黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ

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十五話 面白そうだったから入れてみた

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「きゃあああああああ!」

 すさまじい女性の悲鳴が聞こえて、ウトウトと寝具の中で微睡んでいたセルジュはびっくりして跳ね起きた。

「何だ!?」
「いやああああ! クロード様!」

 よく聞くと聞き覚えのある女性の声だ。クロードも目を覚まして、寝ている間ずっとセルジュを抱きしめていた腕を解いて起き上がった。

「イザベルか?」
「えっ、東の?」

(どうしてクロードの寝室に彼女が?)

「私が入れたのさ」

 まるでセルジュの心の声を読んだかのように、エミールを抱いたカトリーヌがひょっこりドアから覗いてきた。

「母上、私のプライベートな部屋に勝手に他人を入れないでいただけますか?」
「いや、なんか面白そうだったから」

 セルジュは慌てて自分の服装を確認した。昨日クロードとシてそのまま寝てしまったので、ズボンはとても他人に見せられるような状態ではない。幸いシャツはパッと見綺麗なままだったので、セルジュは上半身だけ起こして、下半身は掛け布団で隠してやり過ごすことにした。

「オ、オーブリー伯爵、いつもこのような朝早くにお越しなのですか?」
「……もう昼過ぎですのよ」

(嘘だろ! 俺たちそんなにぐっすり寝こけてたのか?)

 唖然とするセルジュに対し、クロードはまるでいつものことだと言わんばかりに軽くあくびをしてみせた。

「どうしてうちに来た? 今週既に三回目だぞ」
「あ、あのようなことがありましたので、クロード様のことが心配で……」
「だったらこの通り元気にしてるから心配には及ばない」

 クロードにそう言われたイザベルはチラッとセルジュに視線を移すと、途端に目を白黒させた。

「あ、あなた、オメガだそうですけど、昨日はその、発情期かなにかでしたの?」
「え?」

 オメガ性の人間には月に一度、発情期と呼ばれる生殖に適した期間が存在する。発情期に入ると、大体一週間ほどオメガホルモンの分泌が活性化され、妊娠率が格段に上がる。その間オメガはアルファやベータの人間を欲情させるフェロモンを発し、自身もアルファやベータの人間を欲するのだ。

「い、いえ、発情期はまだ……」
「発情期でもないのに、お怪我を負ったクロード様に迫ったりなんかして! 恥ずかしくはありませんの?」
「ええっ?」

 迫られたの俺の方なんですけど。

「何でオメガのこいつから迫ったと思うんだ?」

 なぜかワクワクしているような表情でカトリーヌがイザベルに聞いた。

「だってクロード様のお怪我は、それはそれは酷いものだったんですよ! 私もその場にいたので間違いありません。そんな状態だったのにこんな……こんな破廉恥なことを自ら望まれるなんてとても思えません!」

(破廉恥って……)

 責められている状況にも関わらず、セルジュは思わず吹き出しそうになった。

(まだ若い領主だと聞いたが、彼女も未経験なんだろうか……)

「誤解です。昨日俺たちは疲れていたので、オーブリー伯爵が想像されているようなことはせずに眠ってしまったんです」

 なぜ自分がこんな弁解をしなければならないのか甚だ疑問ではあったが、それで場が丸く収まるならばとセルジュはそう説明した。実際最後まで致したわけではないので、あながち間違ってはいないはずだ。

「なんだ、そうなのか」

 不満そうに呟くカトリーヌをセルジュは心の中で睨んだ。

(この人は孫を増やすことにしか興味がないのか?)

「クロード様と同じ寝台で寝ておきながら、苦しい言い訳にもほどがありましてよ!」
「いやだから、二人ともぐっすり……」
「ではその首のキスマークをどう説明するおつもりですの?」
「えっ?」

 ポカンとしているセルジュを睨みつけながら、イザベルは自身の手鏡をさっと取り出し、鏡面をセルジュの方へと向けた。

「!!!」

 顎の下から首、鎖骨にかけて、白い肌の上に幾つもの丸い鬱血痕が残されている。セルジュが達した時に吸われていたと思われる首の痕は特に色濃く残されていて、その存在感を大きく主張していた。
 その時のことを思い出し、セルジュは顔から湯気が出そうなほど赤面した。

「えっと、これは……」
「俺のものだ」

 クロードが口を開けると、今までざわついていた部屋の中が急にしん、と静かになった。

「こいつは俺のものだという刻印を刻んだまでだ」

                  ◇◆◇

(クロードの奴、一体どうしてあんな事言ったんだろう……)

「クロード様はどうしてあんな事を……」

 また心の声を読まれたかのような発言にドキッとして振り向くと、ちょうどイザベルがすぐ後ろでため息をつくところだった。

「あ、オーブリー伯爵……」
「イザベルって呼んで」
「え?」
「別にあんたと仲良くしたいわけじゃないから。伯爵って呼ばれるのが嫌なだけ」

 イザベルはセルジュがエミールを抱いて座っているベンチの隣に腰掛けた。昼過ぎまで寝ていたにも関わらず、クロードはあの後再び気絶するように眠りに落ちたため、邪魔にならないようにとセルジュはエミールを連れて庭に出てきていた。

「あんた、クロード様とどういう関係なの? 彼と知り合って三年経つけど、あんたみたいなオメガの話、一度も聞いた事無かった。あんまりご自分のことを話されるような方じゃないって分かってるけど、それにしたっていきなり子供がいるなんて……」

 三年前とは、ちょうどセルジュとクロードが仲違いした時期である。

「俺とクロードは……三年前に大喧嘩して疎遠になってたんですが、それまではまあ、いわゆる幼馴染ってやつだったんです」
「幼馴染?」
「俺はステヴナン領のすぐそばにあった小さな村に住んでいたので、それで幼い頃に知り合って……」

 そう、セルジュは七歳の時に、当時五歳だったクロードと今は亡き故郷のフエリト村で初めて出会い、毎日のように一緒に遊ぶ仲となった。セルジュが十歳の時、当時二十歳のフランソワに騎士見習いとして取り立ててもらって王都に住むようになってからも、クロードはよくセルジュを尋ねて王都へ遊びに来ていた。三年前、セルジュが二十二歳になる年までは。

「どうして喧嘩なんかしたの?」
「あいつが俺の上官に怪我を負わせたんです」
「クロード様が? なぜ?」
「俺も詳しいことは分からなくて。フランソ……上官は、口論になってつい手が出ただけだから気にするなって。でも俺はどうしても許せなくて」

 フランソワの綺麗な額に無惨に付けられた傷跡と真っ赤な鮮血を思い出すたびに、セルジュは今でも胸がギュッと苦しくなる。大切な人が傷つけられたこと、それをやったのが自分の親友であったことに、あの日からずっと苦しめられていた。

「三年も前のことをまだ根に持ってるの? 別に大した傷じゃなかったんでしょ?」
「怪我したのが自分だったら俺だってここまで怒りは……」
「つまり、その人のこと好きなんでしょ」
「えっ」

 イザベルは使用人が出してくれた火鉢に手をかざしながら、指を咥えて大人しくセルジュの腕に収まっているエミールをじっと覗き込んだ。

「その子、本当に産んだ覚えないの?」
「はい、恥ずかしながら」
「じゃあさ、その子私にちょうだいよ」
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