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第十章
温かな朝の時間
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温かな陽光が自分を包み込んでくれているような気がして、ルシアナはゆったりと瞼を持ち上げた。
(朝……?)
夜は黒っぽく見える幕が青く艶めいているのを見て、寝返りを打とうと身じろぐ。しかし、寝ていたとは思えないほど体が怠く、ルシアナはそのままベッドに身を沈めた。
(体が重いわ……)
熱を出して寝込んでいるときの、言いようのない怠さ。全身に重しを付けられたかのような、表現しがたい感覚。それに似たものが、全身――特に下半身にあった。
枕に顔を擦り付けながら、前回はこんなことなかったのに、と思ったところで、じわじわと体温が上がっていく。
(さ、昨夜はとてもすごかったわ……)
何度果てを迎え、何度中に出されたのか、もはや記憶にない。とてつもなく長い時間、指一本動かせなくなるまで彼に愛でられ続けた。いや、愛でるというより、あれは捕食に近かったのではないだろうか。
心も体も、余すところなく暴かれてしまったような気がする。
体は重いが、これ以上ないほど心身ともに満たされている。
いつも自分を気遣ってばかりのレオンハルトが、あれほど熱烈に求めてくれたのが何より嬉しい。
(……けれど)
なんとか体を動かし仰向けになったルシアナは、深く息を吐き出す。
(レオンハルト様は満足されたかしら……はっきりした記憶はないけれど、まだ余力があったような気がするのよね)
昨日はあれ以上応えられそうになかったが、できることならレオンハルトが満足するまで応えたい。体力にはそれなりに自信があるが、閨での疲労は普通に体を動かすのとは少し種類が違うような気がする。
(回数を重ねれば慣れるかしら。剣の鍛錬も回数を重ねることで体が慣れていって、倒れる機会も、熱を出す機会も減っていったものね)
そもそも慣れたりするものなのかもわからないが、何事も経験だろうと一人頷く。
「っこほ……!」
頷いたことで喉が絞まったのか、乾いた咳が出る。口内は乾燥し、一気に喉の渇きに襲われた。
サイドチェストに水差しがあるはずだと体を捩ったところで、後ろの幕が開く音がした。
ルシアナが振り返るより早くベッドが沈み、後ろから伸びてきた手がルシアナの頬を撫でる。
「目が覚めたか?」
耳障りのいい柔らかな声に、ルシアナはゆっくり体の向きを変える。
自分を見下ろすレオンハルトを視界に入れた瞬間、自然と顔に笑みが広がった。
「――ぁ」
“レオンハルト様”と名前を呼んだつもりだったが、乾いた喉からは頼りない小さな声しか出なかった。それに少々不満げな表情を浮かべると、レオンハルトは眉尻を下げた。
「少し待っていてくれ」
ルシアナの欲しいものを察したのか、レオンハルトはルシアナの体を起こし、ヘッドボードに寄りかからせると、すぐに水の入ったグラスを持ってくる。
ルシアナはそれを受け取ると、ごくごくと喉を潤した。
グラスの中身を飲み干したルシアナは、一つ息を吐くと、ベッドに腰掛けたレオンハルトへ目を向ける。
「ありがとうございます、レオンハルト様」
「いや。まだ飲むか?」
「いいえ、もう大丈夫ですわ」
もう一度「ありがとうございます」とお礼を口にすれば、レオンハルトはどこか安堵したように「そうか」と漏らし、空いたグラスをサイドテーブルに置いた。
起きてすぐレオンハルトに会えた喜びに、にこにことその姿を見ていたルシアナだったが、ふと彼の格好が普段と違うことに気付き、小首を傾げる。
「騎士団の制服をお召しでないのは珍しいですね?」
パーティーに参加するとき以外、常に騎士服を着ていたレオンハルトが、シャツにジレ、クラバットという紳士服に身を包んでいたのだ。盛装ではないため、普段着のための衣服であることはすぐにわかったが、レオンハルトが平時に騎士服以外を着ているのが珍しく、思わずじっと眺めてしまう。
すると、レオンハルトは小さく笑んで、ルシアナの頬を手の甲で撫でた。
「俺も休みのときくらい制服は脱ぐ」
するりと頬を撫でた手がそのまま髪を梳き、毛先を弄る。
