上 下
173 / 223
第十章

求め合う夜、のそのとき(二)※

しおりを挟む
 背中に回されていたルシアナの腕がぱたりとベッドに落ちる。
 無防備に晒された裸体に、自然と喉が鳴った。

(……綺麗だ)

 照明を反射し煌めく、美しいホワイトブロンドの髪が彼女の体を縁取り、まるで黄金の波の上に横たわっているようだった。
 高名な画家が生涯をかけて生み出した傑作のように美しい情景だ。
 美しく神々しいその様は崇高なる芸術品のようにも思えるのに、薄桃色に染まった白い肌や、彼女が呼吸をするたびに上下する胸の頂の赤い蕾を見ると、どうしようもないほど情欲を掻き立てられた。

 レオンハルトはルシアナの腹回りに溜まっていたタオルを退かすと、脇腹に触れる。本当に体内に臓器が詰まっているのか心配になるほど薄い脇腹を優しく掴んで、その手を静かに下に動かした。
 腰骨に到達したところで手を止め、視線をさらに下げて腰を引く。
 可憐な彼女には似つかわしくない凶悪なものがゆっくり引き抜かれていくのを見ながら、レオンハルトは小さく息を吐いた。

 すでに質量を取り戻したそれは、撹拌され白く泡立った、どちらのものともわからない体液とともに、徐々に姿を現す。
 よくこんなものが収まるな、と思いながら、ギリギリまで抜いたものを再びゆっくり沈めていく。柔らかな蜜壺は押し入って来るものを健気に飲み込み、レオンハルトのものをきゅっと締め付ける。
 無意識であろうその反応が、愚かな男にどれほどの愉悦と高揚感を与えるのか、きっと彼女は知らないのだろう。

 レオンハルトは、深く吸い込んだ息をゆっくりと吐き出しながら、腰骨に当てていた手を上へと這わせていく。脇腹を通り、柔らかな膨らみを撫で、鎖骨を擦り、首まで到達すると、ふとルシアナが自分を見ていることに気付く。
 潤んだ瞳は透明度の高い宝石のように煌めき、瞬きするたびに散る涙は銀粉を散らしたように目元を輝かせた。
 ベッドに片腕をついたレオンハルトは、首に添えていた手を頬へと移動させ、薄く開いたルシアナの唇に口付ける。
 それだけでルシアナの瞳は嬉しそうに蕩け、隘路もきつく陽根を抱き締めた。

(貴女の視線が、仕草が、俺への愛を伝えてくれる)

 軽く唇を食んだレオンハルトは、頬に添えていた手をルシアナの腰に回すと、ルシアナの体を抱えたまま上体を起こす。繋がったまま、自分の足の上にルシアナを座らせるような形になると、空いた腕を後ろについた。

「レオンハルトさま……」
「ああ」

 熱い息を漏らしながら名前を呼ぶルシアナに、レオンハルトは短く返事をすると、そのまま下から突き上げた。

「ぁッ――ああっ、ッア……!」
「っ、本当に……貴女は何故こうも愛らしいんだろうな……ッ」
「あ、っあ……? ぁッ、んぁっ! ぁンっ、あッ……!」

 ルシアナはレオンハルトの肩に置いていた手に力を入れると、少ししてびくびくと腰を震わせた。

「ああ……すぐ気持ちよくなれて偉いな? ルシアナ」

 果てたばかりで敏感になっているであろうことは理解しつつ、最奥に擦り付けるように突き上げを続ければ、ルシアナはただされるがまま体を揺らし、嬌声を漏らした。

「ふぁっ、ッぁ、レオ、レオンハルトっさまっ、ぁっあっ」

 快楽に瞳を濡らし、切なげにレオンハルトを見つめたルシアナは、肩を掴んでいた手を離すと両手でレオンハルトの頬を包み込んだ。そしてそのままレオンハルトに口付け、その唇をぺろぺろと舐める。
 くすぐったさに思わず笑みを漏らしたレオンハルトは、口を開け、舌を差し出した。すると、ルシアナは嬉しそうに舌に吸い付き、そのまま彼女の口内でレオンハルトの舌を愛でた。
 舌先にちゅうちゅうと吸い付き、拙く舌を舐めるルシアナに、レオンハルトのものが質量を増す。

(貴女に溺れて、どうにかなりそうだ……)

 レオンハルトは抽送を速めると、ルシアナの最奥を抉るように突き上げた。さすがに舐めていられなかったのか、レオンハルトの舌から口を離したルシアナは、レオンハルトの首に腕を回し抱き着く。
 互いの汗で肌がくっつき、彼女の荒い息が首筋にかかる。喘ぐ合間に何度も名前を呼ばれ、それが甘い毒のように脳内に染み渡っていった。

(……好きだ、ルシアナ)

「愛してる……っ」
「ぁっ――!」

 頬をすり寄せながら愛を囁けば、ルシアナは狂おしげレオンハルトの頭を掻き抱き、大きく体を震わせた。
 搾り取るように蠢く柔襞に持っていかれそうになるのを、奥歯を噛み締めて耐えると、レオンハルトは絡み付く襞を容赦なく擦っていく。

「ぁあっ、ぁっだめっ……! だめぇっ、レオンハルトさまっ……! あっ、ああっ!」
「だめではないだろう、ルシアナっ……っは、こんなに濡らして……っ」
「ああっんッ……っぁ、ン、だめ、ぇッ……! だめなのっ……!」
「ならっ……は、ここでやめるか?」

 微塵もやめる気がないまま問えば、ただでさえ狭い隘路がさらにきつく狭まった。

「ぁ、やだ、あっ……やめないでっおくっぁ、おくっくださっ……レオンハルトさまのっぜんぶっ」
「っ……ルシアナ!」
「あっ――ッ!」
「っく……!」

 ルシアナは体をのけ反らせ、声なく口をわななかせる。
 レオンハルトもきつく眉を寄せながら、誘われるまま痙攣する胎の奥に精を吐き出した。
 避妊薬を飲んでいる以上、ルシアナの中に出したものは何の意味もない体液だと理解している。それでも、己の精が愛しい人の胎を満たすのだと思うと、何とも言えない悦びが心の中に広がっていった。

(……俺もただの男なのだと、貴女に会って初めて知った)

 凶悪で甘美な果ての余韻に思考が鈍くなるのを感じながら、レオンハルトは両腕で優しくルシアナを抱き締めた。

「……ルシアナ、大丈夫か?」

 頬に軽く口付け、窺えば、虚空を見つめていたルシアナの瞳がレオンハルトを捉えた。ルシアナはすぐに満ち足りた笑みを浮かべると、レオンハルトに抱き着く。

「レオンハルトさま」

 甘く蕩けた声で名前を呼ばれ、愛おしさで胸が締め付けられる。
 頬に繰り返される口付けを受けながら、レオンハルトはルシアナの頭を撫でた。

「体は辛くないか?」
「はい」
「どこか痛めたところもないか?」
「はい」

 少し笑みを孕んだ返答に、レオンハルトはほっと息を吐き出すと、ルシアナをベッドに押し倒した。

「……なら、まだいいか?」

 汗で張り付いた髪を払うように彼女の額を撫でれば、ルシアナは数度瞬きを繰り返したのち、顔を綻ばせた。

「はい。もちろんですわ」

 両手を広げ受け入れることを示してくれたルシアナに、レオンハルトも小さく笑むと触れるだけの口付けを落とす。
 まるで前戯のような、丁寧な愛撫で彼女を蕩けさせながら、ルシアナの瞼が落ちるまで熱を分かち合った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...