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十四話 するって何を?

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「い、今すぐって、何を?」

(何をするって?)

「話聞いてなかったのか?」
「いや、だって、お前怪我してるのに……」

 クロードは一瞬きょとんとしたが、そのあと珍しく微かに口角を上げた。

「結婚のことだ」
「えぇっ?」
「夫婦生活のこと考えたのか?」

 セルジュはかっと赤くなると、むんずっと枕を引っ掴んでクロードの顔面に思い切り殴りかかった。

「お前が! こんな体勢で言うからだろ! 今すぐって、夜中に籍を入れられるわけないだろうが!」

 クロードはさっと枕をよけると、セルジュの手首を掴んで寝具の中に引き摺り込んだ。

「もちろんこっちだっていい」
「あっ」

 クロードはセルジュを自身の下にうつ伏せに組み敷くと、うなじにかかっている金髪をかきあげて露わになったそこに舌を這わせた。

「ふ、あぁっ」

 ぞくりとした快感に震える背中を背後から抱いて、左手で顎を掴んで少し持ち上げると、クロードはいましがた舌を這わせたそこに軽く歯を立てた。

「法律で結ばれるのが先か、それともここに噛み跡をつけるのが先か、俺はどっちでもいい」
「お、まえ、手は痛むんじゃ……」

 痛むって? ああそりゃ痛むさ。ずっと両手が燃えているようにジリジリ痛む。だがお前のことを考えるだけで、手どころか全身がいつも焼かれるように疼いていた。もしお前の全てを手に入れられるのなら、鉄球に両手を焼かれる痛みなど造作もないことだ。

「んあっ!」

 クロードは右手をセルジュのシャツの下から差し込むと、胸を弄って小さな尖を捉えた。指先で先端を円を描くように撫でると、我慢できずにセルジュが背中を弓形に逸らす。クロードは彼の白い首や肩を何箇所か吸うと、胸を撫でていた手を今度はズボンの中に滑り込ませようとした。

「! そこはダメだっ!」

 セルジュは自分の前に触れようとしたクロードの手を思いっきり抓った。痛みにクロードが怯んだ隙に、なんとか逞しい腕の拘束から抜け出すと、はあはあと息を切らしながらクロードと向き合った。クロードも軽く息が上がっていて、セルジュが今まで見たこともないような表情をしていた。まっすぐ自分を見る目には情欲の炎がちらつき、いつもの無表情からは想像できないほど色気が溢れている。セルジュは思わずごくりと唾を飲み込んだ。

『……少しでも哀れに思うんなら、ちょっとぐらい優しくしてやっておくれよ』

 カトリーヌの言葉が脳裏に響き、セルジュはガシガシと頭を掻いた。

(ああもう、今日だけだ! こんなことになったのは俺のせいでもあるし。まあこいつが最初から俺のこと監禁しなけりゃ済んだ話なんだけど……)

 セルジュは一度深呼吸して覚悟を決めると、先ほどから硬く勃ち上がって服越しに触れているクロードのそこへ手を伸ばした。

「っ!」
「て、手でいいだろ?」

 子供がいるのに今更だが、記憶の上では自分はまだ処女だ。さすがに身体を許すのには勇気が足りなかった。

 恐る恐るクロードのズボンに手を差し込むと、すぐに熱くて硬いそれに手が触れた。

(う、わ……)

 なるべくそれを見ないようにズボンの中から引き出し、自分が自慰行為をする時の要領で軽く握って扱いてみる。見ていなくてもその大きさが、自分のものよりだいぶ大きいことが伺えた。

(まじかよ。さすがはアルファ様だな)

「セルジュ」

 名前を呼ばれて顔を上げた瞬間唇を奪われた。クロードは左手でセルジュの後頭部を押さえて口付けを深めると、右手で拙い動きでクロードを扱くセルジュの手を握って一緒に動かし始めた。

「んんっ」

 先走りがセルジュの手を濡らし、上下に扱くたびに卑猥な水音が鳴った。似たような音は深く重ねられた上の口からも聞こえていて、羞恥心でセルジュはおかしくなりそうだった。

「んっ、クロード……」

 口付けが離れると同時に、クロードはセルジュの頭頂を抑えて顎を上向かせ、露わになった首筋にまるで血を飲むかのように吸い付いた。

「ああっ!」

 思わず出た喘ぎ声はアルファを刺激するのに十分だったらしく、クロードが片手でセルジュにしがみついて肩を震わせるのと同時に、飛び出した粘液がセルジュの手や服を濡らした。

「っはぁ……」

(生まれて初めて人をイかせた……俺の記憶では、の話だけど)

 クロードは射精の余韻に浸るように、セルジュの首に顔を埋めたまま肩を小さく上下させている。

(でも、いつもスカしてるこいつが余裕を無くしてる様を見るのは、ちょっと愉快だったかも)

「何笑ってるんだ?」
「え?」

 まだ息が整っていないにも関わらず、クロードは再びセルジュのズボンに手を伸ばしてきた。

(しまった! 油断……ん?)

 クロードが腕を伸ばす途中の動きをピタリと止めた。

「あ……」

 二人が同時に顔を上げ、視線が絡んだ。何が起こったのか二人同時に理解して、セルジュの顔にじわじわと熱が上がってきた。

「セルジュ、お前……」
「やめろ! 何も言うな!」

 触れていたのはクロードのもので、二人ともセルジュのものには一切触れていない。それなのにセルジュのズボンは、クロードの出したものだけでは明らかに説明できないほど濡れていた。

(何でだ? 俺のは触ってもいないのに……まさかこいつのを触っただけでイっちまったのか?)

「首にキスした時じゃないか?」
「えっ?」
「いい声で喘いでたから。俺もそれを聞いて限界だった」

 クロードは先ほど吸った首筋に再び唇を寄せようと近づいた。

「もう一度聞かせろ」

 セルジュは今度こそクロードの顔面に枕を思い切りぶつけるのに成功した。

「ぶっ!」
「調子に乗るな!」

 しかしクロードは両腕でガシッとセルジュの腰を抱え込むと、そのまま寝台へ倒れ込んだ。

「あっ! お前また……」
「何もしないから」

 クロードはセルジュの匂いを嗅ぐように胸元に鼻を擦り付けた。

「いい夢見させてくれ」
「えぇ……」

 セルジュはなんとなく気恥ずかしくて一瞬視線を逸らした。しかし再びクロードを見下ろした時、彼はすでに気絶するように眠りへと落ちていた。

(早っ!)

 さっきまでのは一体何だったのか。セルジュは呆れてクロードの腕から抜け出そうとしたが、やはり考え直して彼の寝台に再び横になった。

(いつも通りに見えたけど、やっぱりすごく痛んでるんだ)

 エミールが居ないのは落ち着かなかったが、あの孫煩悩のカトリーヌならむしろ自分より完璧に彼の面倒を見てくれるだろう。

(まあ、たまにはこんな夜があってもいいか)

 半ば諦めたようにそう結論づけると、セルジュはクロードの綺麗な寝顔を見ながら自分も深い眠りへと落ちていった。
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