その様子をぼうっと眺めていたルシアナは、少し間を置いて、髪の毛に触れているレオンハルトの手を両手で握った。
「お、お休みなのですか!?」
「ああ。予定より遅くなったが、今日から休みだ」
ふっと口元を緩めたレオンハルトに、ルシアナは満面の笑みを浮かべると、レオンハルトに抱き着いた。首に腕を回し、すりすりと首筋に頬をすり寄せる。レオンハルトから香る爽やかな匂いを肺いっぱいに取り込みながら、抱き締める腕に力を込めた。
今日から毎日レオンハルトと一緒にいられるのかと思うと、先ほどまで感じていた倦怠感が嘘のように体が軽くなった。
レオンハルトはルシアナを自身の足の上に座らせると、その体を抱き締め頭を撫でた。
「この一ヵ月ほど貴女を一人にしてしまうことが多かったから、その分、休暇の間はなるべく共に過ごしたいと思う。許してくれるか?」
「許すも何も……! むしろ、よろしいのですか? そのようにおっしゃられては、わたくし本当にレオンハルト様のお傍を離れませんよ?」
「残念だが、俺から離れる機会を得るほうが難しいはずだ」
「まあ……!」
思いがけない言葉にルシアナは目を瞬かせたものの、レオンハルトは決して冗談を言っているような雰囲気ではなかった。
期待に胸がドキドキと高鳴っていき、ルシアナは小さく喉を鳴らす。
(まさか……本当にずっとレオンハルト様といられるの? ゆっくりした時間を、こうして一緒に過ごせるの?)
結婚式以降、二人でゆっくりと過ごす時間はないに等しかった。正直、婚約時代のほうが、一緒に食事を取ったり、パーティーに参加したりするなど、顔を合わせる機会が多かったように思う。
そもそも、レオンハルトと結婚して一ヵ月ほど経ったが、彼がこの一ヵ月の間に邸にいた日数は一週間にも満たない。
(けれど、今日からはずっとお邸にいるの……? また一緒に、お食事もできる……?)
ルシアナはわずかに震える指先を握り込むと、おずおずと口を開く。
「あの、それでは……もう少し……このままでいてもいいですか……?」
「少しと言わずいくらでも。貴女が望む限り」
抱き締める腕に力を込め、温かな微笑を向けてくれるレオンハルトに、視界が滲む。ルシアナは漏れそうになるものを堪えるように、ぎゅっと口を閉じると、顔を伏せてその温もりに身を委ねた。
(朝……?)
夜は黒っぽく見える幕が青く艶めいているのを見て、寝返りを打とうと身じろぐ。しかし、寝ていたとは思えないほど体が怠く、ルシアナはそのままベッドに身を沈めた。
(体が重いわ……)
熱を出して寝込んでいるときの、言いようのない怠さ。全身に重しを付けられたかのような、表現しがたい感覚。それに似たものが、全身――特に下半身にあった。
枕に顔を擦り付けながら、前回はこんなことなかったのに、と思ったところで、じわじわと体温が上がっていく。
(さ、昨夜はとてもすごかったわ……)
何度果てを迎え、何度中に出されたのか、もはや記憶にない。とてつもなく長い時間、指一本動かせなくなるまで彼に愛でられ続けた。いや、愛でるというより、あれは捕食に近かったのではないだろうか。
心も体も、余すところなく暴かれてしまったような気がする。
体は重いが、これ以上ないほど心身ともに満たされている。
いつも自分を気遣ってばかりのレオンハルトが、あれほど熱烈に求めてくれたのが何より嬉しい。
(……けれど)
なんとか体を動かし仰向けになったルシアナは、深く息を吐き出す。
(レオンハルト様は満足されたかしら……はっきりした記憶はないけれど、まだ余力があったような気がするのよね)
昨日はあれ以上応えられそうになかったが、できることならレオンハルトが満足するまで応えたい。体力にはそれなりに自信があるが、閨での疲労は普通に体を動かすのとは少し種類が違うような気がする。
(回数を重ねれば慣れるかしら。剣の鍛錬も回数を重ねることで体が慣れていって、倒れる機会も、熱を出す機会も減っていったものね)
そもそも慣れたりするものなのかもわからないが、何事も経験だろうと一人頷く。
「っこほ……!」
頷いたことで喉が絞まったのか、乾いた咳が出る。口内は乾燥し、一気に喉の渇きに襲われた。
サイドチェストに水差しがあるはずだと体を捩ったところで、後ろの幕が開く音がした。
