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第十章
求め合う夜(四)
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粉末状の石鹸を手で泡立ててからレオンハルトの頭を揉み込んでいく。
ルシアナが洗いやすいよう、斜め上を向いたレオンハルトが、気持ちよさそうに小さく息を漏らした。
「……なんだか、手慣れてないか?」
「塔にいたころ、お姉様たちとこうしてよく洗い合いをしていましたから。あのときの経験が役に立ってよかったですわ」
ふふっと笑みを交えながら答えれば、レオンハルトは静かに「そうか」と返した。
「本当に仲が良いな、貴女たちは」
「はい。たくさん愛していただきましたし、わたくしも愛していますから」
「……そうか」
頭皮をまんべんなく揉み、髪の毛を泡で包んだルシアナは、バスタブのお湯で手に付いた泡を取り、手桶にお湯を入れる。
「流すので下を向いていただけますか?」
「ああ」
大人しく言われた通りに行動するレオンハルトに、ルシアナはゆっくりお湯をかけていく。泡を丁寧に流し、時折、手櫛を通して石鹸を流していった。
前側は見えないため、レオンハルトに手桶を渡す。先ほどまでルシアナがゆっくり流していたのとは裏腹に、彼は上を向いた瞬間、手桶をひっくり返し勢いよくお湯を被った。
濡れた髪を後ろに撫でつけている後姿を見つめながら、ルシアナはレオンハルトの肩をつつく。
「こちらを向いてくださいませんか?」
「……だめだ」
「何故ですか?」
「……触れたくなる」
「わたくしは構いませんが……」
「俺が構うんだ」
食い気味に、少し強めにそう告げられたルシアナは、数回瞬きを繰り返したあと、ぷくっと頬を膨らませた。
「……わかりました。では、お背中をお流ししますので、バスタブのへりに腰をおかけください」
「……わかった」
背中を向けているレオンハルトは、ルシアナがどんな表情を浮かべているのかわからないのだろう。溜息交じりに返事をすると、腰に巻いていたらしいタオルをしっかりと押さえながらバスタブのへりに座り、スポンジを差し出した。
立ち上がり、それを無言で受け取ったルシアナは、しっかりと泡立ててから優しく背中を洗っていく。
角張り、無駄な肉がなく、ところどころ隆起している、鍛え上げられた逞しい背中だ。
(わたくしはレオンハルト様のお背中と会話したいわけではないのに……素敵だけれど!)
頬をぱんぱんに膨らませながら、それでも丁寧にレオンハルトの背中全体を洗ったルシアナは、無言でスポンジを差し出す。レオンハルトがスポンジを受け取るとすぐにバスタブに体を沈め、レオンハルトに背中を向けた。
「……ルシアナ?」
少しして、何かに気付いたのか、レオンハルトが窺うようにルシアナの名を呼ぶ。ルシアナは反射的に返事をしそうになったものの、出かかったものをぐっと飲み込み、無言を貫く。
レオンハルトがいない側のへりに腕を置き、そこに膨れた頬を乗せながら、モスグリーンの壁をじっと見つめた。
後ろから聞こえる慌てたような物音や、出続けている水栓からお湯を汲んでいるのであろう水音に耳を傾けながら、ルシアナは、ふっと息を吐く。それによって頬の膨らみは消えたものの、それは一瞬のことで、すぐに頬は膨らみを取り戻した。
(!? も、戻らないわ……!?)
