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ロルスⅡ
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「……まあそれは良かったが、それでこれからどうするんだ?」
が、私の言うことを理解したロルスの反応は冷たかった。
確かに私が魔法が使えるようになっても嬉しくないということだろうか。でも、元々の評判と違って魔法が使えなかったから私に冷たい態度をとったということなら、魔法が使えるようになった今は態度を改めてくれてもいいのに。
というか、どうするんだ、とはどういう意味だろう。私も子供じゃないし、魔法が使えるようになったからといって誰かに復讐とかするつもりはないが。
「どうと言われても……練習とかはしようと思いますが」
「……そうか、まあせいぜい頑張るといい」
そう言ってロルスは踵を返して立ち去っていく。
別にロルスにどう思われようと構わないはずなのに、せっかく魔法が使えて嬉しかった喜びに水を差されたようだ。
別に自分が好意を抱いてない相手であってもはっきりと敵意を抱かれていると嫌な気持ちにはなるらしい。
その日の夜、私は一人で夕食を食べてふとお風呂についての話を聞くのを忘れたと思い、メイドを探して屋敷の中を歩く。
すると屋敷のダイニングの方から話し声が聞こえてきた。
メイドが後片付けでもしているのかと思ってそちらへ歩いていくと、聞こえてきたのはロルスとレイノルズ侯爵の声だった。
「……と言う訳でレイラは魔法が使えるようになったらしい」
「まさかそんなことがあるとはな。ということは別に実家で安楽をむさぼっていて追い出されたという訳ではなく本当に事情があって魔法が使えなかったということか」
レイノルズ侯爵は驚いたように話している。
が、ロルスの答えは冷たい。
「そういうことでしょう。しかし父上、どうせ彼女はある程度魔法が使えるようになればうちのような貧乏貴族には適当な理由をつけて離縁し、オーガスト家に戻るのではないでしょうか?」
「だろうな」
ロルスの言葉を聞いて私ははっと息を呑む。同時になるほど、それでロルスは昼間に私が魔法を使えるようになったと聞いた時の反応が微妙だったのか、と納得もした。
私は実家のこともブランドのことも嫌気が差していたからそんな選択は考えもしなかったが、冷静に考えてみれば至極当然の考えだった。
普通に考えて貧乏貴族に嫁ぐのは武門の名家として知られるオーガスト家の跡継ぎと結婚した方がいいし、追い出されるようにして出てきた実家にも魔法が使えるようになったと言って、再び帰れるようになった方がいいに決まっている。
仮に私からそれを言わなかったとしても、父上だって話を聞けば私を呼び戻そうとするかもしれない。
そう考えるとロルスの推測はそこまで的外れでもなかった。
特に、自分が出来の悪い令嬢の押し付け先だという被害者意識があることを考えると当然と言えるだろう。
そしてそれを知って私はほっとした。別に私が嫌われていたという訳ではなかったらしい。
それに私自身は実家に戻ろうという意志は全くない。
「うむ……そのようなことになれば我が家の面子は丸つぶれだ」
「父上、こんな屈辱的な結婚を拒否できない時点ですでに面子なんてものはありません」
「済まぬ……それについてはまさかこんな事情があるとは思わず、騙されていたというのもあったのだ」
ロルスに対して侯爵は申し訳なさそうな声をあげる。
それを聞いて私はいたたまれない気持ちになり、その場を離れる。
そしてお風呂に入るような気分でもなくなり、自室に戻るとベッドの上で横になる。そして考えた。私は絶対あんな家にもブランドの元にも戻りたくない。
ではどうやったら侯爵とロルスの心証を良くすることが出来るだろうか。
自分の本音さえ伝えれば関係が改善できるかとも思ったけど、ただ伝えただけだと「口先だけだ」と言われてしまいそうだ。私は改めてロルスとの間にある壁の高さを思い知った。
が、私の言うことを理解したロルスの反応は冷たかった。
確かに私が魔法が使えるようになっても嬉しくないということだろうか。でも、元々の評判と違って魔法が使えなかったから私に冷たい態度をとったということなら、魔法が使えるようになった今は態度を改めてくれてもいいのに。
というか、どうするんだ、とはどういう意味だろう。私も子供じゃないし、魔法が使えるようになったからといって誰かに復讐とかするつもりはないが。
「どうと言われても……練習とかはしようと思いますが」
「……そうか、まあせいぜい頑張るといい」
そう言ってロルスは踵を返して立ち去っていく。
別にロルスにどう思われようと構わないはずなのに、せっかく魔法が使えて嬉しかった喜びに水を差されたようだ。
別に自分が好意を抱いてない相手であってもはっきりと敵意を抱かれていると嫌な気持ちにはなるらしい。
その日の夜、私は一人で夕食を食べてふとお風呂についての話を聞くのを忘れたと思い、メイドを探して屋敷の中を歩く。
すると屋敷のダイニングの方から話し声が聞こえてきた。
メイドが後片付けでもしているのかと思ってそちらへ歩いていくと、聞こえてきたのはロルスとレイノルズ侯爵の声だった。
「……と言う訳でレイラは魔法が使えるようになったらしい」
「まさかそんなことがあるとはな。ということは別に実家で安楽をむさぼっていて追い出されたという訳ではなく本当に事情があって魔法が使えなかったということか」
レイノルズ侯爵は驚いたように話している。
が、ロルスの答えは冷たい。
「そういうことでしょう。しかし父上、どうせ彼女はある程度魔法が使えるようになればうちのような貧乏貴族には適当な理由をつけて離縁し、オーガスト家に戻るのではないでしょうか?」
「だろうな」
ロルスの言葉を聞いて私ははっと息を呑む。同時になるほど、それでロルスは昼間に私が魔法を使えるようになったと聞いた時の反応が微妙だったのか、と納得もした。
私は実家のこともブランドのことも嫌気が差していたからそんな選択は考えもしなかったが、冷静に考えてみれば至極当然の考えだった。
普通に考えて貧乏貴族に嫁ぐのは武門の名家として知られるオーガスト家の跡継ぎと結婚した方がいいし、追い出されるようにして出てきた実家にも魔法が使えるようになったと言って、再び帰れるようになった方がいいに決まっている。
仮に私からそれを言わなかったとしても、父上だって話を聞けば私を呼び戻そうとするかもしれない。
そう考えるとロルスの推測はそこまで的外れでもなかった。
特に、自分が出来の悪い令嬢の押し付け先だという被害者意識があることを考えると当然と言えるだろう。
そしてそれを知って私はほっとした。別に私が嫌われていたという訳ではなかったらしい。
それに私自身は実家に戻ろうという意志は全くない。
「うむ……そのようなことになれば我が家の面子は丸つぶれだ」
「父上、こんな屈辱的な結婚を拒否できない時点ですでに面子なんてものはありません」
「済まぬ……それについてはまさかこんな事情があるとは思わず、騙されていたというのもあったのだ」
ロルスに対して侯爵は申し訳なさそうな声をあげる。
それを聞いて私はいたたまれない気持ちになり、その場を離れる。
そしてお風呂に入るような気分でもなくなり、自室に戻るとベッドの上で横になる。そして考えた。私は絶対あんな家にもブランドの元にも戻りたくない。
ではどうやったら侯爵とロルスの心証を良くすることが出来るだろうか。
自分の本音さえ伝えれば関係が改善できるかとも思ったけど、ただ伝えただけだと「口先だけだ」と言われてしまいそうだ。私は改めてロルスとの間にある壁の高さを思い知った。
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