ルシアナが振り返るより早くベッドが沈み、後ろから伸びてきた手がルシアナの頬を撫でる。
「目が覚めたか?」
耳障りのいい柔らかな声に、ルシアナはゆっくり体の向きを変える。
自分を見下ろすレオンハルトを視界に入れた瞬間、自然と顔に笑みが広がった。
「――ぁ」
“レオンハルト様”と名前を呼んだつもりだったが、乾いた喉からは頼りない小さな声しか出なかった。それに少々不満げな表情を浮かべると、レオンハルトは眉尻を下げた。
「少し待っていてくれ」
ルシアナの欲しいものを察したのか、レオンハルトはルシアナの体を起こし、ヘッドボードに寄りかからせると、すぐに水の入ったグラスを持ってくる。
ルシアナはそれを受け取ると、ごくごくと喉を潤した。
グラスの中身を飲み干したルシアナは、一つ息を吐くと、ベッドに腰掛けたレオンハルトへ目を向ける。
「ありがとうございます、レオンハルト様」
「いや。まだ飲むか?」
「いいえ、もう大丈夫ですわ」
もう一度「ありがとうございます」とお礼を口にすれば、レオンハルトはどこか安堵したように「そうか」と漏らし、空いたグラスをサイドテーブルに置いた。
起きてすぐレオンハルトに会えた喜びに、にこにことその姿を見ていたルシアナだったが、ふと彼の格好が普段と違うことに気付き、小首を傾げる。
「騎士団の制服をお召しでないのは珍しいですね?」
パーティーに参加するとき以外、常に騎士服を着ていたレオンハルトが、シャツにジレ、クラバットという紳士服に身を包んでいたのだ。盛装ではないため、普段着のための衣服であることはすぐにわかったが、レオンハルトが平時に騎士服以外を着ているのが珍しく、思わずじっと眺めてしまう。
すると、レオンハルトは小さく笑んで、ルシアナの頬を手の甲で撫でた。
「俺も休みのときくらい制服は脱ぐ」
するりと頬を撫でた手がそのまま髪を梳き、毛先を弄る。
その様子をぼうっと眺めていたルシアナは、少し間を置いて、髪の毛に触れているレオンハルトの手を両手で握った。
「お、お休みなのですか!?」
「ああ。予定より遅くなったが、今日から休みだ」
ふっと口元を緩めたレオンハルトに、ルシアナは満面の笑みを浮かべると、レオンハルトに抱き着いた。首に腕を回し、すりすりと首筋に頬をすり寄せる。レオンハルトから香る爽やかな匂いを肺いっぱいに取り込みながら、抱き締める腕に力を込めた。
今日から毎日レオンハルトと一緒にいられるのかと思うと、先ほどまで感じていた倦怠感が嘘のように体が軽くなった。
レオンハルトはルシアナを自身の足の上に座らせると、その体を抱き締め頭を撫でた。
「この一ヵ月ほど貴女を一人にしてしまうことが多かったから、その分、休暇の間はなるべく共に過ごしたいと思う。許してくれるか?」
「許すも何も……! むしろ、よろしいのですか? そのようにおっしゃられては、わたくし本当にレオンハルト様のお傍を離れませんよ?」
「残念だが、俺から離れる機会を得るほうが難しいはずだ」
「まあ……!」
思いがけない言葉にルシアナは目を瞬かせたものの、レオンハルトは決して冗談を言っているような雰囲気ではなかった。
期待に胸がドキドキと高鳴っていき、ルシアナは小さく喉を鳴らす。
(まさか……本当にずっとレオンハルト様といられるの? ゆっくりした時間を、こうして一緒に過ごせるの?)
結婚式以降、二人でゆっくりと過ごす時間はないに等しかった。正直、婚約時代のほうが、一緒に食事を取ったり、パーティーに参加したりするなど、顔を合わせる機会が多かったように思う。
そもそも、レオンハルトと結婚して一ヵ月ほど経ったが、彼がこの一ヵ月の間に邸にいた日数は一週間にも満たない。
(けれど、今日からはずっとお邸にいるの……? また一緒に、お食事もできる……?)
ルシアナはわずかに震える指先を握り込むと、おずおずと口を開く。
「あの、それでは……もう少し……このままでいてもいいですか……?」
「少しと言わずいくらでも。貴女が望む限り」
抱き締める腕に力を込め、温かな微笑を向けてくれるレオンハルトに、視界が滲む。ルシアナは漏れそうになるものを堪えるように、ぎゅっと口を閉じると、顔を伏せてその温もりに身を委ねた。
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