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来客Ⅰ
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翌日、私の部屋にはいつものように朝食が届けられた。せめて一緒に食卓を囲むことが出来ればまだ話しようもあるのだが、これでは難しい。
とはいえ、いきなり「話があります。私はどれだけ魔法が使えるようになってもこの屋敷を出ていく気はありません」と切り出すのも唐突過ぎる気がする。いきなりそんなことを言っても、逆に「そういうアピールをしている」と受け取られかねない。そもそも結婚という一番強い結びつきであるのに信じられていない以上、言葉だけで伝えるのは難しいだろう。
やはり出来れば自然に仲良くなって本心を伝えたい。
そう思った私はそれから数日間、魔法の練習をしながら様子をうかがった。貴族が習う魔法は精霊術が主流らしいので、様々な精霊の召喚を中心に練習したが、一通りできるようになると普通の魔術師が使うような魔法も練習する。
そんなある日のことである。
その日朝食を持ってきたメイドが何気なく言った。
「そう言えば今日はマロード侯爵がうちにやってくるらしいです」
「そうですか」
それを聞いて私は微妙な気持ちになる。
マロード侯爵と言えば金持ちで有名な貴族です。ここレイノルズ家と同じ侯爵位ですが、その財力は文字通り桁が違うとすら言われている。
そのせいなのかどうかは分からないが、侯爵はとても性格が悪いと評判で、自分と同格以下の貴族のことと会うと軽蔑を隠さずに接し、公爵位の貴族に出会うと手の平を返したようにおべっかをたれると言われている。
「そのため部屋にいるか、もしくは思い切って外出されるのがよろしいかと」
メイドは恐らく私に対する親切のつもりでそう言う。
ちなみに普通屋敷に偉い人がやってくる場合、妻はもてなしの手伝いをしなければならないが、そういうことは当然私に求められていないらしい。
もしくは私が出ていくことで「出来損ないを押し付けられて可哀想に」などと馬鹿にされたくない思いがあるのかもしれない。
「……分かった」
が、メイドが帰っていったところで私は少し考える。
普通なら面倒な相手が来て関わらないことが出来るのであれば全力で関わらないが、今はうまくいけばロルスの私への印象を多少は変えることが出来るかもしれない。
そう思った私は庭にいる振りをして、風の魔法を使い、屋敷の応接室から少し離れたところから見守ることにした。
これで中は見えないが、中の音は聞こえてくるはずだ。
やがてマロード侯爵がやってきたのだろう、レイノルズ侯爵とロルスが出迎えにいく。お玄関での会話はよく聞き取れなかったが早速、
「ほう、レイノルズ侯爵はこのような屋敷に住んでいらっしゃるのですか。大層倹約家ですな」
などと馬鹿にするような声が聞こえてくる。それに対し、この前私に対してあそこまで不愛想だった侯爵もロルスも愛想笑いをするばかりで、何も言い返さない。
その空気が伝わって来て、聴いているだけの私でも気分が悪くなってくるようだ。
やがて、侯爵が応接間にやってくると、我が家のメイドが紅茶とお茶菓子を持っていく。
「この家では客人にこのような安物の菓子と紅茶を出すのですか。一瞬生ゴミかと思いましたよ」
「も、申し訳ありません。これが当家で出せる精いっぱいのものでして」
「そうですか。まあ出された物を食べないというのも無礼ですから、仕方ないですから食べてあげましょう……ふむ、まあいかにも庶民が喜んで食べていそうなものですな」
それを聞いて私まで腹が立ったが、ロルスの返答は
「はい、我らは侯爵閣下に比べれば庶民も同然でございます」
というへりくだったものだった。
そしてそれを聞いてマロード侯爵は満足そうに笑う。
「そうかそうか、それでは庶民同然のおぬしらにも出来ることを教えてあげよう。出せる紅茶が水同然と言うなら、せめてそれを下人に注がせるのではなく、自分でついではいかがかな?」
「わ、分かりました。今お注ぎします」
そう言って侯爵が紅茶を注ぐ音が聞こえてくる。
「おお、いい眺めではないか」
そう言ってマロード侯爵は愉快そうに手を叩く。
私にあのような対応をしたレイノルズ侯爵がこのように扱われていることに快感を感じるかとも思ったが、マロード侯爵への不快感が圧倒的すぎて、そうも思わない。
