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第十章
報告(二)
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「ブロムベルク公爵家の令嬢と他二名の伯爵家の令嬢は、貴女に直接暴言吐いたわけでも、何か危害を加えたわけでもないから、こちらから何かを要求するようなことはしてない。が、ブロムベルク公爵家は北西部の男爵家に娘を嫁に出したそうだ」
「……そうですか」
同じ貴族とは言え、公爵家と男爵家では大きな身分差がある。レオンハルトの妻の座を望んでいた彼女にとっては、これ以上ないほどの屈辱ではないだろうか。
(狩猟大会でも、最後のパーティーでもお見かけしなかったから、もしかしたら謹慎処分を受けているのかも、と思っていたけれど……)
そこまで考えて、ルシアナは、はっとしたようにレオンハルトから体を離す。レオンハルトの厚い胸板に手を置きながら、彼を見上げた。
「北西部というのは、もしや……」
「ああ。十年前、北方を戦場と化した元凶の国、旧シュリシモ王国があった場所だ」
「旧シュリシモ王国に住む者たちは、その土地から生涯出ることが許されないと聞きましたが」
「現状はそうだな。だが、いつまでも続けていては、いずれそれが新たな禍根となる。だからいずれはその禁則もなくなるだろう。……男爵夫人となったあの者が生きている間に撤廃されるかはわからないが」
自身に縋るルシアナの手を取り、腰に回した腕に力を込めながら、レオンハルトはルシアナの目尻に優しい口付けを落とした。
「貴女が気にするようなことではない。下の者が間違った行いをしていたら、それを諭すのが上に立つ者の役目だ。それを怠った時点で、同情の余地はない」
「……ええ、その通りですわ」
ルシアナは短く息を吐くと、自分の手を取るレオンハルトの手の甲に頬をすり寄せた。
「レーブライン伯爵令嬢とデデキント伯爵令嬢もあの日以降お姿を見ていませんが、お二人も似たようなことに?」
「ああ。それぞれ地方の貴族の後妻に入ったと聞いた。中央に出てくるような家門ではないそうだから、あの者たちと会うことももうないだろう」
すり寄って来たルシアナの頬に手を添えたレオンハルトは、親指の腹でふっくらとした唇を撫でた。
「今更だが……あのときは、貴女を矢面に立たせるようなことをしてすまなかった。事実ではないし、将来的なことを考えたら、最初にいろいろとあぶり出しておくほうがいいと思ったんだ」
後悔の滲む眼差しを向けられ、ルシアナは温かな笑みをレオンハルトに返す。
「先ほど話しづらそうにしていたのは、そのことを気にしてですか?」
「それもあるが、あの者たちの名を貴女の耳に入れたくなかった。……社交の場で、貴女を扱き下ろすようなことを散々言っていただろう。そして、貴女もそれを聞いていた。そのことを思い出してほしくなかった」
するりと頬を撫で、そのままルシアナの髪の毛を一房手に取って口付けたレオンハルトに、ルシアナは、ぱち、ぱち、と瞬きを繰り返す。
(確かに……いろいろ言われていたけれど……)
「わたくしは気にしていませんわ。レオンハルト様もおっしゃっていた通り事実ではありませんし……」
ふと、ガーデンパーティーで彼女たちが言っていた言葉が思い出された。
『あのような様子で妻としての役割を果たせるのかどうか』
『愛らしさは武器になりますが、あれでは男性もその気にはなれませんわ』
『夫婦となる以上、女として夫を悦ばせられなくては』
『日々の癒しにはよろしいのでは? 幼子を見ていると、心が温かくなるでしょう?』
(そういえば、そんなこともあったわ)
これらを言われた当時はレオンハルトとこんな風に愛し合う仲になるとは思っておらず、気にも留めていなかった。そのせいか、どれが誰の言葉だったのか、もはや思い出せない。
「ルシアナ? どうした?」
途中で言葉を止めたからか、レオンハルトが心配そうにルシアナを窺った。
ルシアナは、じっとレオンハルトを見つめると、彼の手中から逃れ、彼の足を跨いで向かい合うように座った。
