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第46話

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「イリスお嬢様、おはようございます」
「おはようハリー」

二人は何事もなかったように、いつもの挨拶あいさつを交わしてハリーは使用人らしく軽く頭を下げながら笑顔を返した。イリスとハリーは付き合うことを選んだが、他の使用人には悟られないようにして今まで通り過ごすことを望んだのである。

「朝食の用意が出来ております」
「今日はなにかしら?」

今日はいつもより少し早い朝食を食べて、イリスはすぐに出かけなければならない。ハリーの言葉にイリスはなんとなく聞いた。

「お嬢様の好きな魚料理とチーズ、それに七面鳥など肉料理もございます」
「まあ、それは楽しみね」

ハリーは使としてまったく違和感なく自然に対応すると、イリスは明るい笑顔でそう言った。貴族は朝から結構ガッツリ食べて、普通にワインを飲みながら食事を楽しむのです。

「――今日はあの男と会うようだな?」

食事中、公爵家の当主が話し始めた。娘のイリスは予定があり、いわゆるお見合い相手の男と会うのだ。有力貴族層に名を連ねる相手で、いくら公爵家でも断りづらく冷静な判断で会う事にした。

当然ながらその男との今後の進展はないが、イリスを好きになったというに話だけでもという思いで応じてあげた。

ハリーは給仕係の女性たちと一緒に立って、ワインのおかわりを要求されて注いでいた。せた長身の元王子の男が、小柄な女性たちと一緒に並んでいるとみょうな感じがする。

「あのしつこい男と会うの?」

奥様が不機嫌ふきげん丸出しの険しい顔つきで喋る。奥様は昨日から、イリスとハリーが再び男女交際を始めた事はわかっている。さらに何かにつけて娘に言い寄ってくる男に大変な迷惑を感じていた。

「そうですけど、ただ話をするだけですよ」

案外平気な顔で答えるイリスに、ハリーは口を挟むわけにはいかないので黙って聞いている。イリスの父には、二人が交際を再開させたことは伝えていないのです。それは奥様の判断で、頃合いを見計らって話すと言われたので二人は従いました。

「でも強引なやり方をするってうわさになっていますよ?」

今日会うお見合い相手は、かなり荒っぽい口調が目立つ男だと奥様は心配そうな表情をした。なにか良からぬことを考えているかもしれない……。

「それならハリーを連れて行きますから安心してください」
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