そんな様子を聞いて私は是非一泡吹かせてやらなければ、と思うのだった。
とはいえ、いきなり「話があります。私はどれだけ魔法が使えるようになってもこの屋敷を出ていく気はありません」と切り出すのも唐突過ぎる気がする。いきなりそんなことを言っても、逆に「そういうアピールをしている」と受け取られかねない。そもそも結婚という一番強い結びつきであるのに信じられていない以上、言葉だけで伝えるのは難しいだろう。
やはり出来れば自然に仲良くなって本心を伝えたい。
そう思った私はそれから数日間、魔法の練習をしながら様子をうかがった。貴族が習う魔法は精霊術が主流らしいので、様々な精霊の召喚を中心に練習したが、一通りできるようになると普通の魔術師が使うような魔法も練習する。
そんなある日のことである。
その日朝食を持ってきたメイドが何気なく言った。
「そう言えば今日はマロード侯爵がうちにやってくるらしいです」
「そうですか」
それを聞いて私は微妙な気持ちになる。
マロード侯爵と言えば金持ちで有名な貴族です。ここレイノルズ家と同じ侯爵位ですが、その財力は文字通り桁が違うとすら言われている。
そのせいなのかどうかは分からないが、侯爵はとても性格が悪いと評判で、自分と同格以下の貴族のことと会うと軽蔑を隠さずに接し、公爵位の貴族に出会うと手の平を返したようにおべっかをたれると言われている。
「そのため部屋にいるか、もしくは思い切って外出されるのがよろしいかと」
メイドは恐らく私に対する親切のつもりでそう言う。
ちなみに普通屋敷に偉い人がやってくる場合、妻はもてなしの手伝いをしなければならないが、そういうことは当然私に求められていないらしい。
もしくは私が出ていくことで「出来損ないを押し付けられて可哀想に」などと馬鹿にされたくない思いがあるのかもしれない。
「……分かった」
が、メイドが帰っていったところで私は少し考える。
普通なら面倒な相手が来て関わらないことが出来るのであれば全力で関わらないが、今はうまくいけばロルスの私への印象を多少は変えることが出来るかもしれない。
そう思った私は庭にいる振りをして、風の魔法を使い、屋敷の応接室から少し離れたところから見守ることにした。
これで中は見えないが、中の音は聞こえてくるはずだ。
やがてマロード侯爵がやってきたのだろう、レイノルズ侯爵とロルスが出迎えにいく。お玄関での会話はよく聞き取れなかったが早速、
「ほう、レイノルズ侯爵はこのような屋敷に住んでいらっしゃるのですか。大層倹約家ですな」
などと馬鹿にするような声が聞こえてくる。それに対し、この前私に対してあそこまで不愛想だった侯爵もロルスも愛想笑いをするばかりで、何も言い返さない。
その空気が伝わって来て、聴いているだけの私でも気分が悪くなってくるようだ。
やがて、侯爵が応接間にやってくると、我が家のメイドが紅茶とお茶菓子を持っていく。
「この家では客人にこのような安物の菓子と紅茶を出すのですか。一瞬生ゴミかと思いましたよ」
「も、申し訳ありません。これが当家で出せる精いっぱいのものでして」
「そうですか。まあ出された物を食べないというのも無礼ですから、仕方ないですから食べてあげましょう……ふむ、まあいかにも庶民が喜んで食べていそうなものですな」
それを聞いて私まで腹が立ったが、ロルスの返答は
「はい、我らは侯爵閣下に比べれば庶民も同然でございます」
というへりくだったものだった。
そしてそれを聞いてマロード侯爵は満足そうに笑う。
「そうかそうか、それでは庶民同然のおぬしらにも出来ることを教えてあげよう。出せる紅茶が水同然と言うなら、せめてそれを下人に注がせるのではなく、自分でついではいかがかな?」
「わ、分かりました。今お注ぎします」
そう言って侯爵が紅茶を注ぐ音が聞こえてくる。
「おお、いい眺めではないか」
そう言ってマロード侯爵は愉快そうに手を叩く。
私にあのような対応をしたレイノルズ侯爵がこのように扱われていることに快感を感じるかとも思ったが、マロード侯爵への不快感が圧倒的すぎて、そうも思わない。
そんな様子を聞いて私は是非一泡吹かせてやらなければ、と思うのだった。
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