驚いたように目を見張るレオンハルトの首に腕を回しながら、ルシアナは小首を傾げる。
「レオンハルト様。わたくしは妻として、レオンハルト様を悦ばせることができていますか?」
「貴女の存在自体が、俺にとっては至上の喜びだが……」
ルシアナを抱き締めながら、不思議そうにするレオンハルトに、これは話が噛み合っていないな、とルシアナは笑みを漏らし、緩く頭を横に振った。
「言い方を変えますわ。レオンハルト様は、わたくしの体で満足されていますか?」
「――は?」
一瞬、ぽかんとしたレオンハルトだったが、すぐにその目を鋭く細め、抱き締める腕に力を込めた。
「あいつらに何を言われた」
低い声で怒りを滾らせ、今にも噛み付きそうな勢いのレオンハルトに、ルシアナは穏やかな微笑を湛えると、人差し指を彼の口元に当てた。
「言われたことはどうでもいいのです。レオンハルト様がどう思っていらっしゃるのか、わたくしが気になるのは、そこだけですわ」
レオンハルトがよくやるように、指の腹で彼の薄い唇を撫でる。
すると、レオンハルトはその手を掴み、指先に軽く口付けながら、射貫くようにルシアナを見つめた。
「俺は身も心も貴女に溺れている。貴女だけが俺に熱を与え、喜びを与える」
レオンハルトは指を絡めながら手を握ると、鼻先が触れ合うほど顔を近付けた。
「……昨日散々抱かれておいて、俺が満たされていないと、本気で思ってるのか?」
射竦めるような視線に、ルシアナは柔らかな笑みを浮かべると、レオンハルトの唇に軽く口付けた。
「いいえ、レオンハルト様。決して。決してそのようなこと思いませんわ」
納得しているのか、していないのか、レオンハルトは眉を寄せながら、ルシアナの唇を食む。ときに舐め、軽く噛み、薄く口を開けたところですかさず舌を侵入させる。
「ぅん、ん……っ」
自身の気持ちを刻み付けるように激しく口内を舐るレオンハルトに、ルシアナはただ大人しくそれを受け入れる。
互いの唾液を交換するように舌を擦り付け合いながら、ルシアナは心の中で小さく笑んだ。
(……やっぱり、彼女たちが言ったことは、何も事実ではなかったわ)
ただ真っ直ぐ自分を愛し求めてくれる愛しい人の熱を感じながら、ルシアナはそっと目を閉じた。
「……そうですか」
同じ貴族とは言え、公爵家と男爵家では大きな身分差がある。レオンハルトの妻の座を望んでいた彼女にとっては、これ以上ないほどの屈辱ではないだろうか。
(狩猟大会でも、最後のパーティーでもお見かけしなかったから、もしかしたら謹慎処分を受けているのかも、と思っていたけれど……)
そこまで考えて、ルシアナは、はっとしたようにレオンハルトから体を離す。レオンハルトの厚い胸板に手を置きながら、彼を見上げた。
「北西部というのは、もしや……」
「ああ。十年前、北方を戦場と化した元凶の国、旧シュリシモ王国があった場所だ」
「旧シュリシモ王国に住む者たちは、その土地から生涯出ることが許されないと聞きましたが」
「現状はそうだな。だが、いつまでも続けていては、いずれそれが新たな禍根となる。だからいずれはその禁則もなくなるだろう。……男爵夫人となったあの者が生きている間に撤廃されるかはわからないが」
自身に縋るルシアナの手を取り、腰に回した腕に力を込めながら、レオンハルトはルシアナの目尻に優しい口付けを落とした。
「貴女が気にするようなことではない。下の者が間違った行いをしていたら、それを諭すのが上に立つ者の役目だ。それを怠った時点で、同情の余地はない」
「……ええ、その通りですわ」
ルシアナは短く息を吐くと、自分の手を取るレオンハルトの手の甲に頬をすり寄せた。
「レーブライン伯爵令嬢とデデキント伯爵令嬢もあの日以降お姿を見ていませんが、お二人も似たようなことに?」
「ああ。それぞれ地方の貴族の後妻に入ったと聞いた。中央に出てくるような家門ではないそうだから、あの者たちと会うことももうないだろう」
すり寄って来たルシアナの頬に手を添えたレオンハルトは、親指の腹でふっくらとした唇を撫でた。