ルシアナは慌てて顔を上げると、レオンハルトに背を向けたまま両手で頬を揉む。
壁に向かって話しているような状況が寂しくて、一緒にいられることに自分だけが喜んでいるようで悲しくて、思わず頬が膨らんでしまったが、こんな無様な顔をレオンハルトに晒したいわけではない。
「ルシアナ……ルシアナ、こちらを向いてくれないか?」
無様な顔を晒したいわけではないのに、うなじにそっと触れられると、自然と頬が膨らんだ。揉む手を止め、ヘリを掴んで、体を小さくして背中を丸める。
うなじを優しく撫でていた指先が離れ、出続けていた水栓が止まったかと思うと、水面が揺れた。
レオンハルトが中に入ってきたのだと察したルシアナは、へり伝いに水栓があるほうとは逆側に行き、体を縮こまらせた。
レオンハルトが身を沈めたのか、お湯が溢れ、流れていく。その音をどこか遠くに聞いていると、後ろから腹に手が回り抱き締められた。
「ルシアナ……」
頭にかかる熱い吐息を感じながら、ルシアナは、すんっと鼻を啜る。
「……わたくしを視界に入れたくなかったのではないですか?」
「違う! 違う……違うんだ、ルシアナ」
力強く引き寄せられ、ルシアナは呆気なくへりから手を離す。
滲む視界の中、揺れる水面にぽたぽたと落ちる滴を見つめていたルシアナは、背中に当たっている熱くて硬いものに気付き、レオンハルトを振り返る。
ルシアナの顔を見下ろしたレオンハルトは、悲痛そうに顔を歪めると、濡れる頬を撫でた。
「すまない、自分がこんな状態だと知られたくなくて、貴女を突き放すような言い方をしてしまった。本当にすまない」
レオンハルトがあまりにも悲しそうな表情を浮かべているのを見て、ひどく胸が痛んだ。ルシアナは体の向きを変え、正面からレオンハルトを見上げると、彼の両頬を手で包み込んだ。
「何故知られたくないのですか?」
「……貴女に、肉欲ばかり抱いていると……思われたくなくて……」
「わたくしはそのようなこと……」
思わない、と口にしようとして黙る。口で言うのは簡単だ。しかし、それを信じてもらうには行動が伴わなければならない。
(それなら……)
ルシアナはレオンハルトの頬から手を離すと、バスタブのへりを軽く叩く。
「座ってください」
「……は……?」
「こちらを向いて、座ってください」
レオンハルトは力なく数度口を動かすと、ルシアに言われた通り、バスタブの内側に向かってへりに腰掛けた。
彼の足の間にあるものは立派に天を向き、今にも破裂してしまいそうだった。
ルシアナはレオンハルトの足の間に移動すると、何とも言えない表情で自分を見下ろすレオンハルトを見つめた。
「レオンハルト様。わたくしだって……レオンハルト様に肉欲を抱いておりますわ」
「! 待っ……ルシ――っ」
レオンハルトに制止されるより早く、ルシアナは彼のものを両手で包み、その先端を口に含んだ。
ルシアナが洗いやすいよう、斜め上を向いたレオンハルトが、気持ちよさそうに小さく息を漏らした。
「……なんだか、手慣れてないか?」
「塔にいたころ、お姉様たちとこうしてよく洗い合いをしていましたから。あのときの経験が役に立ってよかったですわ」
ふふっと笑みを交えながら答えれば、レオンハルトは静かに「そうか」と返した。
「本当に仲が良いな、貴女たちは」
「はい。たくさん愛していただきましたし、わたくしも愛していますから」
「……そうか」
頭皮をまんべんなく揉み、髪の毛を泡で包んだルシアナは、バスタブのお湯で手に付いた泡を取り、手桶にお湯を入れる。
「流すので下を向いていただけますか?」
「ああ」
大人しく言われた通りに行動するレオンハルトに、ルシアナはゆっくりお湯をかけていく。泡を丁寧に流し、時折、手櫛を通して石鹸を流していった。
前側は見えないため、レオンハルトに手桶を渡す。先ほどまでルシアナがゆっくり流していたのとは裏腹に、彼は上を向いた瞬間、手桶をひっくり返し勢いよくお湯を被った。
濡れた髪を後ろに撫でつけている後姿を見つめながら、ルシアナはレオンハルトの肩をつつく。
「こちらを向いてくださいませんか?」
「……だめだ」
「何故ですか?」
「……触れたくなる」
「わたくしは構いませんが……」
「俺が構うんだ」
食い気味に、少し強めにそう告げられたルシアナは、数回瞬きを繰り返したあと、ぷくっと頬を膨らませた。
「……わかりました。では、お背中をお流ししますので、バスタブのへりに腰をおかけください」
「……わかった」
背中を向けているレオンハルトは、ルシアナがどんな表情を浮かべているのかわからないのだろう。溜息交じりに返事をすると、腰に巻いていたらしいタオルをしっかりと押さえながらバスタブのへりに座り、スポンジを差し出した。
立ち上がり、それを無言で受け取ったルシアナは、しっかりと泡立ててから優しく背中を洗っていく。
角張り、無駄な肉がなく、ところどころ隆起している、鍛え上げられた逞しい背中だ。
(わたくしはレオンハルト様のお背中と会話したいわけではないのに……素敵だけれど!)
