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二十七 *直之視点

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「そ、それはまた………わ、私共の不運でしか無かったですな………しかし、もし私共と早く出会っておったら、と悔やまれて仕方ありませんわ………」

 直之は、豊信のこの言葉を聞き、ティーカップをソーサー毎持ち上げ、お茶を飲んだ。

「……………仕方ありませんね、私は貴方方、風祭家とは距離を置いてましたからね、会うのも避けていましたし」
「そ、それは………どういう意味で………」
「聞きたいですか?」
「え、えぇ…………」
「私は、藤原侯爵の事業に関わるのを避ける為です…………貴方は、前社長………風祭 貞継殿が亡くなってから、藤原侯爵と関係を持たれた。私はいけ好かない男が営む会社とは付き合わない性分でして………」

 直之がティーカップを戻し、テーブルにソーサー毎、テーブルに戻すと、また言葉を続けた。

「藤原侯爵が営む会社は高利貸し………利子も法外、回収も悪どく、私には人々を救済しているとは思えません………そして、風祭貿易も藤原侯爵から金を借りている………違いますか?」
「っ!」

 豊信の顔が青褪めていく。

「あ、貴方!そうなのですか!」
「お父様!どういう事!」
「協同事業も検討してみても良いですが?」

 香子や麗華に詰られる豊信であったが、何も言えずに固まっていたので、直之が再び豊信を動かした。

「っ!…………ほ、本当ですか!」
「但し…………」
「た、但し…………?」
「早急に藤原侯爵から借り入れた借金と、あと脱税疑惑もある貴方に、全て解決をご自分達で終えたら考えましょう」
「な、何ですと!」
「貴方!出来ますでしょう?」
「そうよ!お父様は頑張ってらっしゃるじゃない!」
「お父さん!俺が引き継ぐ会社を潰さないでくれよ!」
「……………」

 阿呆達の茶番劇が始まったので、直之は椅子に深く腰掛けて傍観し始めた。
 これからは、どんどん豊信達に破滅の道を歩んで貰わねばならない。

「む、無理だ!」
「何が無理なのよ!貴方!」
「沙弥…………」
「沙弥?沙弥ですって?」
「お姉様が何なの!」
「西園寺公爵!」
「……………何でしょう」
「私にはもう一人娘が居ります!その娘、如何しようもない阿婆擦れで、私がから受け継いだ遺産を持ち逃げしたのです!」

 さも、豊信は貞継を実父の様に言うが、直之も傍で控える智史、正芳も信じてはいない。そして、沙弥を阿婆擦れ扱いした事で、三人は苛立って行く。

「……………ほぉ……確か………沙弥、という名の令嬢が貴方に居ましたね………」
「そうなのです!沙弥は、育てて貰った恩を全く持たない娘でして、私が、沙弥の母親が産んで直ぐに死に、仕方なく育てた娘………責任を取って風祭の姓にしましたが、とんでもない娘なのです!警察や軍にも、探して欲しいと頭を下げましたが、全く見つからず………西園寺様も娘を探して頂く事は出来ないでしょうか!貴方は政の中枢にも顔が効くと聞きました!如何か、お願い致します!沙弥が戻れば、直ぐにでも借金返済と納税が出来るのです!の遺産を取り戻したいのです!」

 まぁ、よくも出るわ出るわの嘘八百の御託。嘘を嘘で塗り重ねて、それを自分の中で真実にしてしまっているかの様に話す豊信。

「智史………」
「はい、旦那様」
「……………」
「畏まりました」

 応接室の扉を開けて出て行く執事、智史。
 直之のこの行動で、おめでたい豊信は、協力してくれるのでは、と期待する。
 暫くして、智史と共に田辺が応接室に入って来ると、直之は長椅子に座り直した。

「先生、言音は取りました………執事の智史、家令の正芳、聞いたな?」
「はい、しかと」
「私も確認しました」
「そうですか…………それならば話は早く済みそうですね………お久しぶりでございます、豊信様」
「……………お、お前は………あ、いや……貴方は……田辺……先生……」
「今、私は風祭貿易の顧問弁護士から、西園寺財閥の顧問弁護士に就いておりまして、個人様にもとある方のご依頼で代理人をしております」

 香子や麗華、豊春には全く面識の無い田辺に、何故豊信が驚いているのか理解出来てはいない。

「紹介しますよ、私のの代理人をしてもらっています………この話には、彼が必要ですので、お呼びしておりました。先生、お願いします」
「はい…………風祭 豊信様……風祭 貞継様より遺言書について、開封する時期が参りましたので、この場で公表致します」
「な、何だと!沙弥が居ないのにか!」
「言いませんでした?田辺先生はだと…………一任されて此処に居るんです」
「……………沙弥は此処に居るのか!」
「続けて宜しいですか?」
「如何なんだ!答えろ!田辺!」
「お父様!それ本当なの!お姉様が此処に居るの?」
「貴方!探しましょう!連れ戻すのよね!」
「お父さん!」

 香子と麗華、豊春は、何が何だか分からない様子で、沙弥を連れて来させようと、立ち上がったのだが、応接室の扉の前では智史、正芳が立ち塞がっていた。

「お、お前………庭師として屋敷に居た男!」
「何ですって!豊春さん、それ本当なの!」
「そうだよ!コイツ庭木の剪定してたの見た!」
「煩い!黙って聞け!」
「「「!」」」

 直之の括がパニックになっている三人に浴びせられ、出られないからか大人しく一旦座ってくれた。
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