2 / 10
2
しおりを挟む
「サーラ!」
突然腕を掴まれ、ビクリとカラダが揺れる。
「ずいぶん上の空だな」
不機嫌そうに眉をしかめる夫に、「申し訳ございません」と答えると、夫はますます不機嫌そうな顔になった。
「…おまえは」
しかし、その後に言葉は続かず、フイッとそっぽを向くと、
「今夜はブリジットに会える」
と呟いた。
いったい、どういうことなのだろう。私を上の空だと詰りながら、自分は愛しいブリジットへ心を飛ばし、あろうことかそれをわざわざ口に出すなんて。あまりにも惨めで手がカタカタ震え出す。
ライアンが結婚すると言い出したが、それは両家の親が止めてくれた。不満そうなライアンを宥めたのも他ならぬブリジットだ。早く結婚して、私に何をさせるつもりだったのか。聞く気もないし、聞きたくもないし、未だにあの時の真意は聞いていない。
サーラが卒業すると同時に結婚し、そのままエインズワース侯爵家に入ることになった。ブリジットはまだ結婚しておらず、同じ屋根の下で暮らすことになる。
そして、式当夜。
「ブリジットが結婚するまでは初夜は待って欲しい」
一言だけ告げたライアンは、緊張で固まっていたサーラを見ることもなく出て行った。式から一年、未だに部屋への訪れはない。ブリジットも、つい2週間前に結婚したというのに。
いったいこの人は、何がしたかったのだろう。早く結婚したいとむくれてみたと思えば、いざ結婚したら夫婦の営みは拒絶する。式での誓いの口づけのみで、その後は触れようとすらしない。ブリジットとは何かにつけて触れあっていたくせに。
義理の両親は優しいが、式から一年経った最近、跡継ぎについてそれとなく話題にのぼらせるようになってきた。あなた方のご子息は私を抱いていないと、声を大にして言いたかった。あなた方のご子息は、義妹のブリジットが好きなのだと。
こんな惨めな想いをしながら、この先もこうして生きていかなければならないのだろうか。俯き、胃の痛みを堪えるうちに王宮に着いた。
馬車を降りると、雨は上がっていた。ライアンに手を出されそっと乗せたが、その時「お義兄様!」と声がして、…手を、振り払われた。
「ブリジット!」
嬉しそうに破顔したライアンは、サーラを振り向くことなく足早にブリジットへと歩を進める。サーラに気がついたブリジットは、ニッコリと微笑み、目の前のライアンに抱き付いた。
「ブリジット、今日は一段と美しいな」
「ありがとう、お義兄様も素敵よ!サーラ様、2週間ぶりね、こんばんは!」
ライアンの腕に手を添えたブリジットは、
「ねぇ、お義兄様、私今夜一人なの。ご一緒してもいい?」
「カールはどうしたんだ?」
「急な仕事で、どうしても抜けられないんですって」
「あいつの部署は、いま忙しいからな。わかった、一緒に来い。いつものようにダンスを楽しもう」
それを聞いたブリジットは、サーラを振り返り、
「でもサーラ様に悪いわ」
と言った。
「問題ないよな、サーラ」
有無を言わせない口調に、それ以上何が言えるだろう。
「はい、旦那様」
ライアンはブリジットをエスコートし会場へと入って行く。ブリジットは、もう人妻だと言うのに、さも当然のようにエスコートする、そしてダンスを踊る、という夫の気持ちがわからなかった。そんなにも私を蔑ろにしたいのだろうか。
案の定、周囲の視線が突き刺さる。居たたまれないまま壁の花となり、ファーストダンスを踊る二人を見るとはなしに見ていると、「サーラ」と声をかけられた。
「…お兄様」
あれ以来、疎遠になっていた兄に声を掛けられ、突然の再開に驚いていると、
「サーラ、おまえ、大丈夫なのか」
と言われた。兄の視線はフロアで踊る二人に向いている。
「大丈夫かと、言われても、」
兄は小さくため息をつくと、
「…あの時から変わっていないのだな」
と呟いた。
「いくら兄妹だからと、妻を後回しに妹と踊るなど、」
「仕方のないことです。あの人の目に、私は映っていないのですから」
そう言いながら、その言葉に更に惨めになった時、いままでにないほど、胃が締め付けられるような痛みに襲われ、目の前が暗くなる。
「サーラ!」
もう、イヤだ。もう、こんな惨めな想いをするのはイヤ。
突然腕を掴まれ、ビクリとカラダが揺れる。
「ずいぶん上の空だな」
