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第45話

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一点の曇りもない美しくみ切った心のイリスお嬢様に、自分は深い悲しみの記憶を植え付けてしまった。ハリーは懸命に涙をこらえながら話した。彼の肩は明らかにふるえている。

「だから終わったことじゃないの?イリスも気にしてないと言っているわ」

済んでしまったことは仕方がないじゃない?奥様は温かい声で言った。ハリーは感極まって男泣きして、その場に崩れおちて床に横たわりました。

「ハリー……」

その様子を切ない眼差しで見ていたイリスは、彼はそんなことを考えていたのかと思い複雑な気持ちになって、静かすぎるほどの声で名前をつぶやく。

「イリス、ハリーをなぐさめてあげなさい」

奥様が娘に愛情深い声で言います。するとイリスは立ち上がってハリーのそばに近づき、身をかがめてハリーの頭を撫でてやった。

「……ん?なに?」

イリスは不思議そうな顔をして声を出した。母が身振り手振りを交えながら、何か自分に伝えようとしているのです。それはキスしなさいという指示をジェスチャーで行っているのだと理解する。

(はぁーっ、なんで私がキスしなきゃいけないのよ……)

イリスは母の命令に迷惑げな表情を浮かべて、心の中で深いため息をついた。そしてまあしょうがないかと、ほくそ笑んでほおに軽くキスをした。

「イリスお嬢様ああぁあぁあぁあぁああぁああぁあぁあぁぁぁーっ!!」

次の瞬間、ハリーが顔を涙だらけにして勢いよく抱きついてきた。実際はハリーはもう一度夫婦としてやり直したかった。ですが使の自分からはイリスには言いにくいというのがいつわらざる本心だった。

「え……!?ちょっとハリー?」

イリスは自分でもびっくりするような声が出た。かなり力強く抱きしめられて、動けないままだったので弱り切ったような感じでもありました。

ハリーは夢中になって抱きついているので、イリスの声は耳に入っていない。もう全身で喜びを感じて舞い上がった気持ちでした。そんな彼の姿を見ていると彼女もなんだか泣いてしまいそうだった。

「イリス良かったわね……ハリーと幸せになるのよ……」

奥様は、うんうんとうなずきながら目を細めて涙ぐまれたのであります。二人を豊かな心で見守って、ハリーと長い抱擁ほうようを交わしている娘の幸福な人生を願っていた。
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