頬をぱんぱんに膨らませながら、それでも丁寧にレオンハルトの背中全体を洗ったルシアナは、無言でスポンジを差し出す。レオンハルトがスポンジを受け取るとすぐにバスタブに体を沈め、レオンハルトに背中を向けた。
「……ルシアナ?」
少しして、何かに気付いたのか、レオンハルトが窺うようにルシアナの名を呼ぶ。ルシアナは反射的に返事をしそうになったものの、出かかったものをぐっと飲み込み、無言を貫く。
レオンハルトがいない側のへりに腕を置き、そこに膨れた頬を乗せながら、モスグリーンの壁をじっと見つめた。
後ろから聞こえる慌てたような物音や、出続けている水栓からお湯を汲んでいるのであろう水音に耳を傾けながら、ルシアナは、ふっと息を吐く。それによって頬の膨らみは消えたものの、それは一瞬のことで、すぐに頬は膨らみを取り戻した。
(!? も、戻らないわ……!?)
ルシアナは慌てて顔を上げると、レオンハルトに背を向けたまま両手で頬を揉む。
壁に向かって話しているような状況が寂しくて、一緒にいられることに自分だけが喜んでいるようで悲しくて、思わず頬が膨らんでしまったが、こんな無様な顔をレオンハルトに晒したいわけではない。
「ルシアナ……ルシアナ、こちらを向いてくれないか?」
無様な顔を晒したいわけではないのに、うなじにそっと触れられると、自然と頬が膨らんだ。揉む手を止め、ヘリを掴んで、体を小さくして背中を丸める。
うなじを優しく撫でていた指先が離れ、出続けていた水栓が止まったかと思うと、水面が揺れた。
レオンハルトが中に入ってきたのだと察したルシアナは、へり伝いに水栓があるほうとは逆側に行き、体を縮こまらせた。
レオンハルトが身を沈めたのか、お湯が溢れ、流れていく。その音をどこか遠くに聞いていると、後ろから腹に手が回り抱き締められた。
「ルシアナ……」
頭にかかる熱い吐息を感じながら、ルシアナは、すんっと鼻を啜る。
「……わたくしを視界に入れたくなかったのではないですか?」
「違う! 違う……違うんだ、ルシアナ」
力強く引き寄せられ、ルシアナは呆気なくへりから手を離す。
滲む視界の中、揺れる水面にぽたぽたと落ちる滴を見つめていたルシアナは、背中に当たっている熱くて硬いものに気付き、レオンハルトを振り返る。
ルシアナの顔を見下ろしたレオンハルトは、悲痛そうに顔を歪めると、濡れる頬を撫でた。
「すまない、自分がこんな状態だと知られたくなくて、貴女を突き放すような言い方をしてしまった。本当にすまない」
レオンハルトがあまりにも悲しそうな表情を浮かべているのを見て、ひどく胸が痛んだ。ルシアナは体の向きを変え、正面からレオンハルトを見上げると、彼の両頬を手で包み込んだ。
「何故知られたくないのですか?」
「……貴女に、肉欲ばかり抱いていると……思われたくなくて……」
「わたくしはそのようなこと……」
思わない、と口にしようとして黙る。口で言うのは簡単だ。しかし、それを信じてもらうには行動が伴わなければならない。
(それなら……)
ルシアナはレオンハルトの頬から手を離すと、バスタブのへりを軽く叩く。
「座ってください」
「……は……?」
「こちらを向いて、座ってください」
レオンハルトは力なく数度口を動かすと、ルシアに言われた通り、バスタブの内側に向かってへりに腰掛けた。
彼の足の間にあるものは立派に天を向き、今にも破裂してしまいそうだった。
ルシアナはレオンハルトの足の間に移動すると、何とも言えない表情で自分を見下ろすレオンハルトを見つめた。
「レオンハルト様。わたくしだって……レオンハルト様に肉欲を抱いておりますわ」
「! 待っ……ルシ――っ」
レオンハルトに制止されるより早く、ルシアナは彼のものを両手で包み、その先端を口に含んだ。
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