不機嫌そうに眉をしかめる夫に、「申し訳ございません」と答えると、夫はますます不機嫌そうな顔になった。
「…おまえは」
しかし、その後に言葉は続かず、フイッとそっぽを向くと、
「今夜はブリジットに会える」
と呟いた。
いったい、どういうことなのだろう。私を上の空だと詰りながら、自分は愛しいブリジットへ心を飛ばし、あろうことかそれをわざわざ口に出すなんて。あまりにも惨めで手がカタカタ震え出す。
ライアンが結婚すると言い出したが、それは両家の親が止めてくれた。不満そうなライアンを宥めたのも他ならぬブリジットだ。早く結婚して、私に何をさせるつもりだったのか。聞く気もないし、聞きたくもないし、未だにあの時の真意は聞いていない。
サーラが卒業すると同時に結婚し、そのままエインズワース侯爵家に入ることになった。ブリジットはまだ結婚しておらず、同じ屋根の下で暮らすことになる。
そして、式当夜。
「ブリジットが結婚するまでは初夜は待って欲しい」
一言だけ告げたライアンは、緊張で固まっていたサーラを見ることもなく出て行った。式から一年、未だに部屋への訪れはない。ブリジットも、つい2週間前に結婚したというのに。
いったいこの人は、何がしたかったのだろう。早く結婚したいとむくれてみたと思えば、いざ結婚したら夫婦の営みは拒絶する。式での誓いの口づけのみで、その後は触れようとすらしない。ブリジットとは何かにつけて触れあっていたくせに。
義理の両親は優しいが、式から一年経った最近、跡継ぎについてそれとなく話題にのぼらせるようになってきた。あなた方のご子息は私を抱いていないと、声を大にして言いたかった。あなた方のご子息は、義妹のブリジットが好きなのだと。
こんな惨めな想いをしながら、この先もこうして生きていかなければならないのだろうか。俯き、胃の痛みを堪えるうちに王宮に着いた。
馬車を降りると、雨は上がっていた。ライアンに手を出されそっと乗せたが、その時「お義兄様!」と声がして、…手を、振り払われた。
「ブリジット!」
嬉しそうに破顔したライアンは、サーラを振り向くことなく足早にブリジットへと歩を進める。サーラに気がついたブリジットは、ニッコリと微笑み、目の前のライアンに抱き付いた。
「ブリジット、今日は一段と美しいな」
「ありがとう、お義兄様も素敵よ!サーラ様、2週間ぶりね、こんばんは!」
ライアンの腕に手を添えたブリジットは、
「ねぇ、お義兄様、私今夜一人なの。ご一緒してもいい?」
「カールはどうしたんだ?」
「急な仕事で、どうしても抜けられないんですって」
「あいつの部署は、いま忙しいからな。わかった、一緒に来い。いつものようにダンスを楽しもう」
それを聞いたブリジットは、サーラを振り返り、
「でもサーラ様に悪いわ」
と言った。
「問題ないよな、サーラ」
有無を言わせない口調に、それ以上何が言えるだろう。
「はい、旦那様」
ライアンはブリジットをエスコートし会場へと入って行く。ブリジットは、もう人妻だと言うのに、さも当然のようにエスコートする、そしてダンスを踊る、という夫の気持ちがわからなかった。そんなにも私を蔑ろにしたいのだろうか。
案の定、周囲の視線が突き刺さる。居たたまれないまま壁の花となり、ファーストダンスを踊る二人を見るとはなしに見ていると、「サーラ」と声をかけられた。
「…お兄様」
あれ以来、疎遠になっていた兄に声を掛けられ、突然の再開に驚いていると、
「サーラ、おまえ、大丈夫なのか」
と言われた。兄の視線はフロアで踊る二人に向いている。
「大丈夫かと、言われても、」
兄は小さくため息をつくと、
「…あの時から変わっていないのだな」
と呟いた。
「いくら兄妹だからと、妻を後回しに妹と踊るなど、」
「仕方のないことです。あの人の目に、私は映っていないのですから」
そう言いながら、その言葉に更に惨めになった時、いままでにないほど、胃が締め付けられるような痛みに襲われ、目の前が暗くなる。
「サーラ!」
もう、イヤだ。もう、こんな惨めな想いをするのはイヤ。
88
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。
※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる