エレメント ウィザード

あさぎ

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第1章3部

届かぬ手

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 そこには、生徒会プリンシパルの2人、エリスに肩を借りたテオ、そして、シリアたち3人が集まっていた。ロイと菲耶フェイも自分の足で歩けるほど回復している。
 先ほどの叫びはシリアの声だった。セリカのケガの様子に取り乱しているのだろう。

 「その子を離しなさい!」

 シュリの怒号が響く。

 「そんなに怒るなよ。美人が台無しだぜ?」
 「っ貴様っ――!!」

 シュリを庇うように、前に出たアイバンも怒りを露わにした。

 「まぁまぁ。さっきの雷精霊トールの使役はスゴかったぜ?大したもんじゃねーか。でも、まだまだ諸刃の剣だな。」

 ファルナは、2人の呼吸がまだ乱れていることを目ざとく指摘した。

 「セリカを離してっ!今すぐ回復しないとっ!」
 「大丈夫だよ、おチビちゃん。こっちもせっかくの検体だ。殺しやしないさ。」
 「私はおチビじゃありませんっ!」
 「シリア、落ち着け!検体トハ、どういうことダ?」
 「さて、そこまで話す時間があるかな~?」
 「くっ!」

 アイバンは、ファルナたちに向けて詠唱の準備を始める。

 「おっと。そんなお荷物を抱えてオレたちに挑むのか?相手の力量をはかれないほど節穴じゃないだろ、生徒会プリンシパルってのは。」

 シュリは唇を噛んだ。実戦バトルクラスの生徒の保護は最優先だ。セリカを助けなければならない。しかし、こちら側にいる生徒も守らなければならない。
 1人が守って、1人が戦うか・・・。
 あの少年は何とかなるだろう。しかし、不気味な雰囲気を出すメガネの男は侮れない。そして、あの全身ローブの男からは危険な匂いしかしない。下手をすれば全滅だ。
 シュリの逡巡に、重たい沈黙がその場を支配する。

 「もういい?こっちも時間がないんだよ。」
 「待ちなさい。ケガをした無抵抗の女の子を人質に取って、恥ずかしくないの!?」
 「は?」
 「やり方が卑怯なのよ。自分たちは手を出さず、霊魔と傀儡かいらいを動かせて!何が目的なのっ!?」
 「うるせーな、あの女!ゼロ、殺しちゃおうよ。」
 「それに、あなたよ。その少年に何をしたの!?」
 「え、オレ?」
 「そうよ。あなた風精霊シルフ火精霊サラマンダーを使役したそうね。」
 「あぁ。あれは・・・モガモゴゴゴ――」
 「ストーップ!ガロ、余計な事を言うなよ。
 美人ちゃん、何の時間稼ぎかは知らないが、そんな質問に答えるほどヒマじゃないんだって。」

 (ちっ!せめて情報をと思ったが――!)

 シュリは小さく舌打ちをした。

 「まぁ、確かにケガをしている女を捕まえて逃げるオレたちと、それを咎める正義の味方って感じか?」
 「ファルナ?」
 「分かりやすい構図だよな。どこからどう見ても、オレたちがヴィランでオマエ達がヒーローだ。」
 「それがどうしたっ!!」

 アイバンが噛みつくように叫ぶ。

 「いや、間違っちゃーいねーよ。そもそも、正義の味方なんぞになりたいなんて思ってないし。
 でもさ、オマエたちが掲げる正義と、俺たちが望む結果っていうのは、本当に善と悪と言い切れるのか?」
 「どういうことだ?」
 「んー。まぁ、要は視点の問題だ。
 例えばだ。ここにいるケガをした嬢ちゃん。コイツをオレたちが預かることで、世界が救われるかもしれない、と言ったらどうする?」
 「は?」
 「例えばだよ♪」
 「そんな事、関係ないわ。ここの学園の生徒である以上、助けるに決まっているじゃない!」
 「まぁ、そうだよな。でも、今オマエがコイツを助けたことで、明日世界が消えるってなったら、オマエは責任を取れるのか?」

 急にトーンが低くなった乱暴な言葉に、シュリが一瞬怖気付く。そんなシュリの肩をアイバンが引き寄せた。

 「取れねーだろ?」

 眼光鋭いファルナの目の奥からは、深い闇が漂う。

 「何が正しくて、正しくないのかなんて、結局人の主観なんだよ。オマエたちが悪だと思うことが、全世界の奴らにとって悪とは限らない。
 オマエたちの正義の裏で、苦しみ死んでいく奴らもいるってことだ。」

 ファルナはガロの頭にポンと手を置いた。
 そして、今までの緊迫した空気とは真逆の笑顔でウィンクをして見せる。

 「ほら、オレたちだってこれからある街を救わなきゃいけないんだぜ!モンスターに荒らされて困ってるっていう街をな!」
 「オマエ、何の話をしてるんだよ!?」
 「ゲームの中の話だって。ほら!ゲームの中じゃぁ、オレたちはヒーローだぜ!?」
 「――っふざけやがって!」
 「そんなことはもういいから、セリカを離して!死んじゃうっ!!」

 ファルナの悦の入った会話を遮ったのは、シリアの叫び声だった。セリカの指がピクンと動く。

 「確かにこれ以上はやばいな。でも解放はしない。そろそろ行くぞ、ゼロ。」
 「逃がしません! ALL Element!土精霊ノームッ!」

 目に涙を溜めたシリアは、わき目もふらず手を地面に向け詠唱を唱えた。土精霊ノームの紋章が現れオレンジ色の光が辺りを照らす。

 「ダメよっ!」

 シュリが咄嗟にシリアの魔法を止めようとしたが間に合わない。
 パチンと指を鳴らした音がかすかに聞こえたが、シリアは構わず魔法を発現しようとした。
 しかし、胸にある式神を用意した時、ある異変に気付く。

 「え?」

 オレンジ色の光が次第に弱まり、詠唱したはずの紋章が消えてしまったのだ。

 「なん、で――?」

 目の前の現象にポカンとしてしまったのは、エリスやテオたちも同じだった。

 「シリアの唱えた紋章が――」
 「消えちまった?」

 その間に、ファルナたちの足元には風の魔法が発現されていた。セリカを連れた3人がフワッと宙に浮く。そしてゆっくりと高度を上げていった。

 「じゃぁな!なかなか、面白いもの見せてもらったぜ。」
 「フンッ!火精霊サラマンダー使い、今度会ったら殺してやるからなっ!」
 「くそっ!」

 ガロに指さされたテオは、ギリリと歯を食いしばった。

 「いやっ!ダメッ!ダメェェッ!!!セリカァッ!!!」

 シリアは飛び立とうとするファルナたちを走り追いかけ、手を伸ばした。
  しかし、その距離はどんどん遠くなっていった。
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