
“おんせん”とは一体なんだろう、と疑問に思ったものの、それを口には出さず、ルシアナは明るい笑みをレオンハルトに向ける。
「それが一般的というだけで、バスタブが分離しているお風呂もありますわ。どちらでも問題がないから何も言わなかったのです。ですから、どうぞお気になさらないでください」
「少し調べればわかることなのにね」
(王女殿下……!)
コンスタンツェの一言で、さらに表情を険しくしたレオンハルトに、ルシアナは「本当に大丈夫ですから」と努めて明るく声を掛けた。
「壁紙とかカーペットとか、素材も色も好きなものを言って! あっ、でも、家具とか装飾とかとの相性もあるか……家具はどうするの?」
「家具はすでに頼んでありますわ」
「家具が出来上がったら、設置のためにまた魔法術師協会に依頼するつもりだ」
レオンハルトの言葉に、コンスタンツェが小さく「うわ……」と漏らした。
「贅沢な使い方するわね、レオンハルト。魔法術師一人頼むより、普通に運んでくれる人を十数人頼んだほうが安いのに……。まぁ、大国となったシュネーヴェの公爵がそれぐらい払えないほうが問題か」
「……不毛の地であるはずのルドルティが何故あれほど豊かだったのか、国を離れすぎて忘れたようだな、コンスタンツェ」
「あら、ルドルティの最大の取引相手が一体どこだったのか、国が大きくなって忘れちゃったの? レオンハルト」
何やら睨み合う二人を視界に収めつつ、ルシアナは、なるほど、と内心頷く。
本来国に縛ることができない魔法術師が、何故シュネーヴェ王国にはたくさんいるのか不思議だったが、取引相手として互いに多大な利益があることが理由の一つなのだろう。
(旧ルドルティ王国は鉱山をたくさん保有し、多くの魔石を産出する魔石大国だったものね。魔法術師協会とは長い付き合いなのかもしれないわ)
北方には多くの鉱山があるが、魔石が採れる鉱山はそのほとんどが旧ルドルティ王国の領地内にあった。マナを含まないただの宝石の鉱山は採り尽くせばそれまでだが、魔石はそうではない。
一時的にほとんど採り尽くしたとしても、大気中に溢れるマナが鉱物の生成を促し、それほど長い年月をかけずにまた新たな魔石が採れるようになる。
魔石鉱山は、それだけあれば半永久的に国を潤すことができる、生涯涸れない水のようなものだった。
(それにしても、不毛の地とはどういうことかしら。とても寒いとは聞いていたけれど――)
「はーぁ、やめやめ。仏頂面拝んでても楽しくないわ」
盛大な溜息に我に返ったルシアナは、意識をコンスタンツェに戻す。彼女はすぐにルシアナを見ると、明るい笑みを浮かべた。
「じゃあ、好きに要望伝えてね、ルシアナちゃん。まだまだマナは有り余ってるから!」
「まあ、そんな……無理はなさらないでくださいね」
「大丈夫、大丈夫! それじゃあ、まずは壁紙からやろうか。何色がいい? 柄とかは?」
「そうですね……」
ちらりとレオンハルトを窺えば、彼は“好きにしていい”というように頷いた。
それに、ほっと肩の力を抜きつつコンスタンツェに視線を戻すと、ルシアナは恥ずかしげに目を伏せた。
「色は、レオンハルト様の瞳をもう少し淡く……灰色っぽくした色にしたくて……柄は無地がいいですわ」
「あら、可愛い。色味としてはピジョンブル―が近いかしらねー」
言うや否や、真っ白だった部屋の壁が灰色がかった薄い青色に変わる。
色合いを見てか、天井と壁の境目には蛇腹の白い廻り縁が取り付けられ、それだけで味気ない部屋が一気に華やいだ。
あまりにも想像通りの色が現れ、ルシアナは思わず「素敵」と声を漏らす。すると、コンスタンツェは得意げに口角を上げ「ありがとう」と返した。
その後、コンスタンツェに促されながら、床は濃い紺色のカーペットに、カーテンは白いものに、と要望を伝えていく。
寝室が終わったあとは、レオンハルトの私室と浴室の内装を変えた。変えたと言っても、私室は白い状態からさほど変化はなく、床を白い大理石に変えたぐらいだ。浴室に至っては、もともと彼の部屋に併設されていたものをそのまま移し替えていた。
レオンハルトがあまり変えていないのに、自分だけ好きに注文するのもどうなんだろう、と考えたが、「必ず好みの部屋に仕上げてくれ」とレオンハルトに念を押されたため、ルシアナは悩みながらも好みをコンスタンツェに伝えた。
これまで与えられていた白と瑠璃色と銀で整えられた部屋とは違う、若草色や薄黄色など、淡く明るい色を基調とした部屋。この邸宅内でルシアナが唯一自分好みに仕上げた、サロンを彷彿とさせるような色合いの部屋にすることにした。
部屋の色合いを見て、レオンハルトがわずかに険しい表情を浮かべたのに気付き、ルシアナは肩に置かれたレオンハルトの手に触れた。
「今いただいている部屋も、わたくしは好きですわ」
柔らかな笑みを浮かべながらそう伝えたものの、レオンハルトの表情は晴れず、彼は眉尻を下げ「そうか」と呟いた。
(本心なのだけれど……説得力がないわよね)
夜にでも改めて伝えよう、と心に決めながら、レオンハルトと共に浴室となる部屋へと向かう。
先に部屋を確認していたコンスタンツェは、ルシアナが入って来ると首を傾げた。
「浴室はシュネーヴェ式? トゥルエノ式?」
「まあ。トゥルエノのようにもできるのですか?」
「もちろん! って……レオンハルトは確認しなかったの?」
非難の目を向けるコンスタンツェに、レオンハルトはわずかに顔色を悪くし、ルシアナを見た。
「……シュネーヴェとトゥルエノで、様式が違うのか?」
「あ……ええと、トゥルエノは床に浴槽が埋まっている……床と浴槽が一体になっているのが一般的で」
「こっちでいうと温泉みたいなものよ」
「……そうなのか」
“おんせん”とは一体なんだろう、と疑問に思ったものの、それを口には出さず、ルシアナは明るい笑みをレオンハルトに向ける。
「それが一般的というだけで、バスタブが分離しているお風呂もありますわ。どちらでも問題がないから何も言わなかったのです。ですから、どうぞお気になさらないでください」
「少し調べればわかることなのにね」
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コンスタンツェの一言で、さらに表情を険しくしたレオンハルトに、ルシアナは「本当に大丈夫ですから」と努めて明るく声を掛けた。
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