「今更だが……あのときは、貴女を矢面に立たせるようなことをしてすまなかった。事実ではないし、将来的なことを考えたら、最初にいろいろとあぶり出しておくほうがいいと思ったんだ」
後悔の滲む眼差しを向けられ、ルシアナは温かな笑みをレオンハルトに返す。
「先ほど話しづらそうにしていたのは、そのことを気にしてですか?」
「それもあるが、あの者たちの名を貴女の耳に入れたくなかった。……社交の場で、貴女を扱き下ろすようなことを散々言っていただろう。そして、貴女もそれを聞いていた。そのことを思い出してほしくなかった」
するりと頬を撫で、そのままルシアナの髪の毛を一房手に取って口付けたレオンハルトに、ルシアナは、ぱち、ぱち、と瞬きを繰り返す。
(確かに……いろいろ言われていたけれど……)
「わたくしは気にしていませんわ。レオンハルト様もおっしゃっていた通り事実ではありませんし……」
ふと、ガーデンパーティーで彼女たちが言っていた言葉が思い出された。
『あのような様子で妻としての役割を果たせるのかどうか』
『愛らしさは武器になりますが、あれでは男性もその気にはなれませんわ』
『夫婦となる以上、女として夫を悦ばせられなくては』
『日々の癒しにはよろしいのでは? 幼子を見ていると、心が温かくなるでしょう?』
(そういえば、そんなこともあったわ)
これらを言われた当時はレオンハルトとこんな風に愛し合う仲になるとは思っておらず、気にも留めていなかった。そのせいか、どれが誰の言葉だったのか、もはや思い出せない。
「ルシアナ? どうした?」
途中で言葉を止めたからか、レオンハルトが心配そうにルシアナを窺った。
ルシアナは、じっとレオンハルトを見つめると、彼の手中から逃れ、彼の足を跨いで向かい合うように座った。
驚いたように目を見張るレオンハルトの首に腕を回しながら、ルシアナは小首を傾げる。
「レオンハルト様。わたくしは妻として、レオンハルト様を悦ばせることができていますか?」
「貴女の存在自体が、俺にとっては至上の喜びだが……」
ルシアナを抱き締めながら、不思議そうにするレオンハルトに、これは話が噛み合っていないな、とルシアナは笑みを漏らし、緩く頭を横に振った。
「言い方を変えますわ。レオンハルト様は、わたくしの体で満足されていますか?」
「――は?」
一瞬、ぽかんとしたレオンハルトだったが、すぐにその目を鋭く細め、抱き締める腕に力を込めた。
「あいつらに何を言われた」
低い声で怒りを滾らせ、今にも噛み付きそうな勢いのレオンハルトに、ルシアナは穏やかな微笑を湛えると、人差し指を彼の口元に当てた。
「言われたことはどうでもいいのです。レオンハルト様がどう思っていらっしゃるのか、わたくしが気になるのは、そこだけですわ」
レオンハルトがよくやるように、指の腹で彼の薄い唇を撫でる。
すると、レオンハルトはその手を掴み、指先に軽く口付けながら、射貫くようにルシアナを見つめた。
「俺は身も心も貴女に溺れている。貴女だけが俺に熱を与え、喜びを与える」
レオンハルトは指を絡めながら手を握ると、鼻先が触れ合うほど顔を近付けた。
「……昨日散々抱かれておいて、俺が満たされていないと、本気で思ってるのか?」
射竦めるような視線に、ルシアナは柔らかな笑みを浮かべると、レオンハルトの唇に軽く口付けた。
「いいえ、レオンハルト様。決して。決してそのようなこと思いませんわ」
納得しているのか、していないのか、レオンハルトは眉を寄せながら、ルシアナの唇を食む。ときに舐め、軽く噛み、薄く口を開けたところですかさず舌を侵入させる。
「ぅん、ん……っ」
自身の気持ちを刻み付けるように激しく口内を舐るレオンハルトに、ルシアナはただ大人しくそれを受け入れる。
互いの唾液を交換するように舌を擦り付け合いながら、ルシアナは心の中で小さく笑んだ。
(……やっぱり、彼女たちが言ったことは、何も事実ではなかったわ)
ただ真っ直ぐ自分を愛し求めてくれる愛しい人の熱を感じながら、ルシアナはそっと目を閉じた。
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