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嫌がらせの始まり
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「全く、一体人を何だと思っているんだ!」
家臣が去った後もロルスの怒りは収まらないようだった。
が、対照的にレイノルズ侯爵は頭を抱えている。
「やはりオールストン公爵も敵に回ったか。一体どうなるものか」
私も自分の家の大きさが分かっているだけに無責任に「大丈夫ですよ」とは言えない。とはいえこれは私たち全員で決めたことでもあるから私だけが過剰に責任を感じ続けるのも逆に失礼だ。
そう思って私はそれ以上何も言うことは出来なかった。
「大変です、領地からの税が届いてません!」
「何だと!?」
数日後、家臣が血相を変えて飛び込んでくる。
それを聞いて侯爵も表情を変えた。
「一体どういうことだ」
「それが、領地で納税された特産品の香辛料を王都に向けて運んでいた者たちなのですが、そこに謎の人物が現れて、運ばなくて良くなったと言われた、と」
「何でその謎の人物の言うことを聞いたんだ。そいつはわしの家臣の振りをしていたのか?」
それを聞かれて家臣は首をかしげる。
「いえ、そういう訳ではないと思います。届かなかったことに異常を感じて調べようとしたところ、たまたま人夫の一人がそのまま王都に用があるからと手ぶらで王都にやってきたことで真相が分かったということなのですが、彼によると謎の人物は本当に知らない人だったということです」
「それで、人足頭がそいつの言う通りにほいほいと隊列を解散したと?」
末端の人足ならまだしも人足頭にはそのようなことをしない信頼のある人物が選ばれているはずだ。
そのため侯爵は信じられない、という風に首をかしげる。
「正確には、彼と親しい数人で近くの都市に物資を運ぶことになったので他の者はもう帰っていい、と給料だけ渡されて解散したようです」
「なんと……ちなみにその都市は」
「マンダールです」
「はっ」
それを聞いて私は息を飲んだ。そこは私の、というかオールストン公爵家の領地にある都市だからだ。侯爵もそれを理解したのか顔が青ざめていく。
「つまり、オールストン公爵の手の者が買収なり脅迫なりで我が家の人足頭に物資を横領させた、と」
「おそらくそういうことだと」
「何と言うことだ……」
そう言って侯爵は天を仰いだ。
「その謎の人物の行方は……」
「全く分かりません」
家臣は力なく首を横に振った。
それを聞いて私も背筋が震える。特産品を運ぶという仕事を任されているからには人足頭はおそらく歴が長いか信頼がおける人物だったのだろう。それを買収するなら多額の鐘が必要で、脅迫するなら周到な準備が必要なはずだ。
それにそんなことをすれば当然周囲の顰蹙を買う。損得勘定で言えば物資を奪ってもなお損の方が大きい行為であり、つまり嫌がらせだろう。
しかもこちらは今のところ全く証拠を掴んでいない。仮に今の情報だけで問い詰めたとしても、
「あなたの家の家臣の管理不行き届きでは?」
と一蹴されるだけだ。その予想がつくからこそ、私は父上のやり方に震えた。
やはり彼にとって人は駒に過ぎないし、望む結果を手に入れるためならば何でもやるということなのだろう。
家臣が去った後もロルスの怒りは収まらないようだった。
が、対照的にレイノルズ侯爵は頭を抱えている。
「やはりオールストン公爵も敵に回ったか。一体どうなるものか」
私も自分の家の大きさが分かっているだけに無責任に「大丈夫ですよ」とは言えない。とはいえこれは私たち全員で決めたことでもあるから私だけが過剰に責任を感じ続けるのも逆に失礼だ。
そう思って私はそれ以上何も言うことは出来なかった。
「大変です、領地からの税が届いてません!」
「何だと!?」
数日後、家臣が血相を変えて飛び込んでくる。
それを聞いて侯爵も表情を変えた。
「一体どういうことだ」
「それが、領地で納税された特産品の香辛料を王都に向けて運んでいた者たちなのですが、そこに謎の人物が現れて、運ばなくて良くなったと言われた、と」
「何でその謎の人物の言うことを聞いたんだ。そいつはわしの家臣の振りをしていたのか?」
それを聞かれて家臣は首をかしげる。
「いえ、そういう訳ではないと思います。届かなかったことに異常を感じて調べようとしたところ、たまたま人夫の一人がそのまま王都に用があるからと手ぶらで王都にやってきたことで真相が分かったということなのですが、彼によると謎の人物は本当に知らない人だったということです」
「それで、人足頭がそいつの言う通りにほいほいと隊列を解散したと?」
末端の人足ならまだしも人足頭にはそのようなことをしない信頼のある人物が選ばれているはずだ。
そのため侯爵は信じられない、という風に首をかしげる。
「正確には、彼と親しい数人で近くの都市に物資を運ぶことになったので他の者はもう帰っていい、と給料だけ渡されて解散したようです」
「なんと……ちなみにその都市は」
「マンダールです」
「はっ」
それを聞いて私は息を飲んだ。そこは私の、というかオールストン公爵家の領地にある都市だからだ。侯爵もそれを理解したのか顔が青ざめていく。
「つまり、オールストン公爵の手の者が買収なり脅迫なりで我が家の人足頭に物資を横領させた、と」
「おそらくそういうことだと」
「何と言うことだ……」
そう言って侯爵は天を仰いだ。
「その謎の人物の行方は……」
「全く分かりません」
家臣は力なく首を横に振った。
それを聞いて私も背筋が震える。特産品を運ぶという仕事を任されているからには人足頭はおそらく歴が長いか信頼がおける人物だったのだろう。それを買収するなら多額の鐘が必要で、脅迫するなら周到な準備が必要なはずだ。
それにそんなことをすれば当然周囲の顰蹙を買う。損得勘定で言えば物資を奪ってもなお損の方が大きい行為であり、つまり嫌がらせだろう。
しかもこちらは今のところ全く証拠を掴んでいない。仮に今の情報だけで問い詰めたとしても、
「あなたの家の家臣の管理不行き届きでは?」
と一蹴されるだけだ。その予想がつくからこそ、私は父上のやり方に震えた。
やはり彼にとって人は駒に過ぎないし、望む結果を手に入れるためならば何でもやるということなのだろう。
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